第二話「再起動ー2」
いきなりのお誘いに頭が混乱している。
「どういう意味…?」
訝しげに質問を投げかけてみるも、その男は淡々と話を進めていく。
「まぁ正確に言うと雇われないか、という意味だ。…お前、名前は?」
逆に質問されて少し焦った。
「名前は…知らない。本当にあったかさえもわからないんだ。」
それを聞くと男は少し哀しげな目を向けてきた。まあ記憶喪失の人間を前にすれば分からなくもない。
すると男は何か閃いたかの様な表情をして、
「お前、ここまでフラフラと来たんだろう?なら、お前の名前は“レイヴン”だ。」
見知らぬ男から名付けられた名前。だけれども、心の奥底ではどこか嬉しさを感じているのかもしれない。
「ところで、あなたの名前は?」
「俺か?俺はヴァローン。…さぁ、話は終わりだ。ついて来い。」
ヴァローンは既に背を向けて歩き始めていたので、僕も先程の下っ端のバタフライナイフを袖に仕込ませて後を追いかけた。
しばらくすると少し開けた通りに出た。バーや飲食店が並んでいる事から恐らく歓楽街だろう。道端に浮浪者が倒れている位だからあまり良い場所では無いのだろうけど。
ヴァローンを目で追いかけていくと、バーと店の間に地下へと続く階段へと足取りを進めている。歩幅が違うので僕は少し小走りに後ろについていった。
その階段は無機質なコンクリートの壁に申し訳程度のライトがついているだけで、油断していたら多分踏み外すんじゃないかと思う位暗かった。
4メートル程下った先にあったのはドアと看板だった。看板には“Wet work company The Ruler”と彫られている。
「ここがお前の新しい居場所だ。ゴミ箱よりかはいいだろう?」
ヴァローンが冗談混じりに話しながら戸を開ける。
好奇心が心を燻る。それは不安なんかよりも遥かに大きかった。
中は想像以上に広く、ソファやデスクだけではなくダーツ等の娯楽もあり、一言で言えば“過ごしやすい”という感じだ。
「んぁ〜、おかえりなさいボス…ってその子誰ですか?まさか隠し子〜?」
ソファから寝起きの様な声が飛んできた。艶やかなミディアムロングの金髪の女性がニヤニヤしながらこちらを覗いてきた。どうやら警戒心は抱かれてないらしい。
「馬鹿言えリリア。拾ってきただけだ」
「いやそっちの方が衝撃的です…」
「ところでロゼとユノは?」
「あ〜っと、ロゼ君はお仕事で、ユノちゃんは遊びに行ってます」
話からするとどうやら後二人程ここに属しているらしい。
さて、と奥にある一際立派な椅子にヴァローンが腰を掛けて口を開いた。
「ようこそ、WWC本部である“The Ruler”へ。WWCとは基本依頼された事はほぼ全て引き受けるのが方針だ。それが例え“汚れ仕事”でもな。」
「よろしくね、私はリリア・シルフォンス。…えーっと、君は?」
「レイヴン。宜しくお願いしますね」
「うん、宜しくねレイ君!」
そうして僕はここの一員、ウェットワーカーとなった。