3.休日の妨害
「あら、知り合い?」
「仕事で得意先でもあり仕入れ先の営業の方です」
つい言葉がキツくなる。
「瑠璃ちゃん、とりあえず食事冷めちゃうから食べちゃえば?清水君はちょっと待っててね」
「あっ、はい」
私は返事をしてテーブル席へ向かう。咲さんの言葉に救われた。まだ人がいないので一番好きな奥の庭を眺められるテーブル席に座る。早く帰って欲しいなーと思いながら食べようとした時。
「水野さんはよくここに来るんですか?」
何で営業なのに空気読めないの? それよりも目の前に座らないでくれます?
「はあ。まぁ」
仕事で電話をとった時か挨拶、お茶だしくらいの接点しかない人だけど気まずくなるのは避けたい。でも、プライベートを仕事に関係している人に知られるのは物凄く嫌だ。
「あっ、冷めちゃうね」
…あなたのせいですよ。
「先いただきます」
別に一緒に食べる相手でもないけれど、なんとなく悪い気がして言った。
なんだか一気に気分はガタ落ちだ。
ご飯を見下ろせば、今日のプレートはハンバーグだ。丸く盛られ、てっぺんにパセリがかかったご飯を食べるとほのかなガーリックとバターのよい香りがして美味しい。メインのハンバーグはしめじと椎茸入りのデミグラスソースがたっぷりかかっている。ナイフを差し込むと柔らかいお肉はすぐに切れ、きのこと一緒に口に入れた。
う~ん美味しい!
濃すぎず薄すぎないソースは、さすが咲さん。サラダも食べなきゃ。市場が近くにあるので野菜も新鮮だ。酸味があるドレッシングもまた私好み。次に皮つきフライドポテトを食べていると。
「美味しそうに食べるね」
すっかり存在を忘れていた人物から声をかけられ視線を彼、清水さんに渋々むけた。彼は先に出してもらったコーヒーを飲み、長い足を組んでくつろいでいた。
「はい、おまたせ」
咲さんが、清水さんの前に私と同じプレートを置いた。
「うん、美味しい」
それには、同意します。
私の方が早く食べ始めたのに、清水さんの方が先に食べ終わっていた。私は食後のカフェモカを飲み、清水さんも、同じのを飲みたいと頼み二人で飲み始めた。
「今日はどんな感じかな?」
咲さんがカウンターから出てきてテーブルに近づいてきた。
「上に広げていいかな?飲んでいるのにごめんね」
そう私にいい足元に置いてあった中くらいの段ボールから物を出し始めた。
「今日は少ないんですが」
中から出てきたのは、直径30センチくらいのリースがニつと小物が幾つか。リースの一つは貝殻のみ大小合わせたリース。白の貝殻がメインで所々に黄色のヒオウギガイ、ヒオウギガイは、紫や赤、黄色などがあり二枚貝でとてもカラフルな貝だ。
私はすごく小さいものしかまだ拾えていない。もう1つは蔓に松ぼっくりと貝が飾られている。赤い実がアクセントになって可愛い。
「あっ可愛い」
「これ?」
清水さんが私の声に反応した。
つい声にでちゃったよ。
「見る?どうぞ」
手渡してくれたそれをじっくり見る。
横5、6センチくらいの小さな楕円形の木の深さが浅い入れ物の縁に、これまた小さい白い貝が行儀よくならんでいる。ただそれだけなんだけど、コロンと滑らかな木の器にとても合っていた。
アクセサリーを置くのに丁度いいな。
お茶を淹れたりするので普段はピンキーリング1個とつけっぱなしの小さい輪の目立たないピアスしかしない私には丁度いい大きさだ。いいなぁと思いながら清水さんにお礼を言い返す。
「う~ん。リースは白もいいけど、まだ少し先だけど次はクリスマスの感じが出るのもお願いしようかな」
咲さんが清水さんにこんな感じのと説明しているのを見て私も想像する。
今は10月末だ。クリスマスに貝のリース。クリスマスカラーつけたら冬もいけるよね。いいかも。
「そうですね。次回クリスマスを意識して作ってきます」
清水さんは、それらを箱にしまい咲さんに渡しながらカウンターの方へ移動し日時や価格の話をしだした。さて、私は帰るかな。なんだか今日はペースが狂ったなぁ。よいしょっと家まで歩く為に気合いを入れ立ち上がった。
「ご馳走さまでした」
咲さんに声をかけ、レジの前に行く。会計をしていたら何故か清水さんが近寄ってきた。
「はい。よかったら使って」
手に乗せてきたのはさっきの木と貝で作られた小物を置く小さいトレー。
「えっ、いいです」
言い方が悪いか。
「えっと、いくらですか? 買います」
気に入ったのは事実なので買ってもいいやと価格を聞いた。
「まだ試作だったし、気に入ってくれたみたいだから使って。会ったのも何かの縁だし」
縁はいらないと言い返しそうになったけど断れなくて結局貰ってしまった。
私は、当分咲さんのお店には清水さんに会いたくないから、しばらく行けないなぁとため息をつきたがら帰宅した。
それから一週間、清水さんと仕事では数回ほど受付で挨拶したのみで平和だった。
そして日曜日の朝、私は始発のバスに乗り一番気に入っている浜辺に降り立った。耳につけたイヤホンからは、お気に入りの音楽がガンガン流れている。
この浜辺は左側に大きな岩場があり、そこを登って越えた先に私の目当てのビーチグラスと石英が沢山落ちている。よいしょと岩場から降り立つとそこには、先客がいた。その先客が気配を感じたのか、腰を上げ此方に顔を向けた。
…何で貴方がいるんですか?
その人は清水さんだった。