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第8話 勇者アレックス

(勇者アレックス視点)


僕は生まれた瞬間から『勇者』だった。

ステータスに書かれたその『勇者』という文字で、僕の人生は自分で選ぶことなく決まっていたのだ。

だから、最初はいつか『魔王』を倒せるのだと思っていた。

だが、何度やっても敵わない、それでも『勇者』だから『魔王』を倒せと言われる。

仲間が死んでも、僕はなぜか一人生き残る。

何度やっても僕だけが死なない。

何度やっても僕だけは死ねない。

……そのうちに仲間を連れて行くのをやめた。


そんな時、ホワイティアに出会った。

ホワイティアは作り物の様に美しく、僕は『神様』である彼女に願い続けた。

『魔王』を倒せるように。

僕は魔王城の攻略の前には必ず神殿に行った。


最初にホワイティアを見た時はその美しさに心を奪われた。

こんなにも美しい人間がいるわけがない。

銀糸の髪はキラキラと光をまとって彼女が動く度に、サラサラと流れ落ち舞い踊る。

長いまつ毛に縁どられた大きな赤い目は澄んでいる。

ほくろさえ見つけられないくらいの真っ白な肌。

そして美しい翼がふるふると動いた。

人であらざる者故の畏怖なのか……僕は神官に追い出されるまでそこでホワイティアを眺めてた。


ホワイティアはいつも優しく微笑んでいるが、最初の頃はその瞳に感情がこもる事は無かった。

だけど、僕には何度も神殿に通う内にだんだん彼女が『神様』ではなく『人間』に見えてきたのだ。

そして、その華奢な足首に填まった足枷を痛々しいと思う様になる。


◇◇◇


ある日、僕は神官の目を盗んで格子の間から右手を入れた。

ホワイティアは小さく首を傾げた。

ホワイティアに触れてみたかった。

だけどホワイティアは手を伸ばしても届かない場所から動かない。

あと1歩か2歩の距離が遠い。

僕は神官から言葉を発してはいけないと言われていたし、神殿は静かな場所だった。

僕は右手の平を上にして差し出したままその赤い瞳を見つめ続けた。


◇◇◇


その日も神官はホワイティアの世話係と何か話をはじめた。

長く格子の前にたたずむ僕に意識は向いていない。

僕はそっと格子の中に右手を入れる。

ホワイティアはやはり『あと2歩の距離』から、差し出された僕の手のひらを見ていた。

僕は手のひらを一度握りしめ下にひっくり返す。

そして、右手の中指で袖からそっと丸めたものを引っ張りだす。

そして手のひらを上に向けて開いた。

ぱっと仕掛けてあった赤い紙の花が手の平の上で綺麗に開いた。

簡単な仕掛けだが、何もなかった手の中に突然赤い花が咲いたように見えたはずだ。

ホワイティアは目を丸くした。

そして手の中の花に手を伸ばした――。

そして笑ったのだ。

その笑顔はいつもの神々しい微笑みではなかった。

僕はその笑顔に恋をした……。


その日からホワイティアは『あと2歩の距離』をあけなくなった。

――僕はそっと彼女の手を握り祈る。


◇◇◇


国王は魔王を倒せば、何でも与えると僕に言った。

だから、僕はホワイティアの自由を望んだ。

だが国王は言った。

「籠の鳥は外の世界では生きられない」

僕はそうであっても、彼女の自由を望んだ。


僕は彼女に願った。

僕が『魔王』を倒し、ホワイティアを自由にする未来を。

僕はホワイティアの為に、がむしゃらに魔王を倒そうと努力し続けた……。

国王はそんな僕に何かを思ったのか、僕がホワイティアに触れても神殿の神官が注意することがなくなった。


◇◇◇


そうして数年の月日が流れた。

僕は『勇者』であることに疲れ果てていた。


神殿で最後にホワイティアを見た日……。

その日だけは僕は別の願いをした。


ホワイティアにいっそ魔王を倒す役目が無くなればいいと願った。

魔王を倒すまで一生続く戦いだ。

でも、どんなにやっても魔王に勝てる気がしない。

『勇者』であることをやめたい。

本当はもう『魔王の城の攻略』になど行きたくない。


そう願った日が、ホワイティアを見る最後になるなんて僕は思わなかった。


そして、ホワイティアの居るオリビアの街が魔王に襲撃されたと聞いたのは、僕が『魔王の城の攻略』に失敗して傷を負い街に戻った直後だった。

ホワイティアが魔王に殺されたと聞いた時、僕の『魔王を倒す理由』は憎しみへと変化した。


僕は国王からホワイティアの物で唯一残っていた物を形見としてもらった。

『足枷の鍵』だ。

それは、僕が彼女を解放できなかった証拠のようで悲しい。

いつか魔王を倒して、あの足枷を僕の手で外してあげたかったのだ。

僕は『足枷の鍵』を鎖に通し、首から下げた。

そしてその鍵に誓った。

いつか『魔王』を倒すと……。

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