「こんなドレスは嫌ああああああ」エメラルドは、デビュタント用のドレスを見て大声を上げた。多関節蛇腹型構造搭載式、女性型完全思考同期型装甲巨兵(ドレス)、”シェヘラザード”、見参。
「こんなドレスは、嫌ああああああ」
侯爵令嬢、”エメラルド・ハイランド”は大声を上げた。
御年12歳、シャコウカイのデビュタント用のドレスが気に入らないようだ。
このドレスは、ブトウカイにも使用される。
これが終われば、大人の仲間入りだ。
「お嬢様……」
年かさのメイドが困った顔をしながら、上を見上げた。
「嫌よ。いやいやいや」
「どうしたんだい、僕の可愛い子猫ちゃ~ん」
”サ〇ーちゃんのパパ”ばりの”カイゼルひげ”をした男性が優しい声を出す。
「あっ。お父様っ」
「このドレスは、怖いからいやっ」
「アクアマリンちゃんみたいに、白くてスカートがいいっ」
「ごめんよう~。 侯爵家は貧乏だから別のは買えないよう~」
パパは、エメラルドを優しく抱きしめる。
◆
思考完全同期型、装甲巨兵”シェヘラザード”
彼女が、デビュタントで纏うドレスの名前である。
ドレッサーの名門、ハイランド家が誇る
”ラミア型巨大ロボット、シェヘラザード”
頭には、大きなボンネット型の帽子をかぶり、目をつぶった美女の顔の口元を薄絹が隠す。
鎧に隠されているスタイルのよいボディ。
長大な”デスサイズ”は、何物も寄せ付けない魅力を醸し出す。
最も特徴的な、多関節蛇腹型構造の下半身は、城壁を登ったり、水面を泳ぐことが可能である。
この複雑な下半身を制御するには”思考完全同期型”でなければならず、同じ理由で新しく作るには軽く、この国の国家予算三年分が必要、と言われている。
ちなみに、”思考完全同期型”は乗り込むと正に、ドレスをまとったような感覚になる。
思考完全同期型の装甲巨兵が、男性型では、”スーツ”、女性型では”ドレス”を纏うと言われる所以である。
本来の色は、黒に金の螺鈿細工だったが、エメラルドの希望により、白に銀の螺鈿細工になっている。
重厚さは減ったが、神聖さがいや増す神秘的な機体となった。
◆
エメラルドの”社甲会”のデビュタントは、華やかなものになった。
国中の装甲巨兵が集まった、国王陛下の御前試合である、”武闘会”では、
同じくドレッサーの名門、”アクアマリン”が駆る白いドレス、”ホーリーメイデン”をデスサイズで圧勝。
決勝戦では、この国の騎士団長のスート”シルバーナイト”を多関節蛇腹型構造を巻き付けて完封したのである。
「エメラルドちゃ~ん、ウオッ。 ウオッ。」
会場は、デビュタントしたての若い乙女に沸きに沸いた。
賞賛の声と歓声で、会場自体が揺れる。
国王陛下ですら、立ち上がって拍手をした。
「よくやったよ~。 立派だった~」
パパが、涙を浮かべながらエメラルドを抱きしめる。
しかし、
”思考完全同期型”の”シェヘラザード”を纏っているとき、搭乗者の下半身の感覚は、多関節蛇腹型構造のものとなる。
「……でもね。 お父様、私、へびが大嫌いなの……」
エメラルドは、何かとても大切なものを無くしたような顔をした後、吹っ切れた笑みを浮かべた。
大人の階段は、このようにして上るのだ。 ウオッ。 ウオッ。
装甲お嬢様シリーズ第一弾。