第12話 対価
(アレク視点)
魔王城にリッカルドを連れて戻る。
リッカルドはエンジュを見ると、ふーんと言った。
「魔王って寿命どれくらいです?」
「魔王に寿命などない。倒されてもそのうち復活するだけだ」
「じゃあいいか……」
何やらリッカルドは勝手に納得して、布を広げた。
俺はなぜそんな事を聞くんだと問うたがリッカルドは無視した。
そして、その布の上にエンジュを寝かせる様に言った。
俺は苦しそうなエンジュが心配で周りをうろうろしていた。
そうするとリッカルドは鬱陶しそうに言った。
「布を踏まないで下さい。俺もこれ踏んだままうっかり起動して不老不死になったんですから」
「何をしようとしてるんだ?!」
「だから、死なない様に。言ったでしょう? これはこの子の寿命なのだと」
この男が規格外なのは知っていたが……ろくでもなかった。
それは神の領域だ。
「そもそも前に魔王と会ったのも、もう百年以上前でしょ? 何で人間の俺がまだあそこに居ると思ったんだか」
リッカルドは楽しそうに笑った。
この布に描かれた魔方陣は、①正常な状態を維持するように体を書きかえる。②体を正常な状態に修復。③目が覚めたら正常な状態を維持し続けるらしい。
つまり人間を不老不死にする魔方陣だという。
俺はとんでもない人間に頼んでしまったらしい。
そして、リッカルドは布に描かれた魔方陣を起動してみせた。
エンジュの苦しそうだった呼吸が平静になっていく。
「目が覚めるまで長いときで1ヶ月くらい? 目が覚めるまでは彼女を絶対に動かさないように。魔方陣はそのうち回収に来ます」
そして、リッカルドはにやりと笑って言った。
「じゃあ対価を」
ノコギリの様なギザギザがついた歯でゴリゴリと角を削られる。
リッカルドは酷く楽しそうだ。
「『魔王の角』なんて『賢者の石』くらいの価値かな?」
鼻歌でも歌いそうな機嫌で容赦なく角を削る。
俺は痛みでのたうち回りそうになる体を必死で抑える。
脂汗が滲みでる。
角を削るのは頭蓋骨に穴を空けられている様に頭に響く……。
魔王の力の源である角を削っているのだ、削った場所から魔力が流れでる。
それはまるで桶の底の穴だ。
水が容器に空いた穴に吸い込まれ零れ落ちる様に似ていた。
体から魔力が流れでていく……。
角を削られてぐったりしている俺を残し、リッカルドは帰ると消えた。




