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Lucent Kingdom〜王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第一章*全力(マッハ)で花嫁修業を企てます
5/7

3*カルチャー・ショック!




 サッサッサッ。のこのこのこのこ。

 右よし左よし、前方後方……よし、誰もいない。


 明け方4時前。まだまだ外は暗い。

 ちなみに、ここの世界は今、季節で言うと春にあたる。おかげで肌寒いから、白いブランケットを羽織った。羊毛かな?すごいあったかい。

 それより、こんな早朝に何をしているのかというとだ。

 無事に国王……お父様のお許しも出たことで、あれから数日。私は最初の計画通りに準備を進めていた。


(まずは形から、って言うし…)


 この国には一体どんな食材があるのか。


 もちろん今まで食べてはきたけど、今の私にはどれもカルチャーショックを受けるものが多い。

 食材や調理道具については、アズライト家のシェフたちに事前調査済み。使用許可も出たので、早速使ってみようと厨房へやって来たところだ。

 確実に誰も厨房を使わない時間帯に合わせ、最近は早起きを頑張っている。それも、色々試行錯誤するのに、見られたらやりにくいんだもん。



 これは、春川 芽瑠として生きていた頃の記憶。



 母親は私が幼い頃に病死している。境遇がルナリアと少し似ているのは偶然か運命か…。


 とにかく、父子家庭だったためか、家事全般は私が担っていた。

 大学に行きながら学業と家事との両立は簡単じゃなくて、プライベートといえば家でゲームするだけだったけれど…。それでも料理とかお裁縫とか、ちょっとしたインテリアにこだわるのも密かな趣味で楽しんでいた。

 その頃の経験もあってか、厨房に立つと不思議と血が騒ぐ。


 話は王宮の厨房に戻して。



 西洋のようなデザインは、実は見た目だけ。

 使い勝手は私の知るキッチンとそんなに変わらない……はず。水道があって、ガスコンロがあって、オーブンがあって〜。

 ただ、王宮だからどれも立派な製品ばかり。使い心地はどうだろ?私に使いこなせるかな?

 気後れ半分で早速、冷蔵庫から生卵を取り出した。


「こ、これは思ったよりも…軽い?」


 思わず出た言葉。

 実はこれ、結構重要なことなのだ。

 ひとえに生卵といっても、この世界には何と!数百もの種類の卵がある。調理法によって使い分けるらしい。

 ちなみに今のは、【細かい気泡が立ちやすく、卵白はメレンゲ向き。焼くとフワッとする。】?

 なるほどね。あ!もしかして。


 今度は別の卵を割ってみる。

【卵黄の比率が高い。主にプリン、ティラミス、マヨネーズなどに使われる。】だって。

 へー!すごい。殻も黄色だ!卵一つで、この奥深さ。

 はぁ〜と感心しつつ、私は少しワクワクした。料理関係だとルーキンには出てこなかった情報ばかりだからだ。

 私は、まだこの世界の半分…いや、半分以上も知らないんじゃないかな。



 それから、あることに気づいた。

 この世界に数百種類もの卵があるというのに、なんと王宮の厨房には2,3,4,5……

 六種類しか置いてないのだ!

 選りすぐりの、万能に使えるような種類だけを置いてるみたい。


(……もったいない。もったいなさすぎるよ!)


 そういえばルーキンの作中で、ルーセント王国の貴族が言ってた。

 「我が祖国(ルーセント)は美食家の国」って。

 だが、残念ながらアズライトはあまり食への関心が高くない。

 しかも問題はそれだけじゃなくて、根本的にカルチャー・ショックを受ける大きな問題が一つあるのだ。





「って、聞いてます!?」

「…へ?」


 ぼんやりと寝起きの意識半分の私の髪を結いながら、マリーが突然大きな声を出した。

 ごめんマリー。早朝起きて二度寝してる私に、この太陽は眩しすぎるの…!

 素直に「ごめん聞いてなかった」と伝えると、クワッ!とマリーの目尻が上がった。

 ……なんだろ。最近私への態度が変わった気がする。

 そんなに今までの私のメイクが怖かったってこと!?


「もうっ!みんなルナリア様のことが心配なんですよ!?」



(いやいや、絶対違うよ!)


 確かに最近は、王宮内の色んな人が声をかけてくれる。

 マリーの他の侍女の子とか、王宮シェフの皆さんとか。

 距離が縮まった感はあった。でも、メイクを変えたとか、挨拶をするようになったとか、そんな普通のことで過去は覆せないのだ。悪評高いルナリアの闇は根深い…トホホ…。


「お食事もあまり喉を通らない様子ですし、やはり傷が痛むのでは…?」

「! い、いやー…そのぉ…」


(喉を通らないのは不可抗力なんですっ)


 実は……芽瑠の記憶がハッキリと蘇ってしまった今、食事に対するカルチャーショックが強すぎて、ひっそりと葛藤していた。


 特にそれを感じたのが“色”。

 例えば。お父様とお母様の想い出の一品である、“アズーラスープ”。

 私の知る“ボルシチ”と味も似ているのは確かだが、決定的な違いが見た目にあった。

 ボルシチはビーツを使うので、スープが鮮やかな深紅になるのが何よりの特徴。対してアズーラスープの方は、この国発祥の“アズルアの実”という野菜を使っているため、…その…何と、驚きの青さが特徴なんだよね……!

 しかも、料理の着色にはよく使われる。


(色のせいで食欲も湧かないのよぅ…。)


 それなら着色を赤に変えてもらえばいいじゃない!

 と、言いたいところなんだけれども。ここでまたカルチャーショック発生。

 アズライトの人々にとっては“青”こそが祖国を表す色だ。だが、その反対で“赤”は血を連想させ、縁起が悪いと言い伝えられてきた。

 ……つまりは、そんなワケで食品に赤を用るなんて言語道断!

 ニホンで青い食品が異様に感じるように、アズライトで赤い食品が並ぶのは異様に見えるのだ。


「とにかくっ!今日はもう少し、お召し上がりくださいね?じゃないと治るものも治りません!」

「…ぅ、努力はするわ」


 美味しく食事ができないなんて、生きた心地がしないよ。

 ……いっそ、ルーセントに行ったら国外追放に進めてもらっていいかな?

 悪役の威厳も、食には敵わない。

 私はガックリと肩を落とした。


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