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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第二章*祖国(アズライト)を知るべきです

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17/21

5*悪役王女は星に願う

 



***************




 王都を離れ、南の別荘地へ到着した日の午後。


 王都よりもずっと南に位置するこの地は、

 星の島『ステラ・テテラ』。そう呼ばれる、王家・貴族御用達の穴場高級リゾート地だ。

 太陽の光が力強く、空気そのものが温かい。

 馬車を降りた瞬間、初夏を思わせる風が柔らかく、じんわりと汗が滲むのを感じた。


「わあ、お部屋も広くて素敵ね!」

「王都よりも穏やかな雰囲気だわ!」


 侍女ちゃんたちは目を輝かせた。

 王宮の重厚な建物とは違い、別荘は白壁と木材を基調とした、開放的な造りだ。

 一部ガラス張りなので、天井からは青い空、窓の外からは鮮やかな緑が目に飛び込んでくる。


「では、ルナリア様。私どもは直ちに別荘内の警備体制を確認し……」

「シリル、ストップ!」


 シリルが警備シフトの話を始めるのを、私は慌てて制した。


「せっかくの休暇よ?今日は私の仕事に付き合わせる前に、みんなでこの解放感を味わいましょう。……さあ、みんな!着替えて、まずは外の空気を吸いにいくわよ!」


 侍女ちゃんたちと庭に駆け出す。

 庭に生えてる"ココヤシみたいな木"が前世で訪れたことのある、南の島を思わせる。

 この〜木なんの木だったっけな?


 連れてきたのは、普段関わりのあるマリー、ミリア、ルーシーの三人の侍女ちゃんたちだ。

 今まで私のせいで、ちゃんと羽を伸ばしたことなんて、なかっただろうに……。

 本当は他の使用人たちも全員休暇にして連れて来てあげたいところなのだが、私と居たら逆にビビって息も詰まって休めないだろうから、他の労い方をするつもりだ。


 中には、半ば強引に弟子枠で同行させたガイの姿もある。王宮の厨房にはシルヴァ料理長がいるから、大丈夫よね。

 ガイは、旅慣れない王宮の侍女たちをそっと気遣いながら、後ろについている。

 ……あれ、口説いてない?しかもスルーされてない?……見ないフリ見ないフリ……。


「ルナリア様、最高です……!このまま海に行きたいです!」


 マリーをはじめ、侍女ちゃんたちは同意の歓声を上げる。

 別荘から少し歩けば、透き通るような青い海が見えるのだ。


「海!いいわね!そうしたいんだけど……」


 私の言葉の続きを、背後から追従してきたシリルが冷徹に遮った。


「なりません、ルナリア様。この南の海域には『水獣』が出没する危険性があります。遊泳など、論外でございます」


 思わず口を尖らせた。いや、知ってたけど!


「じゃあ、市場はどう?出店を冷やかしに行きたいわ!」


 シリルは眼鏡の奥の瞳を動かし、少し思案した様子で述べる。


「……王家の者として公衆の面前へ出るのは危険ですが、お車でのお忍び、そして護衛を伴うことを条件に、一時間のみ許可しましょう」

「やった!ありがとう、シリル!」


 渋々、って感じね。

 でも一つ許可が出たところで、貪欲に次の要求を出してみる。


「それからね、シリル。今夜は星空を見にキャンプがしたいなぁ~?外にテント張ってくれな~い?」


「おねが~い」と。語尾にハートがつきそうな声で言ってみる。

 するとシリルは一瞬だけ、目を見開いてから口許をおさえ、反射的に頷きそうだった……が。

 コホン…とひとつ咳払いすると、すぐに真顔になってしまった。


「ルナリア様、ここは別荘地です。豪華なベッドがございますのに、なぜわざわざ外で……」


「そうじゃないのよっ!最高の贅沢じゃない?王都よりも夜空が綺麗なこの、ステラ・テテラの海辺で、テント張って・寝転がって・星が見たい、の!!」


「王女の身分で外に寝転がるなど…。最高に危険でございます。駄々をこねず別荘にお泊りください」


 却下されてしまった。

 海もキャンプも危険でNGだそうだ。


 うわーん!やだやだやだ!!海辺で星空を満喫するなんて、悪役王女にはつかの間の幸福の絶対条件なのに……。

 王都を離れても、シリルの鉄壁な忠誠心と警備網は健在だ。


「──そういえばシリル、あの件てどうなったの?」


 ふと、依頼した件について思い出した。


「富豪ランキング上位のヴァンス氏への、アポイントメントでございますか?……ご期待に沿えず恐縮ですが、難航しております。秘書から『アポイントメントは数年待ち』との返答がございました」


 シリルは「もう一度試みてみますが、」と付け加えた。

 流石は素性不明の富豪。

 一筋縄じゃいかないか……わかってはいた。


 それはさておき、思考を切り替えて。


 私は、シリル、ガイ、侍女ちゃんたち、護衛数名とともに、王都に劣らない賑わいを見せる市場へと足を向けた。



「──おー!ルナリア様、新鮮な特産物が……って、あれ?通り過ぎるのか?」


 馬車の中からガイが目を輝かせて見てる先は、ステラ・テテラの新鮮な野菜や海産物、特産品全般がズラリと並ぶ市場だ。


「そっちも気になるけど、後でね」


 ガイを窘めて、行く先は賑やかな市場を抜けた一角にあった。


 程なくして私たちは、目的地で馬車を降りる。


 古びた石造りの建物にあたたかみのある木製のドア。

 店先には精巧なカメラや、キラキラと光を反射する魔法具が並んでいる。

 ここは──アズライト王国きっての老舗写真館『写真館ステラ』。

 写真館といいつつ、魔法具をたくさん扱っているので、それ目当ての人が多く訪れるのだとか。

 と!先程、シリルが教えてくれた。


 シリルやマリーたちは外で待っていてくれるのだが、ガイも興味があるらしいので、ガイを伴って店内に足を踏み入れた。


 店内は、静かで薄暗い。


 入口に吊るされたクリスタルが、微かに差し込む光を捉え、壁に虹色を散らしている。

 そしてその壁一面には、古い家族写真、色褪せた風景写真などが飾られている。

 写真に使われている魔法のインクの匂いと、古い木の香りが混ざり合った、ノスタルジックな空気が漂っていた。


「いらっしゃい、お嬢さん。何かお探しかい?」


 奥から出てきたのは、白髪の混じった髭の、温厚そうなおじいさんだ。

 店内を見渡してみると──ふと、棚の奥に置かれた装置に目が留まった。魔法水晶とレンズ。そして蒸気機関のような仕組みが組み合わされた、複雑な機械だ。


「おじさま、あれは?」


 指差したのは、この世界の『プロジェクター』だ。映像を壁に投影するための、ごく一般的な魔法具である。

 隣にいたガイは、純粋な興味からか目を輝かせてそのプロジェクターを眺めている。


「ああ、あれかい?最近は流行遅れのようじゃが、なかなかの優れものじゃよ。あれで思い出を共有したもんじゃが……」


「これを発明した者は、誰なのです?」


 なんて聞いてみたけれど、聞くまでもなく心当たりがあった。

 彼はこの世界の科学と魔法技術の融合を一手に担う、天才発明家。


「ふむ、この初期型のプロジェクターを開発したのは、ユリウス様じゃよ。……ユリウス・パラディウム。この国一番の天才発明家じゃ」


「やっぱり……」


 隣で目を輝かせながらプロジェクターの仕掛けを凝視していたガイが、思わずといった様子で呟く。


「すげぇ!この機構に魔力を通すのか!?作りが繊細すぎるな……」


 興味津々、少年のような反応のガイの様子に、クスッと思わず笑みが零れる。

 連れてきて正解だったわね。



 ──天才発明家ユリウス・パラディウム。


 癖のある不揃いなブルーグレーの髪に、銀白色の瞳を眼鏡の下に隠したキャラクターだ。

 発明家らしく変わり者な性格なのだが、面白いならなんでもいいよ!なタフな人。

 彼は、原作では中立的なサブキャラとして登場する。


 剣と魔法の世界の技術革新は、彼無しではひとつも進まない。次々と新しい魔法具を生み出す彼は、作中で度々活躍してくれていた。


 実を言うと……彼、サブキャラにするのはもったいないかな?と、メインキャラにしようか、すごく迷っていた存在でもある。

 彼がルーセント王国の王子になる世界線があったかもしれなかったし、別枠だとしても、攻略対象になる可能性があった。

 あったのだが、その……。色々と続編の構想を練っていたのだが、結局書くことは叶わないまま、私は芽瑠の生涯を終えてしまったのだ。

 ……ともかく。


「ユリウスに会うわ」


 ボソッと小さく願いを零した声だけを聞いていたのか、ガイは「なんだ?」と振り返った。


「ふふ、なんでもないわ。……おじさま、この望遠鏡を包んでくださる?」



 別荘に戻り、すっかり夜も更けた頃。


 街の明かりが遠い。


 バルコニーに出ると、夜空の紺碧が一面に広がり、無数の星々が瞬いている。

 王都の空も綺麗なのだが、比べ物にならないくらいの、息を呑むような美しさだ。

 これが星の島ステラ・テテラか。


 ザザァァン…ザザァァン……


 寄せては返す静かな波音が、耳に心地良い。

 鼻を掠める潮の香りに、夏の夜風は、さらさらと柔らかく私の頬を撫でた。

 私は、今日訪れた写真館で購入した『写真望遠鏡』を手に、部屋のバルコニーから夜空を眺めていた。


 これは望遠機能に加え、写真撮影機能が魔法で施されている一品だ。


 隣にはシリルが完璧な姿勢で控えている。


「ルナリア様、夜は冷えますから、温かいラベンダーティーをどうぞ。……お望みでしたら、私が星の名前を全て申し上げましょうか?」


「ふふ、いらないわ。自分の目で見つけるのが楽しいの」


 望遠レンズを覗きながら、星の一つ一つをじっくり青い瞳に焼き付けるように見つめてから、写真にも残した。

 海辺のキャンプは、いつかの夢として。

 でも、あのプロジェクターと天才発明家ユリウスの技術があれば……私の望みはすぐ叶えられるだろう。


「……楽しみね」


 夜空を流れる星の一つに、そっと願いを込めた。


(どうか、平穏な余生が送れますように)


 隣で控えめに咳払いをしたシリルに、ハッと振り返る。


「シリル、準備はいい?明日は発明家ユリウス氏に交渉しに行くわよ!」


 ユリウスには、私の自己満足な夢を叶えてもらうのよ!

 ……そして、叶わなかった夢も。


 その夜の私は、色んな意味での胸の高鳴りが抑えられなかった。


.

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