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夢にまで見たヴァンパイアはぽんこつで最強でした!  作者: スズキコウヘイ
ようこそ魔族の住む家へ!
4/4

殺されかけて、解剖されかけて



 間違いなく殺される。

 ど素人にも分かる殺気を放った氷槍が、俺の命を狙っている。


「待て待て待て! 俺がお前らの先代を殺したわけじゃ無いだろ!」


 必死の言葉で弁解し、さっきまでの優しげなお姉さんに戻ってもらおうとしたが無駄のようだ。寧ろ悪化している。


「関係ありませン!!! 『黒い瞳』と『人族』ってだけでも十分殺すに値スル!!! それに加え、先代と同じ話し方でプリムちゃんにつけ入ろうとしたァ!!! 覚悟は出来てるって事で良いンだよなァ!?」


「出来てないって! 一旦落ち着いて話しましょう!」


 突然の豹変に対応できずガタガタと震える俺。

 綺麗な薔薇には棘があるとはよく言ったものだ。棘どころじゃ無い。ツノが生えている。

 

「ああアあああアアああアァ!!!!」


 ヒステリックになったサキュバスは、もう止まる気配がない。

 氷槍が放たれる前に、立ち上がり一歩引いた。よかった。腰は抜けていない。

 次の瞬間、魔法陣から氷槍が放たれ、今俺が座っていた場所にゴスンと突き刺さった。


「ちっ……次ハ確実ニ……!!!」


 今度は無数の魔法陣が現れ、同じように氷槍がいくつも作り出される。

 今の一発は運良く避けられたが、この数は無理だ。確実に体が穴だらけになる。

 何か策はないか。辺りを見回すが、盾や武器になるものは何も無い。だが、一つ見つけた。

 少しゲスい作戦だが、一か八かやるしかない。

 震える体で精一杯の威勢を張って言った。


「ふ、ふっふっふ……そのまま撃ってみろ! こ、こいつがどうなっても知らんぞ!」


 完全に悪役のセリフだ。

 だが、こんな八つ当たりに近い殺され方なんて真っ平だ。

 俺は、机の上にあったアルバムを盾にした。

 おそらく大切な物だろう。そう簡単には俺と一緒に貫けないはずだ。


「クッ……流石人族……汚い事にハ頭が回ル……」


 作戦成功だ。

 こちらに向いていた氷槍が下を向き、魔法陣が消えると同時に溶けていく。

 これなら少しは会話が出来そうだ。と、思ったがどうやら甘かったようだ。


「なラ、これで仕留めル!!!」


 そう言うと、今度は俺の足元に魔法陣が現れた。

 俺を中心に広がった魔法陣から危険を察知し、抜け出そうと足に力を入れるが動かない。

 魔法陣に触れている足元から凍っていたのだ。

 前へ動こうと移動した体重を支える前足を出せず、前のめりに倒れこんだ。

 今度は、顔面を打たないように床に付いた手から凍っていく。

 逃げられない。氷漬けになっていく腕を見ながらこのサキュバスには、魔族には勝てないと悟った。


「そのまま頭を垂れロ。後悔ト懺悔ノ念ヲ残したまま、氷の彫刻にしてやル」


 俺からアルバムを奪い取り、サキュバスは凍てつく視線を浴びせてくる。もうあのエロく、優しげな面影もない。


 ああ……これは助からない……

 サキュバスの言う通り後悔と懺悔を繰り返す。


 とっととこの部屋から出ていればよかった。


 アルバムを盾にするなんて馬鹿げた事しなければよかった。

 

 ヴァンパイアに会った時に素直に眷属にして貰えばよかった。


 完全に諦めていたその時、一筋の光が目の前に現れた。

 それは、比喩ではなく本当に光っていた。

 光る金色の髪。見たことがある。ついさっき見たばかりの光だ。


「サキュ姉ストップ!!! その人殺しちゃダメ!!!」


「プリムちゃん!?」


 そのヴァンパイア『プリム』は、サキュバスの前で仁王立ちした。

 一方のサキュバスは、俺を睨みつけていた鬼の形相から、打って変わって驚きの顔になり、ツノが消えていった。


「その人は、私の眷属にするの! だから殺しちゃダメ!」


「でも、プリムちゃん。 よりにもよってこんな憎たらしい目の人族なんて……」


「私が召喚したんだから大丈夫!」


 まるで駄々をこねる子どもと母親のような会話を凍りながら見ている俺。もうすぐ全身凍ってしまいそうだ。


「でも、あんな事を言った奴を信用出来るの?」


「うん……別に嫌だった訳じゃないから……」


「そう。でも、危険と判断したら容赦なく殺すからね」


「分かった! 大丈夫!」


 何を勝手に分かってくれているのか。もう少し俺の命を重要視してくれ。

 それと早く氷を解いてくれ。もう口まで凍っていて声も出せない。


「じゃあ、ちゃんと面倒見るのよ」


「はーい!」


 (俺は捨て猫同然の扱いなのか)


 ほぼ全身氷漬けになりながら、そう突っ込んだ。


 薄れていく意識の中で、プリムが慌てて振り返り、こちらに近づいて来るのが見える。それと同時に、サキュバスが魔法を解いてくれたようだ。

 徐々に氷が溶けていくが、全身の氷が溶けきるよりも先に、俺の意識の方が溶けていった。




◆◆◆




 こう短期間に意識が切れたり、戻ってきたりすると、全てが夢なのか現実なのか分からなくなる。


 今はどっちだろうか。体を大の字に固定されて、見たこともない器具が大量に見える。

 あぁ……今から解剖されるのか。

 身体の至る所にメスを入れられ、眼球をくり抜かれたり、生爪を剥がされたりするのだろうか。

 身体の上を蛇が這う様な感覚がする。全身が痛い。ヒリヒリする。


 今、俺の目は開いているのか、閉じているのか。それとも既に目はないのか。それすらわからない。

 勇気を振り絞って目元に力を入れてみた。


 すると、目には光が差し込まれた。


「あ、やっと起きた」


 ゴソゴソと起き上がる俺の傍には、なにやら占い師の水晶玉の様な物と睨めっこしていたキョンシーがいた。俺が起きたと分かると、クルッと回ってこちらに体を向けた。

 辺りを見渡すと、見覚えがない。別の部屋に連れられたようだ。


「俺は、眠っていたのか?」


「いや、死んでたよ」


「死んでた!? じゃあ今は何!? 俺幽霊か何か!?」


「冗談だよ。姉さんの魔法で気絶してたから、その上から睡眠魔法を掛けて丸一日くらい寝ててもらっただけ」


「何その追い討ち!?」


 とんだ災難だ。まぁ、一応生きているらしい。

 窓を見ると、夕焼けが眩しい。丸一日寝て、また今から夜が来るところか。


 眠っていたってことは、さっきのは夢でいいんだよな。


「痛ぇ……」


 全身のヒリヒリした痛みは、夢から覚めても残ったままだ。


「姉さんの魔法をモロに食らって、その程度で済んだのは奇跡だね」


 凍傷みたいなもんか。そんな生半可なものではないか。魔法の威力やそれによる後遺症とかは当然まだよく分からない。

 それにしても、この世界には治癒魔法とかないのか。その他にも色々気になることはあるが、俺が異世界から来たってバレてもいいものか?

 いや、気絶する前にプリムが「私が召喚した」って言ってたし、もうバレてるだろうからいいか。

 早速、すぐそこにいる白衣の先生に聞いてみる。


「なぁ、この世界には治癒魔法とか無いのか?」


「一応あるよ。でも、ここには魔族しか居ないから」


「魔族は治癒魔法使えないのか?」


「使えないというか、使う必要がないからね。基本的には自己再生出来るし、出来ないほどの傷は治癒魔法じゃ治せない」


「なるほど……じゃあ俺のこれも自己再生で治せと」


「そういうこと。まぁ代わりに君の身体調べさせてもらったから」


 何が「代わり」なのだろうか。納得いかないが、歯向かうのは止めておこう。この子もサキュバスの様に豹変されたら今度こそ丸一日じゃ済まない。丸々一生寝ることになる。

 そう思って黙って納得すると、ドアからトラウマがやって来た。


「お疲れ様。どう? 何か分かった?」


 そう言って入ってきたサキュバスは、第一印象と同じ優しいお姉さんに戻っていた。

 俺が起きている事には気付いているのだろうが、触れる事も殺意を向ける事もなくキョンシーとの会話に入った。


「うん、まぁ害は無いんじゃないかな」


「魔力と属性は?」


「それは今から」


 そう言ってキョンシーは、伸びた腕はそのままで、足の力だけでぴょこっと立ち上がり、部屋の奥の鏡の横に立った。


「ちょっとこっち来て、ここに立って」


 と、腕をぷらんぷらんさせて俺を案内する。


「あ、あぁ。いててて」


 全身の痛みを堪え、立ち上がる。チラッとサキュバスの方を見ると、ニコリと笑顔を見せてくれた。だが、それは優しい笑顔ではなく棘のある笑顔だった。まだ信用されていないらしい。


「ここでいいか?」


 指定された場所に立って、鏡に映る自分と目を合わせる。


「暫くそのまま自分と見つめ合ってて」


 そう言われるとなんだか俺がナルシストみたいで恥ずかしくなる。

 取り敢えず言われた通り、そのままじっとしていた。


 暫く自分と見つめ合っていると、徐々に、鏡に映った自分の周りに白い靄が見えてきた。

 その白い靄は、やがて鏡全体に広がり、最終的に鏡は鏡の役をしなくなり、ただの白い板になった。


「これってどういう事?こんなの見たことない……」


 そう言ったのは、後ろで様子を窺っていたサキュバスだ。

 話の流れからしてこれは、魔力と属性の確認? だよな?

 あまり良くないのだろうか。サキュバスの質問に対するキョンシーの返答を聞こうと鏡の横を見た。

 そこには、俯き、考え込んでいる様子のキョンシーがいた。


 暫く続いた沈黙を破ったのはもう一人の来客だ。


「おはよー! どおー? 何か分かった? キャシー!」


「おはよう。プリム様。だいたい調べ終わったけど、魔力検査で初めて見る現象があったから考え中。あとその呼び方はやめて。」


 キャシーって、キャサリンの愛称で聞くことはよくあるが、キョンシーの愛称としては初めて聞いた。でもまぁ可愛らしいからアリだと思うぞ俺は。


「おはよう。プリムちゃん。それにしても本当に、この人野郎の歓迎をするの?」


 認められていないのは分かるけど人野郎って……

 綺麗なお姉さんに、豚を見るような目で見られるのは、嫌いなシチュエーションではなかったが、一度その目で殺されかけているから恐怖の方が勝る。

 

「サキュ姉も来てたんだ! って、またツノ生えちゃうよ! あんまり嫌わないで! もちろん歓迎はするよ! もうワンワンにも言ってあるし!」


「そう。プリムちゃんが言うなら歓迎しましょうか。」


 渋々、と言った感じだが歓迎はしてくれるようだ。俺としては助かる。この世界の事を知らないまま、ここから叩き出されても俺に行き場はない。

 俺の知らないところで、話は進んでいるようだが、ここは流れに乗っておくとしよう。


「なんか悪いな。お世話になります」


 一応社会人として、最低限の礼儀は尽くしておく。

 マイナスからだろうが、サキュバスとも良好な関係を築いていきたいしな。いつか直接サキュバスお姉さんと呼びたい。


「うん! よろしくね!」


(やっぱり見た目は申し分ないんだよなぁ)


 笑った口元に光る牙を見て、そう言えばプリムがヴァンパイアだと言う事を思い出す。


(喋り方は完全にただの女の子だけどな)


 でも、今はとやかく言うのはやめよう。流れに身をまかせるって決めた訳だし。


「キャシー、魔力検査の方はどうする?」


「もう少し考えて結論を出すよ。食事が出来たら呼んで」


「分かったー! じゃあ先に行ってるね! いざ歓迎会!」


 そう言ってプリムは先に部屋を出た。

 せめて、「いざ、晩餐会!」なら少しは格好付いたのにな。と思いながら、その後ろに付いて俺も部屋から出る。

 さらにその後ろから、「じゃあ後で呼びに来るからね」と俺には見せない優しい笑顔と口調でキョンシーに一言残しサキュバスが部屋を出る。

 そのサキュバスが今度は俺の耳元で囁いた。勿論、冷たい声で。


「プリムちゃんが優しい子で良かったわね。この人野郎。変なマネしたらまた氷の彫刻にするからな……」


 サキュバスお姉さんと呼ぶなんて当分先の話になりそうだ。

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