28.佐々木さんが屋敷神である、ということは。
「行くって言っても……佐々木さんは」
困ったようにまつげさんが言う。それはそうだ。このゆうやけ荘の屋敷神である佐々木さんは、ゆうやけ荘の敷地から外には出られない。まして花笑ちゃんの高校にまでなんて、全く無理だ。けれど佐々木さんは、ぶんぶんと首を振る。
「嫌じゃ! わっちも行く! 仲間外れは嫌じゃ! わっちだけ置いてけぼりなど嫌じゃ!」
その勢いは、まるで駄々をこねる子供のようだけれども……しかし。
誰も、強く言うことができない。
「嫌だって言ってもなあ、佐々木ちゃん……それは、できないんだよ」
やや苦い顔で言うのは前島さんだ。専門家として言うのだから、それは全く素養のない僕たちには本当にどうしようもないことである。
多分、佐々木さんもそのことはよくわかっていて――けれど、叫ぶ。
「わっちはゆうやけ荘の屋敷神じゃ! ゆうやけ荘のことはわっちが守っておるのじゃ! でも、それはただ、わっちが神様だからっていうだけではない、大事じゃから……家族じゃから!」
拳を握り、顔を真っ赤にして佐々木さんは言い募る。
「家族、なんじゃろう! お前たちも、花笑も、わっちも! それなのに、同じ家族なのに、わっちだけ花笑のために何もできないなんて、そんなのは嫌じゃ!」
……多分。
これは、今までの中で一番、本気の言葉だった。
決してただのわがままなんかじゃない。こんなに生の感情を剥き出しにして叫ぶ佐々木さんを、僕は見たことがない。それは僕だけでなく、僕よりずっと長くここに住んでいる前島さんやまつげさんも同じようで、目を見開いて絶句していた。
誰も、何も言えない。ただ佐々木さんの嗚咽だけが反響する。
「……悪い、あたしは残る」
口を開いたのは、前島さんだった。佐々木さんの横にまで歩み寄り、その細い肩を抱くと、仄かな笑みを見せる。
眉尻の下がった笑み。
「お前たちは早く行ってやれ。あたしは佐々木ちゃんとゆうやけ荘に残るから」
「……でも」
「花笑によろしくな」
そんな、と言いかけた僕の肩を、引き留める手がある。振り返ればそれは、まつげさんだった。目を伏せたままそっと首を振る。僕は、もうそれ以上何も言えなかった。
この世に神様として現れてから、およそ千年。佐々木さんは、ずっとこのゆうやけ荘から出られないまま。そんな在り方に、どんな感情を抱くのか、経験したことも、経験することもできない僕には、せめて想像するしかない。
こんな大事なときですら、大切な家族のためですら、待っていることしかできない。
それが、どれほどもどかしいのか、なんて。




