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明日の天気はきっと晴れ  作者: FRIDAY
第一話 ゆうやけ荘へようこそ
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01.佐々木さんはニートっぽいけどニートではないのです。

シリーズで投稿している【ゆうやけ荘は今日も平和に】のパラレルワールド的なお話です(笑)

 大学の講義が午後からだったので、正午ちょっと前に起き出して朝食兼昼食をもそもそと食べていると、同じく今しがた起き出してきたところらしい佐々木さんが入ってきて、僕の向こう側に座った。

 まだ夢の中に片足を突っ込んでいるようで、ぼんやりとした視線で僕を、というより僕のブランチを眺めている。僕はそれに対して特に反応することもなく、もそもそとご飯を食べ続ける。

 ちょっとした沈黙。


「なあユーヤ……最近、どうだ?」

 意外と気遣い屋の佐々木さんらしく、沈黙に耐えきれなくなったのか、久し振りに会って相席したものの話題に困った親戚のおじさんみたいな話を振ってきた。


「どうって、どんな話で?」

「あー……ほら、大学。もう一ヶ月じゃったな。慣れたか?」

 僕は頷く。大学の生活にも慣れてきて、高校時代に比べると自堕落(自堕落)になりつつある気もする。悪い意味で慣れてしまったというか。もっとも、高校時代がそんなに規律良く生活していたかというと、まあ別段そんなこともないんだけれど。でも運動部に所属していたから、それなりに健康的ではあった。浪人中だって緊張感があったからまだマシだったけれど……今は、何もしていない。

 まあ――半分はこのゆうやけ荘の人たちのせいと言っても過言ではないと思うけど。


「そっか。それは重畳……それはそれとして、なあ、最近なあ、まつげの奴が冷たいんじゃ。どうしたもんかな」

 言いながら、僕の皿にあった最後の卵焼きを摘まんで持っていく。それなりに惜しい気もしたが止めもしない。お供えするような気持ちだ。今日も大学で悪いことありませんように……もっとも、佐々木さんにそこまでの力はないだろうけれど。

 ぺろっと卵焼きを食べてしまった佐々木さんが、じっとこちらを見てくる。もう摘まみ食いできるものは残っていないのだけれど、と思ってから、返答を待っているということに気付いた。

 まつげさん、ねえ。最近のまつげさんを思い出してみる。


「いやあ……別段そんなことないと思いますけどね」

「そうかの。この間は、取り込みを頼まれておった洗濯物がまた雨に降られて洗い直しになったんじゃが、怒ってもくれなんだ」

 それは完全に佐々木さんが悪いですよね。初犯どころじゃないですからね。


「結局やってくれたんじゃがの」

「それもまあそうでしょうね」


 まつげさんはそういう人だ。で、佐々木さんもこんな感じで、一見ニートみたいな。

 NEET. Not in Education, Employment or Training. もっとも、佐々木さんは決して若者ではないし、就職も、就職訓練もやりようがないのだけれど。

 このゆうやけ荘の敷地内から出られない佐々木さんには。


「ちなみに、慌てた拍子に落として泥まみれになったユーヤのシャツをこっそり捨ててしまったということは、まつげにはバレなかったぞ」

 持ち主にバレちゃいましたよたった今! 道理でシャツが一枚見当たらなくなっているわけだ……もともと五枚も持っていない僕にとっては、シャツの一枚も死活問題になりかねないんだけどなあ。

 僕は味噌汁まで飲み干すと、手を合わせて立ち上がった。食器をまとめて台所に運ぶ。


「おお、もう行くのかや」

 首だけ巡らせて訊いてくる佐々木さんに、僕は軽く頷いて返す。僕の椅子の脇に置いていた鞄を佐々木さんが拾ってくれて、それを受け取ってから玄関横の鏡を見る。

 当然のことながら、僕が映っている。

 うん、今日も冴えない。


「おや、寝ぐせが立っとる。どれ」

 いつの間にか後ろから鏡を覗き込んでいた佐々木さんが、背伸びをして僕のその跳ねた髪を撫でる。佐々木さんはその実年齢を聞くと仰天するけれど、見た目は普通に大和撫子なのでちょっと気恥ずかしかったりする。

 佐々木さんも鏡に映るんだなあと無表情に思っている間に、佐々木さんのそれも終了した。


 その結果。


「……おかしいのう、むしろさっきより酷くなった」

 本当に不思議だなあ。起き抜けより髪が荒れている。スーパーなんとかみたいじゃ、と佐々木さんは笑った。最上もがみさんのとこにあったの、佐々木さんこの間読んでたっけかな。

 まあいいや、と僕は戸を開けて玄関に出る。

 靴を履いて、後ろについてきた佐々木さんに振り返る。


「じゃあ、行ってきます」

「おう、行ってらっしゃい。気を付けての」


 緩く手を振りながら、ほわあ、と欠伸あくびなどする佐々木さん。大方、僕を見送った後はまた寝るのだろう。今日このゆうやけ荘に残っているのは、あとは佐々木さんと木鈴きすずさんだけだったと思うけれど、木鈴さんは今日は全休ぜんきゅうだって言ってたし、夕方まで起きてくることもないだろう。


 ゆうやけ荘を出て、住民全員に支給されている鍵で戸を閉める。締め忘れると、佐々木さんだけでは不用心で……と言っても、律儀に締めているのは僕だけなんだけれど。


 ニートみたいとか何だかんだ言って、佐々木さんはちゃんと御仕事をしている。だから、佐々木さんがこのゆうやけ荘にいる限り、例え全ての戸や窓を全開で全員が出かけたとしても、空き巣も火事も起こらない。

 ただ、屋敷神やしきがみである佐々木さんの仕事風景が、ちょっとニートっぽいだけなのだ。


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