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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃太郎のお話聞く人ー!

作者: 聖魔光闇

よってらっしゃい。みてらっしゃい。

 昔々あるところにお爺さんとお爺さんが住んでいまし――


「ちょっと待って。お爺さんとお爺さんって? お婆さんはどこいったの?」


 改め、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。


 ある日、お爺さんは山へシバかれに――


「シバかれにって……。誰に!? いやいや、そもそもシバかれに行くんじゃなくて、芝刈りに行くんでしょ?」


 お婆さんは山へシバきに――


「って! お婆さん! シバきに行ったらダメだって! お爺さん何したの!?」


 お爺さんがお婆さんにシバかれていると、川から大きな桃が――


「ちょっと待って! 二人とも山にいるんだよね? どこから川が見えるの? 誰が川を見てるの?」


 仕方ないので仕切り直して……。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ選択に行きましたとさ。


「違ぁう!! お婆さん何を選びに来たの? わざわざ川まで?」


 お婆さんは川へ洗濯に行ったんだよ!


「キレるとこ? え? キレるのおかしいよね?」


 お爺さんがシバかれていると――

 お婆さんがシバいていると――


「だから! お婆さん? お爺さんシバいたらダメだって! お爺さん本当に何したの!?」


 ……川の上から大きな桃が、どんぶらこどんぶらこと――


「流した! まさかのそのままスルー? いや、それだとお爺さん可哀想なままだよ? お婆さん八つ当たり気味じゃない?」


 お爺さんは川で魂の洗濯を――

 お婆さんは川で心の洗濯を――


「お婆さん? 何もそこまでしなくても……。てか、お爺さん昇天しちゃうよ? この話終わっちゃうよ?」


 ……。大きな桃を持って帰りました。


「え? とんだ? 今、話とんだよね? なんか煩わしいとこすっ飛ばして、いきなり桃持って帰ったよね? 誰が? いや、お爺さんどうなったの? シバかれて、魂洗濯して……。帰ってこれたの? 無事だったの?」


 桃から出てきたのは、それはそれは立派な赤ん坊でした。


「ぶっ飛びすぎだよね? まだ、桃を持って帰ってきただけでしょ? もう切ったの? 何も怪しむ事なくすんなり切ったの? お爺さんとお婆さん……お人好しなの? それともバカなの?」


 生まれた桃太郎はスクスクと育ち――


「待って!! いつの間に名前付けたの!? てかスルーし過ぎ! サクサクと自分勝手に話進め過ぎだよ!」


 お爺さんとお婆さんに見送られて、犬と猿と雉を連れて鬼ヶ島に鬼退治に来ました。


「またスルー? もうスルーすればいいとか思ってない? ミラクルだと思う? え? 誰がこれ見てスゲーと思うと思っているわけ? バカじゃない? 一気に鬼ヶ島まで来たよ? 冒険は? 吉備団子は? お爺さんとお婆さんの見送りは? 涙ぐましいお話は? 犬と猿と雉との出会いは? もう意味わかんないわよ!?」


 じゃあ、今迄のあらすじ。


「じゃあって何? じゃあって!! やけくそなわけ!? 適当すぎるんじゃないの?」


 じゃあ、あらすじ撤回で。


「ちょっと待ちなさいよ! あらすじ必要でしょ? スルーしすぎなのよ! 中身が全然ないのよ!」


 どっちなんだよ! ウッセェな!


「言葉が荒くなった! というか、キャラ変わってない? というか変わりすぎでしょ……」


 はいはい。じゃあ、あらすじ。


「……」


 お爺さんとお爺さんが住んでいて、お爺さんが山にお婆さんにシバかれに行って、お婆さんが心の洗濯をしたその日、お爺さんがずたぼろのぼろ雑巾のように変貌したその日、川から流れてきたパンダに入っていたのは、それはそれは恐ろしいこの世の者とは思えない程の角の生えた赤ん坊でした。


「はい! ちょっと待ったぁ! お爺さんとお爺さんが住んでいたのに、どうして突然お婆さんが現れたの? やっぱりお爺さんシバかれたの? やっぱりお婆さんシバいちゃったの? お爺さん死にかけ? 何? ずたぼろのぼろ雑巾って……。それにパンダ!! パンダって? パンダ流れてきたの? 溺れてたんじゃなくて? で、パンダから桃太郎生まれたの? 角の生えてたの? それ鬼じゃないの? 桃太郎じゃなくて、鬼の子じゃないの? 鬼の子がパンダに食べられてたんじゃないの? パンダって肉食だし……。笹しか食べてないイメージ強いけど……」


 桃から生まれたのは、それはそれは可愛い宝石のような輝きを放つ赤ん坊でした。その輝きに目が眩んだお爺さんとお婆さんは、赤ん坊を宝石商に売ってしまいました。


「待って! どうしてよ! その輝きって比喩じゃないの? 本当に輝いてたの? それ桃太郎じゃないじゃん! ジュエルマンだよ! ジュエルマンって何よ! ジュエルマンはどうでもいいわよ! 売ったら駄目でしょ!? 育てられないでしょ!? 『お爺さんお婆さん、僕は都に害を成す鬼を退治しに行ってきます』って言えないでしょ!?」


 ジュエルマンとは何でしょうか? 変な輩が現れました。経験値が多そうなので、他の敵を取り敢えず放っておいて、先に倒す事にしましょう。


「ぁあ!! ジュエルマンは放っといて!」


 ふふふ。


「笑われた! 今、笑ったでしょ! 笑ったわよね! 今!」


 桃から生まれたから桃太郎。パンダから生まれたらパンダ太郎。そんな単純なのはどうでもいいんです。桃太郎は生まれてすぐ、すくすくと大きくなりました。一年に一センチメートルも身長が伸びるのです。生まれた時は僅か十センチメートルしかなかった身長が、十六を迎える頃には、二十六センチメートルにまで伸びていました。


『お爺さん、お婆さん、私をここまで育ててくれて――』


「はい! 待って! そこまでよ! 生まれた時十センチ。十六で二十六センチ? 一寸法師の間違いじゃないの? どこの世に身長二十六センチの十六歳がいるのよ! 未熟児じゃないの! 違うわね……。未熟児でももっと身長あるわよ! 頭おかしいでしょ!? もっとマトモに話しなさいよね! 身長二十六センチの十六歳なんてミラクルっていうよりも、ファンタジーよ!」


 熊に跨がった桃太郎は――


「それは金太郎!」


 助けた亀に連れられて――


「それは浦島太郎!」


 月に連れて帰られてしまい――


「それはかぐや姫! 性別が変わってるし!」


 すくすく育つ桃太郎でしたが、そんな時、京の都では鬼が現れ金銀財宝や美しい女ばかりを拐っていたのでした。都の金持ちや貴族、イケメン夫婦は怒り爆発です。貧乏人は蔑み笑い、不細工夫婦は爆笑の渦の中にいました。それを知った桃太郎。


『俺の金と女を拐うとは言語道断。この桃太郎が鬼ヶ島を攻め滅ぼしてやろうではないか!』


 それを聞いたお爺さんとお婆さんは涙を流して喜びました。


『なんて勇敢な子じゃ。そうじゃ、これを持って行け』


 お爺さんが取り出したのは、【これさえあれば百人切り】と書かれたいかがわしい本でした。


『桃太郎や。困った時にはこれを使うのじゃ』


 お婆さんが取り出したのは、一枚のカードでした。


「待てぇぇい! 黙って聞いてれば、調子に乗って! え? 何? 経済的差別? 人種差別? 笑ってる奴らも同類じゃない! それに桃太郎! 俺の金と女って何? あんた何様なの? 攻め滅ぼすって何処の軍隊よあんた! お爺さん……。それ、シバかれた原因なんじゃ……。というかお婆さん? 地獄の沙汰も金次第とは言うけど、カード渡してどうするの? いつの時代よ!? 刀は? 吉備団子は? 黙って聞いてて欲しかったら、もう少し普通の話をしてよね!」


 仕方がないので、桃太郎は一振りの紫色の光を放つ刀と、近寄るもの全てを魅了する不思議な団子をお爺さんとお婆さんから貰――


「普通の!! それ妖刀じゃない! 呪われるわよ! どうしてそんな危険な物持ってるのよ! それに団子! 吉備団子でいいのよ! 何? 近寄るもの全てを魅了するって……。持って歩いているだけで、大行列が出来ちゃうわよ! どこかの相談所もビックリよ! 普通でいいの。普通にして。怒鳴るのも疲れるのよ……」


 お爺さんに刀と、お婆さんに吉備団子を貰った桃太郎は、一目散に鬼ヶ島を目指しました。が……、鬼ヶ島が何処にあるのかわかりません。仕方がないので、京の都に出向いて鬼が来る場所を聞くことにしました。


 桃太郎が都を目指して歩いていると、一匹の犬が声をかけてきました。


『ワンワンワワン。ワワワン。ワン。ワン。ワン』


『五月蝿い犬畜生だな。叩き斬られたくなければ、あっちへ行け!』


 桃太郎が刀を振りかぶると、犬は更にワンワン吠えたてます。


『ワンワン何を言っているのかさっぱりだ! 斬って捨ててやる!』


 そう言って桃太郎が近付いた瞬間――


『桃太郎さん! その腰にある吉備団子を――』


『物の怪か!』


 桃太郎はバッサリと犬を斬ってしまいました。


【犬を倒した。経験値を一獲得しました】


「ちょい待ち! 犬を殺してどうするの!?」


『人語を話す犬の物の怪だぞ』


「桃太郎が答えないで」


『いや、物の怪を討ち取ったのは俺だからな。意外と経験値が少なかったが……。これでは、いつレベルアップすることやら……』


「あんたは喋るな! 話がややこしくなる……。だいたい何よレベルアップって! ゲームじゃないのよ! というか、だからこれいつの時代よ!!」


『桃太郎さん! その腰にある吉備団子を一つください!』


「いきなり戻すな!!」


『吉備団子か? 高いぞ。一つ五万円でどうだ?』


「売るな! しかもぼったくりでしょ! その金額!!」


『はぁ……』


「ため息ついた……。天下の桃太郎が、ため息ついたよ……」


『誰の所為だ』


「もう! 話が進まないじゃない!」


『誰の所為だ?』


「……」


『ふん! 黙秘権を行使するのか……。まあ、それもありだな。で、吉備団子だったな』


『え? は? は、はい! もう、置いていかれていたのだと思って寛いでいました……』


『よし! くれてやろう!! 俺の代わりに鬼を成敗するのだ! 拒否権はない! 黙秘権もない! 前言撤回も許さないからな!!』


 そう言って桃太郎は、犬という僕を一匹引き連れて都を目指すのを再開しました。


 へんぴな田舎から出たこともない桃太郎。当然、都の場所すら知りません。それでも都を目指します。僕にしたのはいいものの、犬に無知だと知られる訳にはいかないのです。知ったかぶりで、こっちが近道だとか、あっちの道は危ないだとか言いながら、都とは関係ない方向へふらふらと歩いて行きます。そんな桃太郎にある日、一匹の猿が声をかけてきました。


『キキー。キキキー。キー。キキー。キー。キキキキー』


『五月蝿い猿畜生だな。叩き斬られたくなければ、あっちへ行け!』


 桃太郎が刀を振りかぶると、猿は更にキーキーと鳴きたくります。


『キーキー何を言っているのかさっぱりだ! 斬って捨ててやる!』


「は! この流れは!! 駄目だって! 殺したら……」


『ちっ』


「舌打ちした? 今度は舌打ちした? この桃太郎、何か間違えてない?」


『仕方ない。で、猿よ。貴様も人語を解するのであろう? 何が望みじゃ。申してみるがよい』


『ん? 吉備団子ちょうだい。下僕にはならないけど』


 先に犬に言った言葉を言われてしまった桃太郎。無い知恵を絞って


『よし。下僕にならんでも良い。しかし、鬼を成敗せよ。従えぬのなら、今ここで、貴様を成敗してやる』


 とんでもないことを言い出しました。


『ちょっと待っ――』


『聞かん!』


 こうして桃太郎は猿を無理矢理鬼ヶ島へ連れて行くことにしました。


 桃太郎が犬と猿の手綱を牽い道に迷っていると、一羽の雉が声をかけてきました。


『キ――』


『もういい!! 五月蝿い! 無駄に口を開くな! 殺したくなる!!』


『……』


『吉備団子がいるんだろ? くれてやる。一つでも半分でも好きなだけ。俺様に口を開いたんだ。もう後には下がれんぞ。拒否権はない。黙秘権もないが、喋ると鬱陶しいので、喋らなくても了承としてやる。わかったな!!』


 もう無茶苦茶です。


「無茶苦茶はあんたじゃないか! この話の何処が桃太郎なのよ! 誰が勇敢な立派な若者なのよ! 自分の危険を省みず巨大な敵に立ち向かうそんなヒーローじゃなかったの!? 誰よこれ! 桃太郎を名乗る桃太郎の偽者じゃない! 桃から生まれた桃太郎って、桃から生まれりゃあ誰でも桃太郎になれるってわけじゃないでしょ!」


 桃から生まれなければ、どうやって桃太郎になるんでしょうか……。


「そんな御託はどうでもいいのよ! というよりも、いつまで続くのよ。このあらすじ! いつになったら鬼ヶ島に着くのよ! だいたい方向音痴の桃太郎って何よ! 箱入り息子か!! 世間知らずか! 都の場所も知らない。鬼ヶ島の場所も知らない。で、どうやって鬼ヶ島に行くのよ! 馬鹿にしないでよ! はぁぁ! はぁぁ……」


 さて、何を興奮しているのかは知りませんが、桃太郎一行は、あっちへふらふら、こっちへふらふらしている間に、気が付けば丸五年の月日を消費して日本一周を経て都に辿り着くことが出来ました。


「着いた……。やっと着いた……。長かったわよ。ここまで……で? どうなるの? 鬼ヶ島迄の道を聞くのよね?」


 五年の月日を費やした桃太郎一行が見たのは、鬼に滅ぼされた都の廃墟でした。都の住人など一人もおらず、廃墟を漁る鬼が点在するだけでした。


「馬鹿ぁ! 時間かかりすぎなのよ! 桃太郎が鬼ヶ島を攻め滅ぼすんじゃなかったの!? 鬼が都を攻め滅ぼしてんじゃない! どうなるのよこの話! 鬼ヶ島に本当に辿り着けるの? あらすじじゃなくて、既に別の話に刷り変わってるんじゃないの?」


 桃太郎は途方に暮れました。鬼ヶ島への道程を聞く筈の唯一の手掛かりを無くしてしまったのです。そしてやけくそになりました。


『こうなったらそこいらにいる鬼を殺して経験値を貯めてやる!』


「経験値なんてどうでもいいわよ! 鬼でも捕まえて鬼ヶ島の場所でも聞きなさいよ! 尋問でも拷問でもして聞き出しなさいよ!」


『なるほど。そうゆう手があったか』


 桃太郎は誰かわからない意味不明の声の主の言葉に深く納得しました。そして桃太郎は、闊歩している鬼を睨み付けると、犬と猿と雉に鬼を捕まえるように命令しました。【ドンドンいこうぜ!!】です。


「ドンドンいこうぜ!! じゃないわよ! 命令してどうするのよ! あんたが動きなさいよ! 桃太郎って何よ! 指揮官か何かなの!? ドンドン行くならあんたも行きなさいよね! というか、その刀は何の為の刀なのよ!」


 お爺さんに刀を貰えと言ったのは貴女ですが?


「五月蝿いわよ! 桃太郎に刀、王道じゃないの! 桃太郎に妖刀とか、桃太郎にいかがわしい本とかおかしいでしょ! カードなんてもっての他なのよ!」


 あまり怒鳴ると血圧が上がりますよ。


「な……! 血圧なん――」


 高血圧症になりそうな方は放っておいて、桃太郎の放った犬猿雉はぶつくさと文句を言いながら、鬼をすんなりと捕まえてきました。桃太郎一行は、五年の放浪年月の間に桃太郎以外のレベルが異常に上がっていたのです。


「じゃ、じゃあ五年間って、無駄じゃなかったのね? 都は滅ぼされてしまったけど、桃太郎たちは強くなったのね?」


 桃太郎以外です。桃太郎たちではありません。それにレベルアップに噛み付かないのですね。まあ、どうでもよいことですが。


 鬼を捕まえた犬猿雉は、桃太郎の前に鬼を突き出すと、鬼の身動きが出来ないように押さえ付けました。


『よし。準備は出来たようだな。それでは尋問、もとい、そんな煩わしいことは止めて拷問を開始しようではないか!』


 掛け声が必要だったのかどうかは知らないが、桃太郎はそう大声を出すと、いきなり鬼の足をむんずと掴み、指の爪を一本一本ゆっくりと剥がし始めました。鬼は叫び声をあげて暴れましたが、桃太郎の配下の二匹と一羽のレベルは非常に高くなっており、少し暴れたところで苦にもなりません。


 鬼にとってはたまったものではありません。何故なら鬼は、何故拷問を受けているのか理解していなかったからです。それも当然、桃太郎は拷問の理由も告げずに拷問を始めたのですから。


 鬼は暴れながら、涙ながらに桃太郎に問いかけました。


『お、おい……。に、人間! な、な、ぎゃあ! な、な、な、何故……、こんな……うぎゃあああ! こんな! ことを、する……んだ!!』


『貴様は馬鹿か! 俺様のストレス発散に決まっておるではないか!』


 桃太郎は拷問を一時中断して、腕組みをしながら、鬼を見下して答え――


「待てぇい! あんたのストレス発散の為じゃないでしょうが! だいたいストレスの原因は、あんたの方向音痴と世間知らずの所為でしょうが! 鬼ヶ島でしょ! 鬼ヶ島の場所を聞き出すのが、目的でしょ!」


 謎の声を聞き、桃太郎は大きく頷き鬼に言い放ちました。


『早く鬼ヶ島の場所を吐け!』


「順番が逆でしょ!」


 鬼は怯えた目をしながら、無我夢中で鬼ヶ島への行き道を詳しく説明しました。が、桃太郎には、その要所要所にある目印となる目的地すらわからなかったのです。


『それでは全くわからん! もっとわかりやすく説明しろ!』


 鬼も必死です。細かい注意点や目印の建物、田畑やそこに到るまでの時間を事細かく説明しますが、世間知らずの桃太郎には何のことやらさっぱりです。挙げ句の果てには――


『もうええ! ピーチクパーチク五月蝿いだけで、何もわからんわ! 教える気が無いなら初めからそう言えや! 拷問の再開や! ストレス発散や!』


 匙を投げました。現実逃避甚だしいとはこのことです。


「しかも、どうして関西風の喋り方になってるのよ!」


 拷問を再開されたら困るのは鬼です。そして鬼は――


『桃太郎さん。桃太郎さん。お腰につけた吉備団子一つ私にくださいな』


 とんでもない事を言ってしまいました。


「駄目! この流れは――」


『五月蝿い! 貴様、吉備団子が欲しいのか! じゃあ俺様を鬼ヶ島へ連れて行け! そして仲間の鬼をなぶり殺しにしろ! そして最後に貴様が自害しろ! 拒否権は無い! 前言撤回などもっての他だ! 黙秘権も無いが、喋ると五月蝿いので、貴様のその表情が俺様の言葉を全て受け入れる姿勢であるということにしてやる!』


「ぁあ! やってしまったのね……」


 こうして桃太郎は、神風特攻隊の鬼一号を配下に加えることに成功し、鬼ヶ島まで迷う事なく辿り着けたのでした。


『初めからこうしてたら良かったな……』


 しみじみと語る桃太郎でしたが、配下の四体は発言権が無いので、ただ下を向くしか出来ませんでした。よし! あらすじが終わったぞー!


「待てぇぇぇい!! やっぱり違う話になってるじゃない! あらすじの前は、犬と猿と雉を連れて鬼ヶ島に到着したことになってたのよ! 鬼一号が増えてるじゃない!」


 鬼一号が増えようが居まいが、関係ありません。何故なら、鬼一号を除けば犬猿雉を連れて鬼ヶ島に到着したのですから。


「そんな勝手な言いわ――」


 話が進まないだろ!? わかってくれよ……。終わらしたいんだよ! 少しでも早く。ぐずぐずしてたらデートに遅れちゃうだろ? それとも何か? お前が俺の彼女になってくれんのか? 死ぬまで半永久的に俺の彼女として生きてくれんのかよ!


「え? あ……え〜とぉ……。え? これってもしかして! プロポー――」


 違うわ! どんな頭してんだあんたは! 話が進まないだろと言ってるんだ! デートに遅れるだろと言ってるんだ! 馬鹿なのか!


「これが世に聞くツンデ――」


 だーかーらー!! 違うてーの! 話が進まないじゃないか! 話を進ませられないじゃないか! プロポーズでも、ツンデレでもねーての!!


「あらあら。まあまあ。可愛いわね。照れるとこんな話し方になるのね。新たな一面よね。そして、こうして新たな一面を少しずつ見せあいながら、一生を共にしていくのね」


 あんたの頭の中はお花畑か?


「大丈夫よ。お花畑なんて広くなくても。私は一輪の薔薇で十分よ」


 頭の中に虫でもわいてるのか? 一年中長閑な春の景色が流れてるのか?


「無視なんかしないわよ。大事な旦那様の言葉じゃない。一年中春……。いいわね。過ごしやすくて。しかも長閑なんて。そういう長閑な住宅街に住みたいの? 私達、まだ付き合って一日も経ってないのに……」


 付き合ってもないわ!! 無視じゃなくて虫だっての! あー本当にデートに遅れてしまう。


 と、とりあえず桃太郎一行は、鬼一号が特攻し阿鼻叫喚の絵図を開いたところで、配下の二匹と一羽がその洒落にならない高レベルで残りの雑兵を駆逐すると、瞬く間に鬼ヶ島を占拠してしまったのでした。


「桃太郎凄い!」


 も、文句を言われないのが気色悪い……。


 そして囚われた女を助けようとして……


『好みではないな』


 と、その場に置き去り。金銀財宝だけをたんまり入手すると、すたこらさっさと家へ帰っていきました。


「帰る時は早いのね」


 迷わなかったの? とかツッコミはないんだね……。


 そして桃太郎は死ぬまで働くこともなく、豪勢な暮らしを続けるのでした。おしまい。


「ニートなのに、豪遊とか桃太郎ぽいわね。あー私も玉の輿に乗りたーい」


 あ、あんた……。


「で、犬と猿と雉は?」


 あ……。鬼ヶ島に忘れてきた……。


「まあいいんじゃない? 高レベルなんだし」


 良いのかよ!


「さぁ! デートに行くわよー!」


 あんたとじゃねーよ!


「えー! もう嘘つきね! あんなに熱烈なプロポーズまでしておいて」


 え? このままだと堂々巡りやっちゃうよ? 終われるの?


「じゃあ何処行くー?」







 とりあえず閉めとこ……。


「ねぇねぇたっくん」


 誰がたっくんだ!!

 で? 本当の終わりはいつ?


「ダーリ―ン」


 違うから……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 私も桃太郎の別話書いたけどここまで笑えなかった面白かったよ。
[一言] 突如現れるお婆さん、桃以外から生まれる桃太郎、話し手の話す物語に聞き手の突っ込み、桃太郎と聞き手の会話、傍若無人な桃太郎、初めから終わりまで色々と違う物語…… もはや、混沌としていますね。…
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