新米科学者 ー1ー
誠に勝手ながら、主人公の設定を大幅に変更したので、プロローグから読んでいただけると幸いです。一部変更してあります。
「宣言しよう……今週の土曜日、カオスを打ち砕いて嵐がやってくる」
何が映っているのかわからない、ただ透明なだけの水晶を覗き込みながら、男は言う。
しかしその発言は研究所内の誰も理解することができなかった。
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高度技術発展特別区域ーー技術特区。というのが、
今の隆斗の現在地だ。
ここは、日本某所にある人工島である。名の通り、科学技術が発展している。発展しすぎているとも思える。その証拠に、隆斗はこの島に来てから、SF映画なんかでよく見る空中ディスプレイを普通に誰もが使っている。
「なんじゃここ」
これが、隆斗の素直な感想だった。
さて、今は本土と繋がっている私鉄の終点(学者街駅)の改札口前のベンチに座っている。ここで研究所の所長と待ち合わせをする約束だ。
「フフフ、待ちくたびれたぞ、我が半身となりし者よ」
「……あの、すいません。中二病と待ち合わせをしていないんで」
目の前にいたのは、おそらく大学生。黒髪の短髪で所々がボサボサしている。身長は隆斗より少し高いくらい。
「中二病などと一緒にしてもらっては困る。我は光を操る魔術師ーー」
「あの、この貼り紙を見て来たんですけど、ここの研究所の所長をご存知ですか?」
「……フフフ、フハハハハ!何を隠そう、この私がその研究所の所長だ」
「またまた、ご冗談を」
「冗談ちゃうねん!」
「西の都出身だったんですね」
そこまで会話して、所長を名乗る者がコホンと咳払いをして言った。
「まあ、とにかくだ。私の半身となりし者よ。着いてからが良い!」
そう言って踵を返して歩き出した。
ツッコミを入れる気にもならなかったので、着いていくことにした。
「ここだ!」
「近いんですね」
駅から徒歩2分くらいのところにあったそれは、他の建物より一際目立っていた。
これが研究所らしい。
「総工費いくらですか?」
「早速、そこを聞くのか我が半身よ。知りたくば教えてやろう……」
「あー、やっぱりいいです」
「だにぃ?」
研究所の中は普通の家となんら変わりはないデザインだった。玄関は広めで、ただ白いだけの壁紙が一面に貼られている。
玄関を上がってすぐ、左右に伸びる廊下がある。
所長は右に曲がったのでついていく。
ある程度進んだら、そこそこ大きめなドアが目の前にあった。
「ここが我の部屋ーー所長室だ」
「無駄に豪華ですね」
所長はドアを開けて隆斗を先導する。
部屋の奥には、校長室にある机みたいなものがあった。
床は赤いカーペットが敷かれている。全体的に木のぬくもりが感じられる部屋だ。
入り口の近くにあるソファに、二人が対面する形で座る。
「さて、挨拶が遅れた。我はここの研究所の所長、ノクティス・ルシフェル・サタンだ!」
「あー、中二病はいいんで本名を教えてください」
「な、貴様、我の偽名を見破っただと?クフフ、面白いではないか!我の真名は井頭照輝だ。よろしく頼む」
「そこは偽名と真名は逆なんじゃないかとか、照輝とかすごい眩しい名前ですねとかいうツッコミはさておいといて、俺は小野倉隆斗です。多分、詳しいことは親父から伝わってると思います」
「ああ、なにせ君の父親と我は共にパンドラの封印を解いた盟友だったからな」
その言葉をとりあえずスルーして、隆斗は所員について質問することにした。
「ところで、他に所員は?」
「今は外出中だ。もうじき帰ってくるから、その時に自己紹介をしたまえ」
「わかりました」
「では、君の部屋を案内する。この研究所は各所員の拠点まで完備されている。さっき、〇から三までの数字が連続で並んでいる名前の引っ越し業者が貴様の魔道具達を運び入れていた。拠点は出来上がっているはずだ」
「それじゃ、行く前に一つ質問いいですか?」
「なんでも聞きたまえ」
「では、照輝さんは今、何歳ですか?」
「こっちの世界で言うところの一万と三十才だ」
「そうなんですか」
ーーつまり三十才なんだな。
そう頭にメモを残してから照輝の後について行くことにした。
部屋はやや広めといったところだ。一人で生活する分には何も困らない。
コンピュータが置いてある作業机についている椅子に腰をかける。
「ところで、なんで照輝さんまでいるんですか」
「いや、なんとなく感慨にふけてたんだよ」
気がつけば中二病設定は無くなっていた。
「それにしても、君は実に面白い人間だね」
「何が言いたいんですか?」
「君の父親からも聞いたよ。『学校がつまらない』とか言って登校拒否を起こしたことがあるとか」
「俺って馬鹿なんですね」
「ああ、確かにそうかもしれないね。馬鹿を自称しているところとかね」
「おっしゃってる意味がわからないんですけど」
照輝は背伸びをしてから、片目を隠すように顔を手で覆って話す。
「貴様はやがてその意味に気づくことだろう」
隆斗の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
「明日から、こちらの高校に通うのだろう?」
「そうですね。編入手続き、ありがとうございました」
「とんでもない。むしろ、学校側は君を歓迎しているようだったよ。職員の一人はアメコミのように目を飛び出させていたよ」
「それは何よりです」
果たして会話になっているのかどうかわからない話を続けていると、ドアが開く音がした。
「お、君の仲間となりし者たちが帰ってきたようだな」
そう言って、照輝はこっちに向き直って手を差し伸べて言った。
「ようこそ、我々の《キチガイ研究所》へ!」