第2話 おそろい
神殿から人が居なくなってどれくらいたったのだろう……。
お腹が減った。
もしかして私は何も食べれないのだろうか?
それはつらいな。
私はベッドに横になる。
外が騒がしくなったようだ。
人が戻って来たならいいな。
私は起き上がり、部屋の前面の格子の方に向かった。
いつもなら神官がうろうろしている、その格子の向こうの部屋に緑色の人の様な者がいっぱいいた。
ぎゃっぎゃっと奇声を発している。
魔物だ。
魔物は格子の隙間から手を伸ばしてくる。
私はずりずりと後ずさった。
この部屋の扉は鍵が閉まっている。
多分入ってこないだろう……。
◇◇◇
どれくらい経ったのか……。
寝てしまっていたらしい。
起きたら、ベッドの側に男の人がたっていた。
私はその男の人を見上げた。
頭に角が生えている。
私はその角を見て嬉しくなった。
角が生えているのだ!
つまり私と同じ様に人とは違う物が生えてる。
私はそんな人間をはじめて見た。
「仲間だね」
私が、にこっと笑ってそう言うと、その男の人は酷く驚いた。
そして私を見つめ続けた。
「それはどうしますか?」
もう一人部屋に居たらしい。
私は、そちらを見て驚いた。
魔物だ!
魔物が人間の様に二本足で立って、服を着て、話をしているのだ!
顔も手もふさふさとした毛皮で覆われている。
ライオン?の獣人のようだ。
身長は二メートルを越えている。
この人もある意味私の仲間だろうか?
私は首を傾げた。
ライオンの獣人は、人間よりもライオン寄りなのだ。
だが、隣に居る人はほとんど人。
頭の上に二本の『つの』が生えてるだけ、だから私の仲間だ。
しかも紅い目……なんと目もおそろいじゃないか!
私は初めて同じ紅い目の人に出会えた事が嬉しくて、羽をぱたぱたした。
そうしたら、お腹がくぅっと鳴った。
私は恥ずかしくなって、赤くなりながらお腹を押さえた。
その人は無表情のままじっと私を眺めていた。
「俺が飼う」
「「はっ?!」」
飼うの? 私の事を?
私とライオンの獣人はびっくりして、その『角の生えた人』を見た。
そして、その『角の生えた人』は私に林檎を差し出した。
くれるのかな?
私はおそるおそる右手の平を出した。
その人は私の手のひらの上に林檎をぽんと置いた。
「ありがとう……食べてもいいのですか?」
その『角の生えた人』がうなずくのと同時に、私はその林檎にかじりついた。
すごくいい香りがして、我慢ができずに私は皮のついたままの林檎を夢中で食べた。
お行儀なんて言っていられない程に空腹だったのだ。
神官がもしこの場に居たら飛んできて注意されている。
でも、今はお小言を言う神官やお世話係は居ない。
食べ終わると手がべたべたした。
私は手を洗うためにベッドから降りる。
そして部屋の隅にある水瓶の方に歩きだした。
右足の足枷には長い鎖がつながっている。
私はいつもの様にじゃらじゃらずるずると鎖を引きずりながら歩く。
右足に填まった足枷も、足枷の鎖も重い。
いつもならお世話係の人が鎖をもってついてきてくれた。
今はひきずるしかなくて……足が重い。
ゆっくりと鎖の音をたてながら移動する私を『角の生えた人』は、まだじっと見ている。
『角の生えた人』が、ベッドのそばに落ちている私の足枷の鎖を手に取った。
そして、……両手でもって引きちぎったのだ!
鎖のひとパーツがさっきの林檎くらいの大きさがある重い鎖だ。
まさか引きちぎれる人間が居るなんて誰も思わないだろう。
「すごい」
私がびっくりして誉めると、その『角の生えた人』はちょっと照れた。
私は羽をパタパタしながら、鎖の重さから解放された事を喜んだ。
足枷だけでも重いが、鎖をひきずりながら歩くのは苦痛だった。
私が『角の生えた人』に近づくとさらに足枷の根本でチェーンをちぎってくれた。
「ありがとうございます!」
私はさらに羽をパタパタしながらにっこり笑う。
そしてそんな様子を見ていた、ライオン獣人がため息を吐きながら言った。
「飼うんなら魔王さまがちゃんと面倒みてくださいね?」
その角の生えた人はマオーという名前らしい。
そして、私はマオーに抱き上げられた。
私がびっくりしている間に神殿の外に連れ出された。
そして、大きな魔物に乗って空を飛んだのだ。
外は神殿の中よりも清浄な空気で、そしてどこまでもどこまでも広がっている。
どこにも壁も柵もなく、上空から見た世界はすごく広かった。
私は嬉しくて羽をぱたぱたしたかったけど、マオーに抱っこされていたから、必死でぱたぱたを我慢して羽を畳んだままにした。