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Lucent Kingdom〜王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第一章*全力(マッハ)で花嫁修業を企てます
3/7

1*婚約破棄を糧にすることにした




「“アズライト王国第一王女ルナリア・メル・アズライトと、ルーセント王国第一王子ルヴィウス・ヴァン・ルーセントの婚約関係を破棄とする”……?」





 紙切れ一枚に書かれた内容は、あまりに無機質に事を告げていた。


「これは…一体、どういうことなんだ」


 便箋を手に持ったままカタカタと怒りで肩を震わせたのは、私のお父様―――アズライト王国・国王陛下、ウォーレス・メル・アズライトだ。


(あぁ…くる)


 来る。きっと来る。嫌な予感しかしない。


 ギラギラと光る金の瞳には完ッ全に“怒”。

 そして、燃えるような赤にも近いオレンジ色の髪と、同じ色の眉を顰めれば荘厳な雰囲気も抜群だ。

 不意に、見ないようにしていた前方―――お父様の顔をチラッと盗み見ようとすれば、ヒッ!……バッチリ目が合ってしまった。


「ルナリアを蔑ろにするなどと……あの腑抜けた王とバカ息子共々、私は許さない。」


 私は思わずゴクリと生唾を呑んだ。

 こんなこと隣国の誰かに聞かれたら大問題だ。腑抜けた王とバカ息子呼ばわりだけれども、実際親バカはこっちなんだよなぁ…。

 ルヴィウスに嫌われるようなことをしちゃったルナリアの自業自得だし、むしろごめんなさいと私は言いたい。


 それに、私としてはルナリアの記憶なんて黒歴史なので直隠したかった。お願いだから今までの私のことは若気の至りで許してほしい。

 …とか、ちゃっかり思っている。

 とは言え、“事後”じゃなかっただけツイてる方だと思う。


「仕方がない、こうとなっては交渉開始…といくしかないようだな」


 はい、ニヤリと大魔王が笑いましたー!

 それはそれは絵に描いたような悪い人って感じだった。こうなったら止めらんないんだよね…。なるようになれ!それよりも、私は今後の身の振り方を考えたほうがよさそうだ。




***************




 面白いぐらいシナリオ通りに進む、お父様による“お膳立て”。それはあと少しで完成するところまで来ていた。

 私が舞台に立つその日まで、猶予はあと一年。

 既に物語は始まっていると思うけれど、ルナリアの出番まではまだだ。



 ―――シナリオの流れとしてはこうだ。


 今頃、アンジュはサミュエル国王に見初められたあたりだと思う。

 その一方、こっちはこっちで最近お父様が何やら動いているらしい。怪しい。非常に怪しい。でも今の私ならそれが何を意味するのかわかるから、まあいいや。


 恐らくお父様は、サミュエル国王と話つけて私をルヴィウス以外の王子様たちの婚約者候補として迎えさせる計画を立てている。

 ……わかっちゃいるけど気が気じゃない。

 だって、その“婚約者候補”がアンジュの攻略対象の皆様なんだもん。もうやだ。八方塞がりじゃん。とほほ…。



 ってことで、嫌でも全員と顔を合わせるなら、私は私で今からできることをやろうと思い立った。半ば開き直りというやつだ。

 目指すは、ルーセント王国攻略対象以外で誰か素敵なイケメンをゲットだぜ!!


 その為にはまず自分磨き、もとい花嫁修業へ結びついた。それならお父様も「おっ、ルナリアのやつ張り切ってるな」みたいな感じでうまーく勘違いしてくれるだろう。最初はそれでいいのだ。その後、誠実なイケメンを連れて可愛く謝ればお父様も許してくれるだろう。

 親バカとは言え、娘の幸せ一番な良いパパだからね。


「さて、と…」


 重い腰を上げて、私はそっと部屋を出た。



 ところで皆様―――、忘れてはいないだろうか?私が痛がっていた脇腹のことを。

 実はこれ、私を狙った暗殺者に弓矢で射られたものらしかった。どうりで痛いわけだ。

 ……うわーん!私が何をしたんだ!


 と言うのも、ルナリアってかなり人から恨みを買う性格だから、ただでさえ死亡フラグが半端ないのだ。え?ちょっと待ってよ!芽瑠だった私からすれば考えられない!


 ルナリアの人格は、厳密に言うと私の中にはもうない。芽瑠で塗り替えられてしまい、記憶だけ“共有”されていた。

 だとしても今までのルナリアの悪評は、今更変わらないだろう。取り敢えず、殺されないように身の回りに警戒しよう…。

 考えても仕方がないので、今の私は今の私らしくやっていくしかない。


「―――お嬢様!」

「ギャッ!?」


 警戒しようって言ったそばから反応が遅れたっ!

 ―――って、あれ…?

 振り返って距離を取ると、見覚えのある顔が驚いたように目を見開いた。

 彼は、私が目覚めた時にも心配してくれた執事服の青年だ。彼の場合コスプレじゃなくて本当に私の執事の、シリル・グレイアスである。


「驚かせてしまって申し訳ございません。しかし…お体の具合は大丈夫なのですか…?」

「え、えぇ!ご心配おかけしましたわ。目が覚めた時も一番側にいてくれて…その……ありがとう」


 そう言って私は、また彼に心配かけないように微笑んで見せる。だけどシリルは、更に驚きの表情を明らかに滲ませただけだった。


 失敗した……。ルナリアが執事に「ありがとう」とか言ったことなかった。やばい。怪しまれた?

 内心冷や汗でドキドキしていたが、そんな不安をよそにシリルは胸に手を当て、


「っ…もったいなき、御言葉でございます…」


 何かに耐えるみたいに、絞り出すように言葉を紡いだ。

 そうだよねー…!

 ルナリアには今まで散々、やること成すこと小姑のごとくダメダメ言われてきたのだ。この反応で当然と言ったら当然かもしれない。

 勝手に一人納得していると、不意にシリルが「ルナリア様」と切り出した。


「うん、何?」

「無礼を承知で申します。私は……ずっと貴女様のことを勘違いしておりました」

「エッ!?」

「…っふふ。ルナリア様。私はルナリア様の今の一言で、これまでの全てのことが報われた気持ちにあります。貴女様が主でよかった…とても光栄だ。」


 え、え!?なんか後半、素が出てます…!?

 固まる私の意思など関係ないのか、シリルは私に距離を詰めると、ストン…とその場に跪いた。


「どうか、どうか……これからもルナリア様だけに仕えさせてほしい。そう、切に望んでおります」


 ……ちょっと表情がヤンデレチックだったのはこの際見なかったことにする。

 シリルは妖しく笑って、私の左手を取ると、そのままチュッ…と手の甲にキスを落とした。


 ふ、へ、はは、は。シリルのやつ、こんなことするやつだったっけ。いや違う(即答)。まさか「ありがとう」一つだけで、こんな反応がくるとは予想外だった。

 って、そんなことより今の私、絶対に顔がヤバい…!


 だって!たとえ手の甲だとしても、キスなんてその、し、処女で死んだ私には刺激が強すぎるんだよっ!

 そのあたりガキんちょで悪かったけれど、片想いともかく恋愛はまともにしたことないんだもん…!こんなのカルチャーショックだよ!


 幸い、シリルが顔を伏せていたのが救いだったのだが、それも長い時間は続かない。


「シリル!ま、ままま、待って!今顔上げないでっ!」

「え?―――…っ!!」


 目が合ってすぐにシリルから手を引き抜き、後ろを向いたが…遅かった。これ絶対見た。


「……」

「……」

「…ルナr」

「わ、わー!皆まで言わないで、今のは見なかったことにして!さもなくば、し、執事クビよっ!それとシリル!……ゴホンッ。私の怪我の具合が良くなったら外出許可を取って頂戴。あと、厨房を借りられるように料理長にお願いしておいて?以上よ。解散!じゃっ!」


 何とかルナリアっぽくなるように言い逃げすると私は、シリルの返事も待たずして、吸い込まれるように自室へ戻った。

 ……「逃げちゃダメじゃん」というツッコミは入れないでほしい。自覚している。私のバカバカバカだ。

 そもそもこの免疫の具合で、よくイケメンどうこう言えたもんだった……うぅ。課題は山積みだ。


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