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第7話 オリビアの街

 ご飯を食べ終わったら、サキちゃんはアレクの所に連れて行ってくれた。

最初にここに来た時に私が座りそびれた大きな部屋のソファにアレクは座っていた。

ソファの側にクレバーが立っていて、手にもった書類に文字を書き込んでいる。

ソファの前のローテーブルには地図と書類が散乱していた。

そして、魔物がひっきりなしに部屋を出入りして、忙しそうだ。

アレクは私に気づくと手招きした。

私がアレクのそばにサキちゃんと歩いていく。

三人くらい座れる豪華なソファの真ん中に座っていたアレクはちょっと右側に移動して、左側を空けてそこを指で示した。

そこに座ればいいらしい。

私がそこに座ると、クレバーがファイルから視線を上げてちらっとこちらを見た。

お仕事の邪魔かな?

私はクレバーが何か言うかと思ったけど、クレバーは何も言わなかった。

サキちゃんはじゃあね。と言って部屋を出ていってしまった。

私はどうすればいいんだろうと思ったら、アレクに引き寄せられた。

そして、アレクはクレバーや魔物とやり取りをしながら私の髪をブラシで梳かしはじめた。

はわわわわわ。

私は忙しいアレクに無理を言った事に気がついた。

確かに朝と晩に髪を梳かすと言ったのだ。

アレクがこんな風に偉い立場で、しかも忙しい人だとは知らなかったのだ。


「この街はどうする?」

クレバーが地図を指さしながら、アレクに尋ねる。

「ここは放置でいいだろう」

「こっちは大分状況がよくない」

「そこは対応しろ」

アレクは櫛をもったまま地図や書類をのぞき込み淡々と指示をだし、クレバーはそれをメモしながら、さらに魔物に指示を出している。

私はアレクに話しかけてもいいのかわからなくて、とりあえず切りが良いところで髪を梳かすのを断わろうと思った。

その間もアレクは丁寧に毛先から順番に私の髪を梳かす。

「勇者がまた城に向かっているらしい」

クレバーが難しい顔でいうと、櫛を持ったアレクの手がぴたりと止まった。

「復活が早いな……面倒だ。城の守りを強化しろ」


勇者と聞いて、私は勇者アレックスの顔を思い浮かべた。

彼は勇者だから頻繁に神殿を訪れた。

彼には特に『神様』として振る舞うようにと、私は神官にいわれていた。

だから、彼と話をしたことはない。

彼はいつも格子の前に跪き、格子に腕を差し入れる。

他の人が格子の中に手を入れると神官は注意をしたが、『勇者アレックス』は神殿にとって特別なお客さまだったらしい。

私が近づいて手を出すと、勇者は私の手を握り一心不乱にお祈りして帰って行った。

彼の手は大きくて固くて暖かい。

私は『神様じゃない私』にお祈りしても何も願いが叶わない事を知っていたので、頻繁に神殿に訪れて私に祈りをささげる彼にいつも申し訳ないと思っていた。

だから、もし神様がいるなら彼の願いを私の代わりに叶えてあげて欲しい。いつもそう願っていた。

神殿に『ホワイティア』が居なくなったら……彼は今度は別の『神様』に祈るのだろうか?

私はそれを少し寂しく思った。


 クレバーがさらにアレクに言った。

「オリビアの街は朝から人が戻りつつある。神殿がエンジュについて騒いでいるようだ」

オリビアはエンジュが居た神殿のある街だ。

「人間が残っていたから、魔王が殺したと言っておけ」

アレクはそう言いながら、私を覗き込んだ。

「神殿に戻りたいか?」

私はふるふると首を横に振った。

右足にはまだ重い足枷がついたままだ。

長く重い鎖はもうないが、足枷だけでもかなり重い。

もう鎖を引きずりながら歩くのも、格子ごしに人に見られて生活するのも嫌だった。

「オリビアの街は何故、人が居なくなっていたの?」

私は気になって聞いた。

「オリビアの襲撃はもともと物資の調達が目的だったから、死にたくなければ襲撃の日までに街を出ろと事前にアナウンスしていた。その方が手間がない」

人を殺す事はアレクにとって何でもない事のようだ。

「人を殺すのはどうして?」

私はおそるおそる聞いた。

アレクは少し考えた後で答えた。

「それが必要な事だからだ。人がなぜ魔物を殺すのか考えた事はあるか?」

「考えた事がない……食べる為?」

「人間もすべての魔物を食べるわけではない。人間も『魔物を殺す必要がある』から殺しているだけだ。何も変わらない。」

私には理解できなかったけど、アレクはたぶん人間を殺したくて殺しているわけではないみたいだ。

だって髪を梳かすアレクの手はとても優しいのだから……。

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