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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第二章*祖国(アズライト)を知るべきです

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14/21

2*旅に出ていいですか




 話もまとまり、後日正式に契約書を作ってきてくれたロス。心做しかまた目をキラキラさせて待機している。

 その前にシリルが、対称的な冷たい笑顔で立ちはだかった。


「ロス・モーネ会長。契約書に目を通させていただきました。いくつか確認したい点がありますので、お時間をいただけますか?」


「もちろんです、シリル様!王女様の右腕たる貴方さまのチェック、喜んでお受けいたしますよ!」


 ロスは、シリルが殺意を込めた手刀を振るったことなど、既に忘却の彼方らしい。

 こういうタフなところが、作中でも扱いやすくて良かったんだよな……。


 そこから始まった『敏腕執事による公開査定会』は、すごかった。


「まず、こちらです」


 シリルはロスが持参した分厚い事業計画書を、まるでゴミを見るかのように指先でつまみ上げた。


「この販売戦略にある『エッグライトを詰め込んだ壺を福袋として高値で売る』という案ですが、これは詐欺罪に該当します。この国の法律では明確に禁止されている為、即刻破棄してください」


「は、壺は縁起物で……!」


「『利益率を上げる為に、原料のブルーアイとインクを、安価で流通しているもので"裏ルート"から入手する』?貴方はアズライト王家が関わる商品のために、違法ルートと関わりあい、逆に詐欺に遭いたいのですか?」


「違います!コストカットで……」


「『商品プロモーションの為、"ルナリア様等身大フィギュア"を作成し、限定販売する』?これは何です?肖像権侵害です。この契約の最も重要な事項に違反していますね。契約破棄をご所望ですか?作るなら非売品にして私に寄越しなさい」


「ひぃぃっ!ごめんなさい!シリル様ぁぁ!!」


 シリルはマシンガンのように的確な指摘を冷徹に浴びせ続ける。

 そのスピードは、ロスが次の項目を説明する為にページをめくるより速い。


 ロスは真っ青な顔になり、チェック柄のスーツは脂汗で濡れていた。

 横で聞いている私も「いや、あの壺とか裏ルートとかフィギュアとか、危なすぎるでしょ……」とドン引きである。シリルもシリルで、ドン引きする一言が聞こえた気がするけれど。

 やっぱり監視しないと、この人は文字通り秒で破滅する運命だったのだと確信した。


(私の判断は、正しかったわね……)


 このままでは彼は危ない。

 しかし同時に、ルナリア自らの『破産END』『巻き込み事故END』へのフラグを立てた気もするが、今は一旦見て見ぬふりをしておこうと思う。

 あとはこの契約が他の王家筋にバレずに、いかに穏やかに進むか……うぅ、わりと頭が痛い。


 私は小さく疲労の息を吐いた。


 約一時間後。


 息も絶え絶えになり、精神的に完全にシリルに屈服したロス・モーネは「シリル様こそ、私の真の師匠です!」と叫びながら、新たな事業計画書を作成し直す為、涙目で王宮を後にした。


 静寂が戻った自室で、シリルは涼しい顔で私にお茶を差し出した。


「お疲れ様でした、ルナリア様。これでモーネ商会が、すぐに破綻することはないでしょう。……少なくとも、私が目を光らせている間は」


「ありがとう、シリル。貴方がいないと、この国もろとも破産で滅亡していたかもしれないわ」


 ほんとにほんとーーっに、シリル様様だ。彼が居なかったら、私の無鉄砲な契約が一体どうなっていたことか。考えただけでも震えるよ。

 ……今度たっぷり労ってあげないと……。

 お茶を一口飲んで落ち着いた私に、シリルは「そういえば」と、何でもないことのように付け加えた。


「お茶会から戻ったルーセント王国の王子方から、手紙が届いておりました」

「え……手紙?」


 シリルは恭しく、封蝋が施された三通の豪華な手紙をテーブルに並べた。

 封蝋には、それぞれルーセント王家の紋章が刻まれていて、テーブルの上で異様な存在感を放っている。


「王家から"は"三通でした」

「…そ、そう…」


 予想外の展開に、私は思わず目をカッ開いた。


「しかし、ルナリア様の"演出"がかなりの反響を呼んだ甲斐もあり、手紙自体は商人のみならず、男女問わず貴族豪族からの数え切れないほどのお誘いも……」

「そりゃ、そうよね」

「ルナリア様に必要なさそうなものは、全て私が処理致しましたが」


 と、目を光らせながら言葉を付け加えられた気がしたが、後半のシリルの声は耳に入っていなかった。


(ホッ…この三人か……。)


 ルヴィウスからの手紙はないことに、私はまず安堵する。

 彼は筆頭・ルナリア死亡フラグ建築士だからね。手紙なんてきた日は、それは私の命が危ない時です。

 でもこの三人がわざわざ手紙を送ってくるなんて、何用で?


 静かに、そっとシリルを見つめた。


「……内容は?」


 私は紅茶とともに恐れを飲み干すようにして、覚悟を決めてから、ティーカップを置いて尋ねる。


「はい。順を追ってご報告いたします」


 シリルは冷静に、まずブライアン・ヴァン・ルーセント第二王子からの手紙を手に取った。

 燃えるような赤い髪に金色の瞳を持つ、奔放でチャラい色欲魔だ。


「ブライアン殿下からは……『茶会でのパフォーマンスは、ルーセントでも見たことのないほどの芸術だった。特にあのマカロンは絶品。近々、アズライト王宮に遊びに行っても構わないか』とのことです。燃やしますか?」


「遊びに?……遊んでる暇はないんだけど」


 思わず眉をひそめる。そもそも会いたくない。


 ……そうだ!彼にはこうしよう。

 申し訳ないけれどお断りする代わりに、アズライトの美女を揃えて紹介してあげよう。

 きっと、しばらくは意識を逸らせるはず。


「そして、こちらがオリヴィエ・ヴァン・ルーセント第三王子からです」


 シリルが次に手に取ったのは、白い肌とペリドット色の瞳を持つ、穏やかで紳士的な第三王子の手紙。

 腹黒策士でヤンデレ予備軍の厄介な相手だ。


「オリヴィエ殿下からは、非常に無駄に丁寧な文面でした。『茶会で示された"アズライトがルーセントを包み守る"というメッセージの真意について、深く拝聴したい。近々、正式な外交会談をセッティングすることは可能だろうか』との打診です。……暇なのでしょうか?」


「うわっ、怖」


 これには、思わず身震いした。


 彼が最も外交的で、淑女人気が高いのは知っている。

 その彼が、わざわざ正式な会談を持ちかけてくるということは、しっかり探りに来ている証拠だ。


 ……よし。これは有能執事のシリルにお願いしよう。あのオリヴィエと話せるのは彼しかいない。

 私はあいにく毒矢に射られたものなので、まだ体調に波があるとでも言っておけば……。


 最後にシリルは、レナード・ヴァン・ルーセント第四王子の手紙を手に取った。

 透き通るアクアマリンの瞳を持つ、純粋癒し系ショタである。


「レナード殿下は……『マカロンがとても美味しかったです。特にアクアマリン色のものは、嬉しかったです。以前はルナリア王女に対して、冷たい態度を取ってしまったことを深くお詫びしたいです。よろしければ、またお菓子をいただけないでしょうか』、と」


「あの子……素直っ!」


 彼は本当に純粋な心の持ち主なのだ。あぁ、思い出して涙がちょちょ切れそう。

 作中でも、誰よりも清らかな心を持つ彼のエピソードの数々には思わず泣けたよね。

 ……だが、しかし……


 よし、レナードには特別な贈り物を贈ってあげよう!

 彼からのお詫びなど必要ないという意思も見せれば、まるく納まるはず。


「さて、ルナリア様。どのように対応されますか?……王家からでなければ私が処分していたところですが」


 シリルが問いかける。時折なんか、不穏なセリフも聞こえたけれど。

 私は空になったティーカップを見つめながら、頭の中で状況を整理した。あ、シリルがおかわりを注いでくれる……。


 三人の王子がルナリアの婚約者候補に選ばれるのでは、という噂はもう広まっているはず。なのでここで彼らを完全に拒否すれば、事態は悪化する可能性が高い。

 死亡フラグを立てずに、この状況を乗り切るには……。


 私は静かに、カップをソーサーに戻した。


「まず、三通とも返事を書きましょう!ただし今は接触を控えたいわ」


 私は挑戦的な笑みを浮かべた。


「彼らは一旦、波風立てずの保留よ。そして、次に何かが起こる前に、私は私で種まきをしておかないとならないわ。」


 彼らがアンジュと出会い、シナリオ通りに恋に落ちるまでの間、彼らとは余計な関わりを持たない方が賢明だ。

 そして物語が始まっても『悪役王女・ルナリア』として邪魔にならないよう、または"万が一"が起きた時の為に、私にはやらないといけないことがある。


「シリル、決まったわ」


 私は、悪そうな顔で微笑んでみた。


「──私、とりあえず旅に出るわ」


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