第1話 足枷
なぜそうなったかなんて私は知らない。
私は村では気持ち悪い、人外だ、獣だと罵られた。
父と母は私を隠す様に育てた。
そのうち家でも村でもないところに運ばれた。
神殿では、私は神様と崇められた。
父と母とは二度と会うことが無かった。
今まで着たことの無い上質な服、食べ物。
だけど、右足には足枷が嵌まっていた。
重い鎖をじゃらじゃらずるずると引きずり、部屋の中を移動する。
窓には格子が嵌まっている。
部屋の前面も格子だ。
私はどこに居ても自由などない。
私が普通の人間とは違うから。
だから私の世界はこの部屋の中だけ――。
◇◇◇
――その日街には誰も居なくなった。
多分、最初に偉い人が居なくなってしまったのだろう。
私のお世話係と顔見知りの神官が、私の足枷の鍵を探してくれた。
だけど鍵は見つからない。
どうしても外せないこの部厚い足枷に、みんなあきらめて私を置いて部屋をでていった。
最後まで鍵を探してくれた、私のお世話係の女性が青ざめた顔で言った。
「私が、鍵を持って戻ってきます」
私はうなずいた。
そして、私は置いて行かないでとすがりつくこともせずに、彼女が部屋を出ていくのを見ていた。
そもそも何故みんな神殿から居なくなったのか知らないのだ。
誰も彼も私に何の説明もしてくれなかった。
――そして、静けさだけが私を包んだ。
私は目の前にある姿見を眺めた。
日の光を浴びない為に、真っ白な肌。
細い手足。
そして、まず目をひく赤い目。
……魔物の様だと言われる赤い目。
毎日世話をしてくれた女性がひたすらに櫛を通してくれた髪は、ここに来てからほとんど切った事がない。
だから、すでに腰より長い。
艶やかな銀髪。
他の人に比べると全体的に色素が薄いのだ。
だからより一層、赤い目が目立つ。
そして背中から生えた白い翼。
軽くパタパタと羽ばたいてみる。
飛べはしないのに何故翼が生えているのだろう。
翼が生えた人間は自分以外に見たことが無かった。
村では赤い目も翼も厭われていたが……。
ここでは、この翼に価値があるのだろう。
だから神殿では神様と崇められている。
着せられている白い服は、翼の動きの邪魔にならないようになっている。
たまに、紛い物でない証拠に動かして見せろと言われる事がある。
私は異質だから『ただの綺麗な見せ物』としてここに置かれているのだ。