05.まつげさんはしっかりものおねーさんです。
まつげさんは僕も通っている大学の大学院生である。専攻は民俗学。聞くところによれば結構画期的な新説を学会に提出したとかで業界では有名らしい。そんなまつげさんは、ゆうやけ荘では肝っ玉母さん的な存在である。(佐々木さんを例外として)ゆうやけ荘最年長の前島さんが、ああいう大雑把な人だから、実質ゆうやけ荘の代表だ。そういうわけで、今回のような催しを取り仕切るのも決まってまつげさんである。
「まあ、歓迎会って言ってもちょっと贅沢するだけなんだけどね。ともあれ、役割分担しようか」
全員のそろった居間で、まつげさんは皆を見渡しつつ言った。
「まず私と水戸ちゃんは料理の仕込みがあるからゆうやけ荘に残ってるね。最上くんと木鈴くんも、私たちの手伝いと佐々木さんの相手をしていてね。十四時くらいに引っ越し業者が来ることになってるから、部屋の案内もお願い」
最上さんと木鈴さんは黙って頷く。まつげさんと水戸さんがそろっていて、手伝いが必要になるのは食器の用意とかだろうから、最上さんと木鈴さんの仕事はもっぱら、佐々木さんが台所へ侵入してつまみ食いとかしないようにする方になるだろう。
「それから加賀ちゃんと前島さん、あとユーヤくんは買い出し。お菓子とかジュースとか買ってきてね。駅前のショッピングモールでね。あと、ユーヤくんにはもうひとつ、駅に新人さんが十七時に着くことになってるから、お迎えもしてあげて」
「おー」
「りょーかいですー」
「僕がお迎えですか……」
「うん。はいコレ」
「はい?」
軽く抛られたのを掴みとる。見ればそれは、
「……車の鍵?」
「そう。私の車の鍵。いくらなんでも買い物に何時間もかからないだろうから、加賀ちゃんと前島さんは前島さんの車で行って、ユーヤくんは私の車で行ってね。悪いけどユーヤくんには駅前で待機していてもらって、新人さん拾って戻って来て」
「え、でも僕、車の運転は……」
僕がちょっと口ごもると、ん、と前島さんが、
「あん? 免許持ってんだろ。浪人中に取ったんだろ」
「……ええ、まあ」
あれー、話したことなかったはずなんだけどな……前島さんには隠せないか。まあ隠すほどのことじゃないんだけどね。
「よし、決まったね。それじゃあミッションスタート!」
まつげさんの号令で、全員がそれぞれに立ち上がった。