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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第一章*全力(マッハ)で花嫁修業を企てます

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6★閑話:ウワサと悪評は紙一重?【副料理長・ガイside】




 俺の名前はガイ。

 性別、オス。年齢、花盛りの18歳。もちろん独身。


 あー、あと職業は……

ビックリするなよ?こう見えて実はアズライト王家専属の宮廷料理人で、ついでに副料理長をしているんだ。


 それから見た目ね。

 んー、そうだなぁ。チャームポイントは月のようにきらめく金髪と、この猫みたいなカタチの目かな。なかなかハンサムな方だと思うよ。

 「自分で言っちゃうの?」って?まぁまぁ!ここで大体笑うとこだから。気にしない気にしなぁーい。


 なんてね。自己紹介する時は、こんな感じかな。

 主に"月夜会(つきやかい)"での話なんだけど。


 月夜会ってのは、舞踏会とかイベントで上手く楽しめなかった男女が、二次会として親睦を深めるために開かれるそうなんだ。まっ、言っちゃえば非公式な出会いの場なのさ。

 でも、こんな会が存在するなんてアズライト王国くらいだから。最初ビックリしたよ。……知ってた?


 で、こんな感じで"かるーく自由に生きる"がモットーの俺が。なーんで、わざわざ王宮で働いてんの?って話。

 実は理由があるんだ。

 あ、そこの人!興味無いとか言っちゃダーメ。



 自分で言うのもなんだけど、俺の家はわりと裕福な家庭だった。アレだ、貴族階級。おかげで生活に困ったことは一度だって無い。


 その代わり、と言ってはなんだが、オレが人生で一番欲しいと願った"自由"は、手に入らないんだって知った。ないものねだり、ってやつだけど。

 俺が長男って理由もあって、敷かれたレールの上には自由なんか一欠片も無いって気づいたんだ。


 でも、俺は料理するのが好きなんだ。

 手を動かして、知らない味に出会う、あの自由な感覚が。だから料理の道で自由にやっていきたかった。


 そんな俺は、ある日、ぜーーんぶ投げ出すことにした。家出ってやつ。

 最初は不安もあったけど、いざ行動に移してみたら"楽しい"って気持ちの方が強くなった。

 鞄一つで転々と旅をして、いろんな国の、知らない街の食文化に触れて。五感をフルに使って味を探求する日々は、本当に充実してた。


 だけどそれも、長くは続かない。

 結局、家のヤツらが捜しに来て、俺は鳥籠に連れ戻されることになるってワケ。

 ……でも負けない……。

 そっから何とか必死こいて親父を説得して、ついに料理人でいることは許してもらった。

 だけど与えられたのは──条件付きの、仮初めの自由。


 ……で、送り込まれたのがココ。『アズライト』王家だ。


 まさかの宮廷料理人デビューだったが、料理さえできれば何でもいっか程度に思ってた。

 だが王宮(ココ)は、あまりに酷かった。

 ワケわかんない青い着色料で塗り固められた食べ物ばっかりだし、しかも、それを好き好んでるって国の文化なんだから俺はお手上げよ。


 あと、唯一の楽しみといえば女の子たちとの会話。

 チャラい?いやいや、俺喋んないと死んじゃうんだもん!


 そのつもりが、『王宮では品格の無い行為は許されない』って理由で話すことさえ許してくれない、侍女の子たち。

 ってか、それもこれも原因は王女サマにあった。第一王女のルナリア様ね。

 彼女に目を付けられたら最後らしい。


 そんなワケだから、嫌われないように仲良くしようと思ったんだ。

 だが……アレは忘れない。

 お近づきのシルシに初めて彼女に振舞った、俺の故郷の料理。ハムエッグとナポレオン。

 わりと素朴な味だけど、彼女はそれを見て一口も口を付けずに一言発した。


「……これを私に食しなさいと?」


 どキツイ目尻をクワッ!と吊り上がらせて、それから唖然とする俺に向かって、皿ごと投げ付けたのだ。


 ブチ切れそうになったが、相手は十も満たない子ども。何とか気を鎮めて対応したってのに、彼女は俺の態度ぜんぶが気に入らないらしかった。

 もっと厄介だったのは王サマだ。

 ウォーレス陛下は娘溺愛してるから、いっつも悪いのは俺になる。


 と、まぁ、色々疲れて。

 ショージキやる気が失せてった。



 やがて俺は──料理の楽しさを忘れた。



 そんで今日も、テキトーにテキトーな仕事をして一日をつぶすつもりだった。

 午後の光が窓から差し込む、静かで薄暗い厨房。

 そう、"つもり"だった。

 ──『彼女』が現れるまでは。


 いつも通りテキトーな時間に厨房に行くと、そこには珍しいお客サマ。

 何事かと思えば、この仕事熱心な新人侍女は"ルナリアサマ"のことが知りたいらしい。

 可哀想に、と半ば同情心が芽生える。彼女もすぐに王女に潰されるだろう、と。


 まあ、俺にとってはそんなことよりも。


「ね、それよりルーナちゃんだっけ」


(……気になるな)


 ヘッドキャップからは、パウダーピンクの髪がこぼれ、金貨のようなまあるい瞳は警戒心を知らない純粋さで、なんとなく俺の鈍っていた嗜虐心をくすぐる。


「君どこから来たの?よかったら、この後──」


 二人でイイトコ行かない?なんて、予定していた言葉は紡ぐことも叶わず、肩に乗せていた腕をバッ!と勢いよく振り払われてしまう。


「…ルーナちゃん?」


 嫌われたかと、ほんの少し本気で窺うように覗き込んだ瞬間。俺は見覚えのあるイヤ〜な青い目を思い出した。

 のも束の間、

 彼女はキッ!と俺を見据えて。


「──その長髪!そのピアス!それから……その着崩し方!衛生面的によろしくないですわ。オシャレとナンパは厨房の外でお願いしますね」


 ポカーン……と、一瞬に思考を止めてしまった。

 ここまで芯を食ったことを言われることなんか普段無い。しかしそれは、自分が料理人として修行していた頃の、衛生観念を厳しく教えられた……懐かしい記憶を呼び起こす言葉にもなっていた。


 「あぁ、料理長もですわよ」と、いらん情報まで付け足される。

 え、イマドキ髭って流行るの?

 とは思ってたケド……ってそうじゃない。


「それから………厨房(ここ)!前から気になってはおりましたが、やや乱れが目立ちますわっ! 少しの乱れを嗅ぎつけて、あいつら……コホン。"闇の使い魔"たちはやって来るのです。ということですから──」


 "闇の使い魔"って何のこと?

 間髪いれる間もなく、彼女は腕組みをして宣言する。


「料理の質は厨房の質からですよ。 いち、にの、さん、はい!料理の質は~?厨房の質!!」

「「料理の質は、厨房の質…」」


 思考が停止している間に勝手に反応していた。あれ。なんで俺、まんまと復唱なんかしてるんだ。

 しかもその声は俺だけじゃなく、あの不愛想で頑固な料理長・黒ひげまで。



 言いたいことを言って颯爽と厨房を後にした彼女の後ろ姿に、俺は俄然興味が湧いてしまった。

 その後も『ルーナ』という名の侍女だという以外、なんの情報も得られなかったのだが。

 先程の言葉と、一瞬見せた有無を言わさぬオーラが、まるで忘れかけていた俺の情熱に小さな火種を灯したような気がした。


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