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明日の天気はきっと晴れ  作者: FRIDAY
第三話 花笑ちゃんの参観日
31/38

31.どういうことですか?

 帰宅したとき、目に見えた異変のようなものは、一切なかった。


「ただいま帰りましたー」

 車を停めて、皆でぞろぞろと帰宅する。花笑ちゃんがいの一番に「ただいまー!」と飛び込んで、靴を脱ぎ散らかし「そろえないとダメですよー」居間に飛び込む。そして、恐らくは中にいるのであろう前島さんと佐々木さんに、弾丸の如く今日あった出来事を話していく。


 やっぱり、嬉しかったんだろう。

 初めて誰かが自分を……観に来てくれたというのは。

 あれだけ喜んでもらえるのなら、本当に、行ってよかったと思える。


 家族、か。


 ゆうやけ荘の皆が、自分で思っていた以上に、僕の中で大切な人たちになっていたみたいだ、としみじみ思う。

 人付き合いが苦手な僕が、こんないい人たちに出会うことができたのだから、これほどありがたい話はない。誰に感謝すればいいだろう……佐々木さんかな。今度、ちょっと高いお酒でも買ってこよう。


 実の家族には、あまりいい印象がなくて、浪人時代からもう一年以上会っていないけれど……次の正月くらいには、帰ってみようかな。

 しかし金と時間がかかるんだよな。


 とか、そんなことを考えながら、僕も皆に続いて居間に入ると、思った通り花笑ちゃんは椅子に座る前島さんに食らいつく勢いでまくし立てている。前島さんも、いつもならすぐに鬱陶うっとうしがりそうなところだけれど、今回ばかりは穏やかに聞いてくれている。


「あ、わ、私、夕食の支度しますね」

 時計を見た水戸さんが、いそいそと台所へ向かう。木鈴さんと最上さんも、慣れない場所に出て疲れたのだろう、やれやれ、と肩や腰を叩きながらソファに深々と座り込んだ。


「花笑ちゃんー、補修課題は終わりにしてもらえましたけどー、今後もちゃんと勉強しないとダメなんですからねー」

「わ、わかってますよぅ」

 加賀さんの言葉に、花笑ちゃんは頭を掻きながら苦笑する。しかし本当にちゃんと勉強できるかどうかはまた別のお話だな。


 と、そんなことを微笑ましく思っていたところで、ふと気が付いた。いや、遅過ぎだと言われても仕方がない、実際、遅過ぎた――間に合うことは、できなかったといえ。

 欠けている。


「ん、おう、ユーヤ。まつげはどうした?」

「ああ、はい、まつげさんは花笑ちゃんのクラスの懇談会に出席しているので、帰りは少し遅れます――あの、前島さん」

 加賀さんとのトークに移行し、一時的に解放された前島さんに、僕は心持ち声を落として訊く。


 確認しなければならない。

 なぜならば、そのときになってようやく、遅ればせながら、僕の中で嫌な予感が膨れ上がってきていたから。


「佐々木さんの姿が見えませんが、どちらに」


 いないのだ。佐々木さんが。

 普段なら、僕らが玄関に入ってきた時点で全力ダッシュで出迎えに来るような佐々木さんだ。今回となれば、その勢いで跳び蹴りでも(主に僕に)お見舞いしてもおかしくなかったくらいのものである。しかし、来なかった。


 それどころか、居間にもいない。

 夕食を作る水戸さんに忍び寄ることも、まして花笑ちゃんの話の輪に入るでもない。

 こんなのは、おかしい。

 有り得ないと言ってもいい。


「ああ、佐々木ちゃんな」

 僕の問いに、前島さんは鷹揚おうように応じる。煙草を一本取り出し、くわえ、しかし火はつけず。

 言う。


「佐々木ちゃんは、家出した」

「……え?」

 どういうことだ?


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