第13話 この世界のことわり
(アレク視点)
俺は鏡を眺めた。
死に向かうエンジュを助けたくて、対価として支払った物。
右の角の先。
ほんの少しだけだ、だが左右のバランスが非対称になったために酷く目につく。
無様だ。
そして、力はそこから止めどなく流れだしている。
開きっぱなしの蛇口の様に。
だから、勇者が来たタイミングが悪かったのだ。
例の魔方陣を起動してから数日、俺は角を削られたせいで絶不調。
いつもなら死なない程度に適当に魔法を打ち込んで、城の外に放りだしておく弱小勇者なのに……。
いつもの様に、城の守りを固めて勇者を城に入れない様にしていた。
その日に限ってあっさり突破されて、城に侵入してきた。
クレバーとサキはいつもの様に早めに下げた。
知能がない魔物がいくら倒されても、俺が心を痛める事はない。
だが、彼らは俺と話ができる程の知能がある数少ない魔物だ。
そして魔王である自分と違い、リポップ(復活)しないただの魔物なのだ。
戦力として使うことはない。
城の中に入ってきた勇者はなぜかいつもより強かった。
もっとも、自分が角の損傷の為にどうしょうもなく弱体化しているのだか……。
勇者はあっという間に配置した魔物を蹴散らして、魔王の部屋まで到達した。
そうなると奥にあるエンジュの居る部屋を守らなければいけないと、俺は勇者からの攻撃を避ける事ができなくなった。
そして、エンジュを人質にとられた。
勇者はエンジュを魔方陣から動かしてしまったのだ。
殺してやろう。
いつもなら勇者は殺さない。
勇者を殺すと、『次の勇者』が人間の腹から生まれるのだ。
どうせ世界には常時『勇者』が一人存在するのが『この世界のことわり』なのだ。
今代の勇者は弱小であしらい易い。
だから殺さずに世界に置いておけば、魔王が倒される事がない。
『この世界のことわり』は世界の均衡を守っているのだ。
だから『魔王』は倒されても一定期間でリポップ(復活)するのだ。
『魔王』も『勇者』も世界の構成要素でしかない。
そして、俺が『勇者への殺意』を持って、魔法の詠唱をはじめた時に、エンジュの意識が戻った。




