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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第二章*祖国(アズライト)を知るべきです

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6-2*山登りなんて聞いてない【俯瞰side】




 ルナリアの突拍子もない言葉に、ユリウスの手は再びピタ…と、今度は完全に止まった。


「……火魔法の自動供給で、熱エネルギーを再利用……通年……?」


 ルナリアの前世の記憶から来る発想は、この剣と魔法の世界の技術者にとって──も、そうなのだが、この土地に住んでいれば、なお盲点だった。


 ここ、ステラ・テテラはとにかく暑さが年々増している。


 山に籠っていれば夏は困りもしないのだが、町の人たちはそうにもいかず。

 そして、近年"温暖化"の影響を受けていて、夏は年々暑くなると予想されていた。

 そのことにより現在、町では、ステラ・テテラに住む水魔法の使い手が総動員され、氷を届けるボランティアが行われ、何とか凌いでいるそうなのだが……。


 という理由で、この発明自体も"夏を凌ぐこと"をテーマに作り始めたものだった。


「ええ。そうなれば、"その子"は季節を問わず、完璧な温度で飲み物を提供する『魔法の宝箱』になるわね。ゆくゆくは寒さで困っている地にも届けたら、文字通り重宝されるはず。世界が変わる、第一歩だわ」


 彼の手元にある機械を指差して、にこやかに告げた。

 ルナリアは知っていた。

 ユリウスが"金銭的な欲"よりも、"世界を変える"というロマンに惹かれることを。


「世界を……変える、か」


 ユリウスは銀白色の瞳を細め、しばらく考え込んでいた。その表情は、技術的な課題に挑戦する科学者の顔になっている。


「あぁ!それから、暑さを凌ぐために"風魔法"をと"水魔法"を掛け合わせた機械の導入はどうかしら?『風の国』の知恵を借りて、応用したら──」


「!!ちょ、ちょっと待て!今書き起す」


 次から次へと出てくる発想に、ユリウスは雷に打たれた気分だった。


(なぜ、こんな逸材が今まで噂にもならなかったんだ……?)


 噂話など、わざわざ自分から耳に入れないユリウスでも新聞は読む。なので、彼女のことはある程度知っていたのだが。

『国王が溺愛する王女は、穀潰しである』

『この王女あってして、アズライトに未来はあるのか?』

 ……そんな皮肉めいた内容を書いた者の名前は、当然、以降見なくなるのだが。

 時々町に訪れると、聞いてもいないのに政治や国王に対する不満が耳に入ることもあった。

 しかし……そんな彼女が今日、わざわざこの辺鄙な山奥まで尋ねて来た理由とは一体。


「王女殿下。わざわざ貴女がここまで私を訪ねるほどの"とっておきの発明"とは、何のことなんだ?」


 ユリウスは、ルナリアが目的を持って来たことを思い出した。

 そして先程まで機械に向けていたと同じような熱視線で見上げ、じっと彼女を見つめた。

 ルナリアはクスッと笑う。


「やっと興味が出てきたかしら?……本題よ、ユリウス」


 ルナリアは、昨日写真館で見たプロジェクターと、夜空の美しさ、そして海風の気持ち良さを思い出しながら、核心を突く。


「ユリウス。あなたは、写真館にあるような"過去の光景"を壁に投影するプロジェクターを発明したわよね。あれは、素晴らしいアイテムだわ。だけどね、私があなたに作ってほしいのは……それを応用した【今、遠くで起きている光景】をこの壁に映し出す魔法具よ。──そう『リアルタイム・プロジェクター』。」


 ルナリアは、少し声を潜めて言った。


「"リアルタイム"?現在の光景を瞬時に捕捉し、伝導し、投影すればいいのか?そのくらいなら…」

「ストップ!景色だけじゃないのよ」

「はぁ……?」


 ルナリアは、続けた。


「重要なのはプロジェクターの概念を覆すことよ。つまり、視覚的要素だけでないわ。たとえば……そうね、……鳥のさえずり、風の『音』。山の澄んだ空気の『香り』。陽の光を『肌』で感じたいのよ」


 ユリウスの瞳の奥が、激しく揺れた。


 金や名誉への欲ではなく、純粋な技術への探求心と、前人未踏の領域への好奇心……そして、そんなことが実現するのか、という懐疑心からくる揺らぎだった。


「……それはっ、」


 彼は静かに、だが震える声で呟いた。

 「できるのか?そんなことが」。そんな情けない言葉を言いかけたが、ユリウスは、いや、と揉み消した。

 それはこの世界の魔法技術の限界に挑む、途方もないアイデアだった。


「可能かしら?ユリウス・パラディウム」


 ルナリアは自信をもって問う。もはやNOなど言わせないように。

 この男は、不可能を可能にする狂気と才能を持っていることを、この私が保証する、と確信していて。


「面白い……非常に面白い。遠隔地との魔力伝導を安定させる機構。『今』を映し出すための魔法理論。視覚のみならず、聴覚、嗅覚、触覚を刺激するプロジェクターの概念を覆すアイデア……」


 ユリウスは口元を歪ませ、まるで極上の難問を与えられた数学者のように笑った。


「その『リアルタイム・プロジェクター』、作らせてもらおうじゃないか。報酬は?私は金や名誉には興味がない。……だが、私がまだ触れていない、最高に面白い魔法具の素材を提供をしてもらうことはできるだろうか?」


 ルナリアは大きく頷いた。交渉成立だ。


「ええ、それはもちろんよ。あなたが必要とする最高の素材を提供することを約束するわ。……そうそう、その『魔法の箱』のほうもね。"彼"の知識と能力は役に立つんじゃない?」


 ルナリアは、好奇心と興奮の色を瞳に滲ませていたガイをちらりと見て、ユリウスに紹介した。

 ガイは"火魔法"の使い手だ。

 それに日常的に、呼吸をするように使いこなしている様子から、かなりの上級者とも思える。


「あ、そういえば!」


 ルナリアはふと思い出し、ユリウスに訊ねた。


「ユリウス、あなた魔法は使えるの?」


 ルナリアからすれば、この天才発明家なら全ての属性を操っていてもおかしくないように思えるのだが。

 そして原作では、彼の魔法について触れたことがないので、知らなかった。


「魔法?ああ、物作りには魔力が不可欠だからね。私は"雷属性"なら少し使える……といっても、動力源くらいにしか使っていないが」


『雷属性』──。

 世界で見てもその使い手は、多くはないのだが、今のところ日常的には使う場面が広くないのがデメリットだったりする。

 文明の進み的に見ても、電力より火力で明かりを灯すし、電力の応用自体がメジャーではない世界だ。

 しかしそれがユリウスの発明の電力供給源になっていたのか。なるほど、とルナリアは納得する。


(そうそう、魔法の世界なのに後回しにしてたわ……)


 自分の魔力について、ルナリアは思い返す。

 実はルナリアは、普通であれば父親譲りの『火』の属性魔法、そして亡き母から受け継いだ『水』の属性魔法、この二つが使えてしまうはずだった。

 過去のルナリアの記憶によれば、怒り任せに使っていた気がするのだが……芽瑠の意識では何せビビっていて、まだ試せていなかった。加減を間違えたら怖いからである。

 ただ、原作では『闇』という特異な……いかにも悪役が使うような魔法の使い手に変わってしまうので、過去のことはシナリオには出てこない。


(魔法を上手く使いこなせるようになったら、今後、調理にも利用できて良いと思うのだけど……)


 それでピン!ときて、思い立ったルナリアは、今度は勢い任せに言葉を発した。


「ところでユリウス、ここから図書館は近い?」


 床に散らばった本の山を一瞥して問う。


「図書館?ああ。そこの山を少し登れば、『ステラ山図書館』はあるが」


(ふむふむ……って、また登りかーい!)


 ルナリアはガックリと項垂れそうになったが、致し方ないと切り替えて、シリルとガイに目をやった。


「そしたらシリル、ガイ。その『ステラ山図書館』へ行くわよ!」


 そう高らかに宣言したが、馬車での長旅と山登りで疲労困憊だったガイの表情は引きつっていた。

 一行はユリウスに別れを告げて、その場を後にした。





 その後、再び小高い山を登り、図書館へ辿り着く。


 『ステラ山図書館』。

  王都にある王立図書館のような重々しい厳格さはなく、地元の人々や研究者が静かに利用する、親しみやすい空間だ。

 天井まで届く螺旋階段と、頭上には大きなステンドグラス。午後からの柔らかな光が差し込んでいて、図書館の中央を虹色に照らしていた。

 空間は、古い紙とインクの心地よい匂いで満ちている。


 ルナリアは魔法関連の書架を目指し、風のように奥へと消えると、シリルとガイは入り口付近のテーブルで置いてきぼりをくらう。


「最近のルナリア様は一度没頭すると、いつもああなるな……」


 シリルは眼鏡を押し上げながら、呆然と呟いた。


「ところでガイ。"待て"ができなければ先に帰るといい。王女の護衛は一人で事足りる」


「オイ、鬼畜眼鏡。俺はペットじゃねーっての」


 ガイは不機嫌そうに言い返した。


 シリルからしてみると、ここからが長いことは予想できているので、不本意だが、半分はガイの身を案じて言ったつもりだったのだが。もうどうでもいいなと流した。


「それに、弟子としては王女の役に立つはずだ。お傍を離れるワケにはいかないだろ?なんなら、お前こそ後は任せて帰ってもいいんだぜ?」


 ガイの言葉は、単なる反抗ではないように聞こえた。……余計な一言を除いては。

 シリルはフンと鼻を鳴らす。


「そんな"もったいない"こと、するわけないだろう」

「……は?」


 シリルの答えが思っていたのと違いすぎて、ガイは意味がわからず返事してしまった。


「この旅は、退屈凌ぎの王女のお遊びではない。そしてルナリア様をお傍で観察し、その深い真意を探ることができる絶好の機会なのだ……!それは私にとって、何ものにも変え難い時間。君のいる・いないに関わらず、この価値ある時間を無駄にするはずがないだろう?」


 ガイの瞳は、シリルの冷静だが熱のある言葉に揺れた。

 それっぽいことを言ってはいるが、なんというか……。


("漏れ出て"んだよな~……)


 ガイの中で改めて、"シリルはやべぇ男"認定が色濃くなった瞬間だった。



(……何喋ってんだろ、あの二人)


 ルナリアから見て、やや遠くに二人はいる。

 口喧嘩してる気もしなくもないが、今はそれどころじゃない。

 二人がいがみ合っているのもそっちのけで、ルナリアは書物を次々に運び出した。


「これは……『火魔法/水魔法・入門編』ね。こっちは『魔法具の基礎理論』か……うん、なかなか…わかりやすいわ」


(お!買取りさせてもらうことも、できるみたいね)


「ふふふふ…」


 そんな、別の意味で"漏れ出て"しまっているルナリアの様子を、二人は離れた所から対照的な表情で──一方は恍惚と、一方はやや退屈そうに──見ていたとは、全く眼中にないルナリアであった。


 そしてそれは、シリルの予想通り日暮れまで続いたのだった……。


.

(余談)私の中でユリウスはCV.小西克幸で脳内再生しています…

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