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明日の天気はきっと晴れ  作者: FRIDAY
第四話 佐々木さんの家出
38/38

38.ゆうやけ荘のみんなが、大好きです。

 後日。


「――成程、全て丸く収まりましたか。それは重畳」

 隣を歩く田中さんは、言うほど興味もなさそうな顔だ。でも、そんなこともないということは、もうわかっている。

 基本的に無表情。


「つまりこのお話のオチは、ユーヤさんが幼女も熟女もストライクゾーンである、ということでよろしいのですね」

「……え、御免、僕の話聞いてた?」


 一体何をどう解釈すればそうなるのだろう。田中さんはわざとらしく不思議そうな表情を作って「違うのですか?」と、

「佐々木さんは実年齢が千歳を越えているのでしょう? しかも神様……あ、成程なるほど人以外にも」「待って」

 僕のフェチを広げないで。というか、佐々木さんは確かに千歳を越えているんだろうけれど、見た目は別に幼女でも熟女でもないしね? 強いて言うなら綺麗なおねーさんなんだからね?

 ……だから守備範囲外とか、そういう話でもありませんよ?


「あ、見えてきました。あれがゆうやけ荘です」

 やや窮屈そうにアパートが並ぶ中に、結構広い土地を悠々と使って建つ鉄筋コンクリート。僕の示す建物を目にして、ほう、あれが、と頷いた。


 そう、僕は今、田中さんをゆうやけ荘に案内している。

 なぜかと言えば勿論、御礼だ。花笑ちゃんの参観日と、佐々木さんの家出についての。

 今日は花笑ちゃんの誕生日で、そのためのパーティをするわけなんだけれど、その宴席に田中さんも招待しようというわけだ。勿論、皆の了解も取ってある。前島さんや加賀さんは、既に一度会っている仲だしね。水戸さんだけはどういうわけか何となく警戒している風ではあったけれど……。

 田中さんの方はと言えば、是非もなかった。なにせ苦学生の田中さんだ。一食でも食費が浮くのならためらうことはない。いや、この間言っていた、一日三食一ヶ月の奢りも、きっちり払ってはいるんだけどね……。

 日一日と軽くなっていく財布に一抹の寒さを感じつつ、ゆうやけ荘の前にまでたどり着く。


「では、ようこそゆうやけ荘へ――」


 引き戸を引いて、ゆうやけ荘に入っ「んがっ」ひ、火花が見えた。

 まるで計ったかのようにタイミングよく、戸を開けると同時に僕の額へフライパンを命中させたのは、他の誰でもなく佐々木さんだった。

 花笑ちゃんと一緒に、あ、と口を開けている。


「すまんのーユーヤ! ちょうど来るところが見えたものだから!」

「思わず偶然手に持っていたフライパンでフリスビーしてしまったのですよー!」


 口々に悪びれなく言い訳する佐々木さんと花笑ちゃん。

 確信犯じゃねェか。


「ん、そっちのは誰じゃ?」

 早速田中さんに目をとめた佐々木さんが、興味津々に近づいてくる。田中さんは、どうやら僕の額を打撃して宙を舞ったフライパンを見事にキャッチしたらしく、それを佐々木さんに手渡しながら、

「どうも、このたびご相伴しょうばんあずからせていただきます、ユーヤさんの唯一の友人、田中です。今夜は何でも誕生日パーティだそうで、おめでとうございます――じゅる」


 花笑ちゃんの誕生日パーティとは事前に言っていたものの、花笑ちゃんのことは初めて見るはずだけれど、目敏めざとい田中さんはあやまたず花笑ちゃんに丁寧に礼をする。最後に聞こえた本音は、まあ聞き流すとして。


「いやーそんな、すみませんありがとうございます花笑ちゃん十六歳ですっ!」

 花笑ちゃん、すげー嬉しそう。


 いつまでも立ち話もなんだから、と僕も田中さんも靴を脱いで上がり込む。佐々木さんと花笑ちゃんは、本当にフライパンでフリスビーしながら居間まで走って行って、「あ、こら、勝手に持ち出しちゃダメでしょう!」とまつげさんに叱られる声が聞こえた。


 居間まで続く廊下、ふふ、と傍らから笑い声が聞こえた。見ると、田中さんが笑っている。

 田中さんが笑っている! 早くも二度目の幸運! カメラ、カメラはどこに!?


「本当に、いいところですね、ここは……ユーヤさんからたびたび聞いていた通りです」

「そ、そうですか?」

 まだ玄関に入っただけなんだけれど……でも田中さんは、ええ、と深く頷いた。


「ここは、とても温かい」


 その感想に、うん、と僕は頷いた。

 皆がいる。

 温かい、皆が。


 僕は思わず微笑しながら、居間に入っ「くあっ」に、二回目。

 またしても、飛来したのはフライパンだった。宙を舞ったそれはこれまたすっぽりと田中さんの手元に収まる。

 あ、と口を開けてこちらを見るのは、やっぱり佐々木さんと花笑ちゃんだ。


「「こ、今度のは事故だからっ!」」


 ぴったりと唱和して仲がいいねえというかさっきのはやっぱりわざとだったんだね!

 ふ、と思わず笑ってしまった。堪え切れず、とうとう声を上げて笑い出してしまう。皆が怪訝そうな顔をして見てくるけれど、我慢できないんだから仕方がない。

「どうしましたかユーヤさん。気が触れましたか、とうとう」

 いや、田中さんにはわかってほしいんだけれど。というか、とうとう、ってなに。

 とにかく、僕は皆を見回す。


 また料理道具を玩具にして、と叱るまつげさん。怒られて小さくなっている佐々木さんと花笑ちゃん。まつげさんをなだめつつ、僕と田中さんをちらちらと窺っている水戸さん。それを横目に、着々とパーティのセットをする加賀さん。ソファで日本酒を瓶でラッパ飲みして、既にすっかり出来上がっている前島さん。その前島さんに例によって酔い潰されたらしく、ソファの脇で潰れてしまっている木鈴さんと最上さん。


 くすっ、と隣で笑う音が聞こえた。

「本当に、素敵な方たちですね」

 田中さんの言葉に、勿論です、と僕は頷いた。


 皆が皆、掛け替えのない大事な家族で。

 皆が皆、大好きです。


「――あはっ」


 また、僕は笑った。

 何だかとても、言葉にならないくらいに、嬉しくて。



 ゆうやけ荘は、今日も平和です。



ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

またどこかで機会の御座いましたら、よろしくお願いします。

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