新米科学者 ー2ー
「新たな科学者の入所を祝して、かんぱ〜い!」
「「「「かんぱーい!」」」」
気持ちがいいグラスがぶつかり合う音が部屋中に響き渡った。
あれから時間が経ち、今は午後七時くらい。研究所に見合わない木を基調とした温もりのあるリビングルームで、一同は豪華な料理を取り囲んでいた。
これまた木を基調とした長方形の大きいテーブルには、タンドリーチキンを始めとして、フライドポテトやエビチリやホットドッグなんかもあった。
「さて、我が半身よ、自己紹介をせよ」
突然、自己紹介を振られると何を話したらいいのかわからなくなるな、などと考えながら隆斗は席を立ち、一同の方を向いて言った。
「小野倉隆斗です。自分で言うのも難ですが、科学全般得意です。あとは、この退屈な世の中を変えたいと思ってます。よろしくお願いします」
最初はぽかんとしていたが、ややあって拍手が沸き起こった。
「面白いやつが入ってきたな。あ、俺は城川亜綺羅だ。気軽にアキラって呼んでくれ。わかんないことがあったら俺に聞け。だいたいなんでもわかるから」
「よろしくお願いします」
アキラは、ザ・大学生という感じがする、ボーイッシュな青年だった。
そこでおもむろに照輝が口を開いた。
「さて、ここに科学者が一人誕生した訳だが……いや、もうすでに学者としては完成しているか……」
耳を疑う発言を聞いたアキラは聞き返した。
「何言ってるんですか?」
「まあいい。さて、汝ら。隆斗の足を引っ張らないようにせよ」
またまた一同がぽかんとした表情で照輝を見ていた。
「ちょっと、逆じゃないの?」
そこで俺の真正面に座っている女子がいたずらに口を開いた。
まだ自己紹介はしてもらってないと思っていたら顔に出ていたのだろうか。隆斗と目が合ったその女子が自己紹介を始めた。
「あ、私は堂ノ瀬紫音ね。普通に紫音って呼んで」
「わかった。よろしく。じゃあ、紫音の後ろに隠れている子の名前も教えてくれたら嬉しいな」
その瞬間、部屋にいる全員が凍りついた。もちろん、比喩的な意味で。
「……なんでわかったんですか」
そう言って虚空から中学生くらいの少女が現れた。
「おそらくステルス迷彩を応用して姿を消し、その状態で皿を持って『皿が浮いてる?』って思わせるドッキリを仕掛けようとしているのは手に取ったようにわかった」
言っている最中、その少女は、実際に矢が刺さったかのようなリアクションを取っていた。
隆斗は簡単に言ってのけたが、今のは、紫音はもちろん、アキラも、照輝すらもわからなかったのだ。
「うっ、図星……。隆斗さん、頭の構造はどうなっているんですか?」
「まあ、電子回路が頭に植えつけられているとはよく言われたものだよ」
「まあ、確かに」
二人は日常会話のように話しているが、ついていけない人が三名ほどいた。
その一人の照輝が、世紀の大発見をした学者のような食いつきっぷりで隆斗に質問した。
「なぜわかったんだ!?これは俺が開発したステルスマント!作った俺でさえ見破れないんだぞ!?」
「自分でも見破れないのはどうなのかという質問は置いておくとして……」
隆斗は一拍置いて、冷静に答えた。
「量子の動きです」
「……はい?」
照輝が素っ頓狂な声をあげた。
「おそらく、このマントで自分の周囲の量子を消すなりして実態を消しているのだと思います。するとその周辺は量子の動きが不規則化すると記憶しています。そして今、通常とは違う量子の動きが紫音の後ろから発見されたので、その周辺に量子の動きに異常を与えているものがあると思いました。それが縦に長かったので、人であると思ったわけです」
「え、でもなんで女子だってわかったのよ?」
「玄関に、明らかに大きさが違うレディースのスニーカーが二つあったからだ」
「あんたって、何者?」
「ただの新米科学者だな。あ、そうだ。あんたの名前を教えてくれ」
「突然だね……。うちの名前は井頭佳苗、15歳。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
一通り自己紹介を終えて、その後は世間話程度の雑談となった。
そこで判明したのだが、隆斗が編入する予定の高校は紫音と同じところ、しかも同じ学科だった。
「同じクラスになったらよろしくね」
「いくらなんでも、そんな偶然はないと思うのだが」
それから話はロボットとかの話になった。AIについての価値観の共有をしておきたかったのだろう。照輝が大学の教授の如く、さまざまな話をしていた。
話が一転二転していくうちに、気がつけば来週にみんなで自作のロボットで大乱闘をしようという流れになっていた。
その話がまとまったところで、歓迎会はお開きとなった。
# # #
夜十時くらいに、隆斗は照輝に呼び出されてリビングに来てた。
「明日、八時三十分までには学校で手続きを終わらせてとのことだから、よろしくね」
「……」
「あ、あと、ここから学校までの通学方法は大丈夫?定期はここの最寄りのモノレールの駅から二十分くらいで着くから、八時に家を出ておけばなんとかなると思うな」
「……」
「どうした?」
「中二病、夜はしないんですね」
「……あ………コホン。汝や––––」
「もう遅いっすよ。わかりました。そのくらいに家を出ることにします。では、これで」
「ああ、ちょっと待ちたまえ。」
そこで、照輝が隆斗を制止して、中二病ではない、本気で隆斗を心配するように言った。
「頭のアレ、本当に大丈夫なのか?」
「……問題ないですよ。もう慣れましたし。まあ、このおかけで科学者の卵になれたんで、結果オーライじゃないですか?」






