第四話「ボランティア?」
朝、無機質な目覚まし時計のベルが鳴り響き、微かに苛立ちを込めた手で時計を叩く。今だ目覚めきれていない眼を擦りながら事務所の自室を出る。
広間にはトーストを食べながら資料の整理をする一人の人影が見えた。ロゼ=アルヴェールである。凛々しい顔立ちは何処か中性的で、男でありながら美しいと思わせる位な美人だ。
「あぁレイ、おはよう」
「おはようございます…何の資料ですか?」
「これかい?今月の収入と生活費とかだよ。やけに酒への出費が多いから後でリリアにお説教だな」
「色々大変ですね…」
そう言いながら既に沸かしてあったお湯で珈琲を淹れる。
啜りながらふと思い出し、ロゼに尋ねてみる。
「そういえばボスは?」
「WWCでの会合があるらしい。帰ってくるのは遅いと思う」
そんな他愛もない話をしていると、突然事務所の入り口が勢いよく開いた。不意の出来事に僕とロゼは身構える。が、そこにいるのは少女だった。
「助けてッ!」
今にも泣き出すのを下唇を噛んで必死に堪えている彼女から飛び出した四文字。真っ先に動いたのはロゼだった。
「一回落ち着くんだ。そして何があったのかちゃんと教えて欲しい」
ロゼが少女の肩を優しく撫でると少し落ち着いたのか、ゆっくりと喋り始めた。
「私の妹が変な人に袋に詰めてさらわれたの……お願いッ!早くアンナを助けてあげて!」
「君の妹さんは何処で攫われたんだい?」
「外側のルート72辺りなの…私は逃げられたけどアンナは途中でつまづいて…私はお姉ちゃん失格だよね……」
「そんな事ないよ。君はこうして頑張ってここまで来たんだ。後は僕達に任せるんだ」
そうして犯人像などを聞いて情報を固めた。攫ったのは黒いパーカーに唇の形のバッヂを付けた男らしい。
「じゃあレイ、早速探しに行ってくれ。私は近くで聞き込みをする」
そう指示され、すぐ様スーツに着替えて現場へと足を進めた。
数十分程して現場のルート72に着いた。事務所のある方と比べると人だかりも少なく閑散としている。
一つ懸念しているのは、夜間に見た人間を再び同じ場所で、しかし時間の違う時に見つけられるのかという事だった。
服装を見ても似たような服ばかりなので半ば諦めかけていたその時、白いスーツの男が目についた。その男の襟元を見ると悪趣味な唇の形のバッヂを付けている。
男を尾行しているとどんどん裏路地へと入り込んでいく。暫くすると切れかけのネオンサインが掛かった怪しげな建物に入った。入り口には屈強なガードマンがいる為自分も入ろうとすれば騒ぎになるので今回は引き上げた。
帰り道、情報収集も兼ねて事務所の隣にあるバー、bloodに立ち寄った。
このバーは主に僕達の同業者やろくでなし達が朝昼晩問わず飲み明かしている無法地帯とも言える場所だ。
情報収集しに来たとはいえ、そうやすやすと手に入るわけもなく色んな人に聞いても知らないの一点張りだった。
あてもなく彷徨っていると、一人のやかましい声が僕をめがけて飛んできた。
「レ〜〜〜イ君♡何やってんのかなぁ〜?」
面倒臭い人と会ってしまった。