25.ここまでためこむことができるのは逆に凄いですよ、花笑ちゃん。
「ただいま……あれ、ど、どうしたんですか?」
花笑ちゃんがまつげさんに連行されて一時間ほど経った頃、帰ってきた水戸さんが僕と加賀さん、が囲んでいるプリントの山を見て驚く。それもそうだろう、半端な量ではない。
「いやあ、何と言うか」
かくかくしかじか、とここに至る経緯と、花笑ちゃんが説教を受けている間は暇なのでこの紙の山を仕分けすることにしたという顛末を水戸さんに説明する。
「へ、へえ……そ、そうだったんですか。道理で」
玄関に入ったとき、既に烈火の勢いで説教するまつげさんの声が聞こえてきたらしい。あんなに怒っているまつげさんは初めてだ。
「まあ、仕方ないよね……」遠い目。
「あ、わ、私も手伝います」
鞄を置いた水戸さんも加わって、花笑ちゃんの貯蓄を崩していく。逆さにぶちまけられたわけで、上の方がより古い地層に当たるわけだけれど、その古層は既に変色が進んで大変なことになっていた。
「中学校の入学式の案内があるよ……」
「あ、二年生の期末テストが出てきましたねー……赤点ですねー……」
「ちゅ、中学校の修学旅行のしおりが……」
よくこれで平気に学校に通っていたものだ。紙なんてただでさえかさばるし、絡まるし、不便に思わなかったのだろうか。ましてこんなにあったんじゃ、重さだって数キロはあるだろう……これに教科書やら辞書やらも入れてしれっと持ち運びしていたんだから、ひょっとすると花笑ちゃんは華奢な見かけを裏切るパワフルガール。
「…………」
テストやら何やらはともかく(点数も、まあ)、案の定重要と思われる書類も一緒くたに堆積していた。それこそ給食費だとか、保護者でなければ処理できない類の書類でも、だ。これを受け取らないで、花笑ちゃんの両親はどうしていたのだろう、何も思わなかったのか。
集霊体質の、厄介払い。
花笑ちゃんがそもそもこのゆうやけ荘に引っ越してきたのは、花笑ちゃんの体質を、専門家であるところの前島さんに何とかしてもらうため、だった。今は前島さんのお陰でかなり改善されているけれど、それ以前はどうやら余程大変だったらしい。花笑ちゃんの周囲の人たちだけでなく、花笑ちゃん自身も。
花笑ちゃんの無邪気な天真爛漫さ、素直さというのは、疎まれ続けてきた裏返しだ。
できる限り誰かの反感を買うことのないように。
そして、自分が誰かに悪意を抱くことのないように。
そのために無意識に形成された、自衛本能。
けれどやっぱり、そうやって強制された人格には無理が出るのかもしれない。この惨事も、そうして生まれた限界の表れなのかもしれない――
と、思うのは牽強付会に過ぎるだろうか。前島さん辺りに話したら鼻で笑われそうだ。
名も実も、ただ花笑ちゃんが『片付けられない女子』であるだけなのかもしれない。
「……うーむ」
「どうしましたかーユーヤさん、手が止まってますよー。そんな哲学的な顔をしてー、何か破廉恥な写真でも見つけましたかー」
「見つけませんよそんな写真」破廉恥な写真で哲学的な顔になったら嫌だ。
と、僕が益体のない思考を頭を振って払い、再び書類仕分けに戻ろうとしたところで、黙々と作業していた水戸さんが「あ」と小さく声を上げた。
「ん、どうしました?」
見ると、水戸さんは既に近々の地層にまで到達していたらしい、色褪せていないプリントの皺を丁寧に引き延ばしながら僕と加賀さんの方に見せてくれる。
「こ、これ、多分最近に出されたものなんですけど……」
日付を見る。先週だ。「確かにそうだね」
何かの連絡や提出物だったら確認しなければなるまい。そう思って表題を見る。おや。
「さ、参観日が、あるって……」
「そうみたいですねー。まだ間に合いますかー。日付は――」
ええと、と三人で覗き込む。
明日だった。




