第14話 この世界のことわり2
(エンジュ視点)
目が覚めたとき私は誰かに抱きかかえられていた。
だから最初はアレクだと思ったのだ。
だが違和感を感じて顔をみた私はびっくりした。
「勇者アレックス……。」
そして、足元に深々と剣の刺さったアレクがいた。
ひゅっ。
うまく空気が吸えなくて、私の喉が変な音をたてた。
「無事でよかった。ホワイティア」
勇者が神殿での私の名を呼んだ。
今はもうそのホワイティアという名は、他人の名前のように感じた。
勇者アレックスが何故ここに居るのか……。
そうだクレバーが『勇者がここに向かっている』と言っていた。
勇者アレックスはアレクの敵なのだ!
アレクが魔法の詠唱をはじめて、勇者はさらにアレクに剣を向けた。
「やめて! アレク!」
私は、アレクを庇おうと勇者の腕を振り切って、アレクの前に身を投げ出した。
「エンジュ……」
「アレク! 剣が! 剣が刺さってるわ!」
私はパニックをおこして泣き出した。
「ホワイティア、私は貴女を助けに来たのです! その男は極悪非道な魔王なのです!」
勇者が私に向かって叫んだ。
「違うわ! アレクは……マオーは私を神殿から出してくれた王子さまなのよ。……酷い。こんな酷い事をするなんて!」
私は勇者をにらみつけた。
「ホワイティア! 貴女はその男に騙されているんだ!」
勇者はなおも言い募る。
「私はマオーのペットなの! 神殿には戻らないわ!」
その間にアレクは自分で剣を抜き、回復魔法を唱えた。
そして私を抱きかかえた。
「形勢逆転だ。エンジュさえ手もとに居れば、貴様など、敵ではない」
アレクは鼻で笑い、魔法の詠唱をはじめる。
「アレクも駄目っ! 何で戦うの?!」
「ホワイティア……その男は魔王なんです! 魔物を操り、人間に害をなす。私は魔王を倒して、貴女を神殿から解放するつもりでした!」
勇者アレックスは剣を構えたまま私に言った。
アレクは魔法の詠唱は止めたが、その代わりに自分に刺さってた勇者の剣を構えている。
「勇者が魔王を倒しにくるのは、『この世界のことわり』だ」
アレクは言った。
「『この世界のことわり』って何?! 何でマオーを倒すの?!」
「魔王を倒さないと、人間が滅ぼされてしまいます」
勇者は叫ぶ。
「馬鹿馬鹿しい。人間が居ないと困る事が多いから、魔王はそんな事はしない」
アレクはため息を吐いた。
「そんなことはしない? ……そんな馬鹿な!」
勇者アレックスは混乱している。
「そもそも、俺は勇者が魔王城に挑んでくるから対応しているだけだ。毎回殺さずに城外に出している」
勇者アレックスは混乱している。
「だが! ……だが、魔物を操り人間に害をなしているのは魔王だ! 僕は魔王を倒さなければならない!」
「そもそも魔物の半分は知能が低くて意志疎通が取れないから管理していない。そのあたりは魔王の管轄外だ。魔王と言ったところで大したことはしていない」
勇者アレックスは混乱している。
「つまり、私が魔王に挑んでも挑まなくても何も変わらない……?」
「魔王を倒せば、リポップするまでは魔王の居ない世界になる。それが勇者の存在意義だろう? だから勇者は魔王に挑み続ける」
アレクは何で今さらそんなことを聞くのかと首を捻る。
勇者アレックスは混乱している。
「リポップ?」
「魔王は倒されても、一定期間で復活する。魔王が復活すると、それを倒す勇者が人間の腹から生まれ落ちる。そしてまた、勇者は魔王を倒すまで挑み続ける。ひたすら繰り返される、それが『この世界のことわり』だ」
「そんな馬鹿なこと!」
勇者アレックスは混乱している。
「魔王がいつも僕を殺さないのは……つまり……そういうことなのか?」
「殺したところで、次の勇者が生まれ落ちるだけだ。今代の勇者は弱くて対応しやすいから生かしておいた方が俺は長生きができる」
勇者アレックスは戦意を喪失した。
「僕が今まで必死でやってきたことの意味は……」
勇者が構えていた剣を下ろした。




