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第一歩 ボッキー登校!

桜も散りゆく季節に一人の大和男子が颯爽と家を出て行った。


その男

歳は17歳

名は窪木紀文


いつものように母校である千歳高校へ向かうところである。




嘆かわしいな……


決まった時間に起きて、決まった時間に登校する。


小学生の頃から……いや、保育園に通っていた頃から刷り込まれるかのように目覚めたら学校へ向かう。

そしてそれはこれからも同じだ。

これから高校を卒業し、俺のことだ、いい大学へ入り一流企業に入ることになるだろうが、そこでもこのルーティーンは変わらない……

起きて、死んだ魚のような目をしながら職場へ向かい、適度に業務をこなし、職場を後にする。


物心つく前から、途方も無いほど先の先まで続く通うという動作、これに前向きなものを感じない……まるで……奴隷だ。



目の前に舞い散る桜の花びら、これは自分の意思で落ちたのだろうか、それとも意図せぬ強風などによるものなのか、舞いながら落ちていく様はヒラヒラと何者にも縛られぬといいたげに自由に見えるが最後は全て地面に落ちていく定めだ。

これもまた、運命。



嘆かわしい……



俺ほどの人間になると、この先全てがわかってしまう。

人生はどうせ退屈の繰り返しだ、楽しいことでも繰り返すと慣れ、退屈になってしまう。

全てはまやかしだ、形あるものも無いものも脳が誤認した偶像にすぎない。

愛や恋なんてのもその際たるものだ、いい大人達でもそんな偶像に取り憑かれ失敗す……



あっ!




突然驚いた窪木紀文、その面前からは同い年くらいと思われる他校の可憐な少女が歩いており、今まさに紀文とすれ違おうとしていた。




同じルーティーンを共にしている女だ、また今日もここですれ違うことになるとはな。


なるほどな……


この女いつもすれ違うときに俺のことをチラチラと見ている、これは俺のことが気になっている証拠だ。


恐らく俺に話しかけたいと思っているが俺の高貴な雰囲気に飲まれ話しかけられずにいるのだろう。


俺はこの女に興味はない、はっきり言って興味がない、興味はないが、この女がここまで俺と話したいと、そして俺のことを知りたいと思っているのなら男である俺から手を差し伸べてやらないこともない。


どれ、すれ違いざまに軽くトークでもしてやるか。




女との距離およそ10メートル。



この女、目を逸らし始めた。

これは完全に照れている、俺と話したくても話せない歯がゆさがそうさせているんだな、女心ってやつか。



女との距離およそ8メートル。



そうだな、まずはどんな会話のジャブを入れるかだ、相手が俺に話しかけて貰いたいと思っているとしても、いきなり込み入った話をしたら驚いてしまうだろう、そんなのジャブじゃない。

かといって当たり障りのなさすぎる会話をするなんて俺の流儀に反することだ。

よもや天気の話なんて切り出すくらいなら俺は舌を噛み切る、それくらいつまらない会話なんてゴメンだ。



女との距離およそ5メートル。



近くなってきた、近くなってきたぞ……

まずはジャブ、ジャブを入れなくては……

会話なんてなんでもいいはずだ、何よりこの女は俺と話がしたいと思っている、はずなんだ……



女との距離およそ4メートル。


えーっと……

まだ今は寒いから、っと晴れて。

桜が舞っていて綺麗で……

いやこれじゃダメだ……



女との距離およそ3メートル。


……



女との距離およそ2メートル。


…………



女との距離およそ1メートル。




「……」








女との距離およそ−1メートル。


女との距離およそ−2メートル。






女との距離およそ−10メートル。



ふぅ……

息が詰まったぜ。


あの女の緊張がこっちにまで伝わってきたせいでついつい俺まで縮こまってしまった。


まあいい、どうせ明日も同じルーティーンでここで会うことになるんだ焦る必要はない。


しかしもったいない女だ、俺と話したいなら話しかけてくればいいものを、俺はいつだってこんなルーティーンから抜け出そうと思えば抜けれるんだ、チャンスはそうないぞ。


さあ、学校でも俺を待っている者たちが大勢いる、気を取り直して行くとするか!





こうして窪木紀文、通称ボッキーの日常的朝のルーティーンは幕を閉じた。



ボッキーは

ルックス、下

運動能力、下

学力、贔屓目に見て中の下

の低スペック人間である。


当然彼女などいたことはなく、女性と二人きりで話をしたことも母親と妹以外とはない。


圧倒的自己評価の高さで高慢な行動を取ろうとするが、持ち前のポテンシャルの低さですべて跳ね返されてしまうある意味人間らしい人間だ。



そんなボッキーに学校で運命の出会いが待っている。

だが当然そんなこと知る由もなく今は学校へ進んでいくのだった。


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