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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第二章*祖国(アズライト)を知るべきです

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18/21

6*山登りなんて聞いてない【ルナリア→俯瞰side】




 翌朝。


 私はシリルに起こされる前に、ステラ・テテラの暖かな自然光で目が覚めたので、眠い目をこすりながら起きてきた。

 すると、朝食のいい匂いが漂ってきて、寝起きの鼻を掠めた。


「おはよう……あら?」


 くん、くん。これは(シー)(フード)の香り。それから焼きたてのパンと卵と玉ねぎ。

 それと……何かしら?甘い香りもする。


「ルナリア様?」

「あっ」


 隅っこからカウンター越しに厨房を覗いている姿が、ガイにバレてしまった。

 しまった、お行儀悪かった。

 さすがにこのままの格好で身を乗り出して厨房内に入るのは……自分で自分を許せない。食堂みたいな作りなので、カウンター越しでも見えるのだが。

 無意識のうちに本能が、一歩手前のところで身体を留めていた。


 ガイは、そんなことは気にしていないようで「味見してみてくれ」と、小皿を差し出してきた。

 もちろんシリルが毒味はしてると言うが、なんだか不安そうだ。

 私は反射的にそれを受け取り、口もとに運ぶ。すると、お口いっぱいに地中海の香りが……!


「あなた……やっぱり天才なの?」


 私の一言に、ガイの、それまでの期待と不安の瞳が見開いた。

 程なくして緊張の糸が解けたのか、ガイは柔和な笑みで、フッ…と笑った。


「この土地、俺の肌に合ってるんだ」


 ガイの言葉の意がわからなくて、きょとん、としていると。

 ここ、ステラ・テテラに似た地中海の国がガイの出身国なのだと言う。

 海に囲まれた国はいくつか作ったが、どこだ?うーん。


 それはさておき、朝食は前日のうちにガイにリクエストをしてあった私。

「この土地ならではの食材を使った料理が食べてみたい」と。

 というのも昨日、市場を横目に見ててあることに気がついた。

 いつも王宮では、決まった(もちろん青い)食事ばかりしか出てこなかったが、ここ、ステラ・テテラ特産の食材は別に、青いものばっかりではない。

 つまり、王都に近いほど青いんじゃ?という仮説だ。


 私はもう少し、アズライト王国を知る必要がある。


 というわけで、ガイは渋々な様子で承諾してくれたのだが……しかし、だ。

 なぜ今まで、こんな才能が埋もれていたのか?

 舌に残る繊細で複雑な香りと味の余韻を味わいながら、ふと、思ってしまう。


 が、私はすぐにハッ!と気づいて、口を押さえた。


「申し訳なかったわ。ガイ」

「…えっ…。」


 私は初めて、ガイに正式に謝罪をした。


 ガイに"ルーナ"として初めて会った時、「皿を投げつけられた」と言っていたことを思い出したからだ。

 きっと、悪役王女(ルナリア)の前では料理人としての本領も発揮できていなかったに、違いない。


「たとえ過去の振る舞いだとしても、事実は変わらない。あなたの成長の芽を摘んだ罪は、重く受け止めているわ。」


 ご都合主義の悪役王女(ルナリア)の記憶は今の私には無いが、"お皿を投げつけた"、"罵声を浴びせた"という事実は残っているのだ。


「だから──」


 ガイの瞳をしっかり捉えて、今度は私のほうから彼の手を握った。心が伝わるように。


「今からでは遅いかもしれないけれど……。あなたとは、今後も良好な関係を結んでいきたいと思っているのよ。それは行動で示していくわね」


 しっかりと伝えてから、握った手をパッと離した。

 するとガイは、手のひらで自身の顔を覆って、…ハァ、と小さく息を零した。


「あーあ……今のルナリア王女と、もっと早く出会っていたかったよ」


 と……。

 やっぱ、今からじゃ遅い!?


「…違う、そういう意味じゃない。今からだって遅くないよ。」


 声に出してなかったはずなのだが、私の焦る心を読むようにして、ガイは笑った。



「もっと早く、出会っていれば」。


 その時のガイの本意は、貴族として振舞っていた頃の自分を思い出して、思わず出てしまった言葉だった。

 ルナリアの言う『良好な関係』が指し示すものは無論、師弟関係のことだとわかっているのだが……。


 ガイの、イエロートパーズの瞳が揺れる。

 彼の気も知らずルナリアは……腹十分目まで料理を堪能した。



 昨日、写真館で店主のおじいさんから教えてもらった住所へと、一行は馬車を走らせていた。


 ……はじめは、海沿いにあるガラス張りの研究所がユリウスの居場所なのかと思い、海に行きたい下心も相まってテンションが上がったルナリアだったが、そこではなかった。

 がっくし項垂れたルナリアと、安堵で胸を撫で下ろすシリル。

 しかし、シリルの安堵もつかの間。

 彼の居場所は、ルナリアの滞在してる別荘からも海からも離れた──小高い山のほうにある小さな研究所だったのだ。


 一同はアトラクションのような急峻な道に、文字通り馬車に"揺られ"た。

 やっと着いたかと思えば今度は、ほんの短い距離だが、山登りが始まる。


「すごい所に……ゼェッ、ハァ……あるわね」

「これは……ゼェ、ゼェ……侍女は連れて来れないな」


 軽々と進むシリルの後ろを、ルナリアとガイはついて行くのでやっとだった。

 ルナリアは動きやすい服装を選んだつもりだったが、何せ朝食が美味しすぎたせいで身体が重かった。


 登りきると──ようやく見えてきたのは、小さな古びた木造の山小屋。

 これは研究所と言っていいのか……?

 ルナリアは驚きと期待で少し足を速め、シリルに続いた。



 コンコン、とシリルがドアをかるくノックすると、「はい」と中から声が聞こえる。


「──失礼致します。ユリウス・パラディウム氏の研究所でお間違いないでしょうか?私、先日ご連絡差し上げました、シリル・グレイアスでございます。」


 シリルの後ろからドキドキしながら覗いていると、

「手が離せないんだ!そのまま入ってもらって構わないよ」

 と、続けて声が聞こえてきた。

 言葉通り扉を開き、中へ入ると、

「お気をつけください」とシリルがルナリアに手を差し伸べる。


(わお…)


 足の踏み場がないほど、床に積み上げられた本や文書の山。

 壁に張り付けられた紙には、謎の数字やアルファベット、記号の書かれたグラフ。

 そして青、緑、紫、と色とりどりの不気味な液体がフラスコや試験管に入って、テーブルの上に置かれている。

 そのテーブルには、魔法具らしき物や何かの部品の残骸も乱雑に置かれていた。


 まるで"片付け"という概念を知らないような主は、そこらじゅうに散らばった文書畑の中心に埋もれている。


「──あなたが、ユリウスね?」


 波をかき分けるようにしてユリウスのもとに辿りつき、ルナリアはシリルの前に出た。


 彼は、不揃いなブルーグレーの髪をかき上げ、手もとにあった謎の機械から視線を外した。銀白色の瞳が眼鏡越しにルナリアを真っ直ぐ捉え、パチッと目が合う。

 ルナリアは思い入れのあるキャラクターに見つめられ、一瞬どきん、とするが、すぐに我に返った。

 今から彼を攻略しなくてはならないのだから。


「……ああ、そうだよ。貴女が面白い依頼を持ってきたという王女か?……っと申し訳ない、手が離せなくてね。」


 ユリウスはルナリアの姿を一瞥しただけで、すぐに視線を戻してしまった。

 その口ぶりでは、何を考えているのかさっぱりわからない。


「えぇ。お取り込み中に悪かったわね。私はルナリア・メル・アズライトよ。単刀直入にお願いがあって来たの。貴方に──私の考える『とっておきの発明』をカタチにしてほしいのよ」


 ピタ…とユリウスの手が止まった。


「"とっておきの発明"?……王族のお遊びに付き合ってくれと言うのなら、遠慮しよう。(わたし)は今この『水魔法式・全自動コンパクト ソムリエ』の起動で手がいっぱいなんだ。飲み物の温度を自動で自在に操る、傑作なんだが……どうも不完全なんだ」


 ユリウスは再び作業に集中してしまった。

 一瞬で断られたが、簡単に引き下がるわけにいかなかった。


「そうね。王族の退屈凌ぎなら私でも断るわ」


(……"王族のお遊び"と一括りにしてしまえば図星なのだけどね。あはは……。)


 だが、物は言いようだ。


「ところで、ユリウス。その機械は【温度を操る】のが目的なんでしょう?それなら"水魔法"だけでなく"火魔法"も自動供給できるようにする必要はない?それに、万が一があれば熱エネルギーの再利用で冷やすこともできるわ。特に"通年"使えるようにするなら──」


 その時のルナリアの思考の先は、前世の記憶にあった。


 夏は冷たい(つめた~い)、冬は温かい(あったか~い)飲みものが飲める画期的な……そう。『自動販売機』だ。

 しかもこれが普及したら、かなりの売上が見込める。

 そしてこの、魔法の世界ならではの"魔力"こそが、前世『ニホン』にあった通称『自販機』の仕組みである、"ヒートポンプ式"のデメリットさえクリアしてしまうだろう。


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