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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第二章*祖国(アズライト)を知るべきです

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13/21

1*だって怖いんだもん




 あれから数日。


 私の考案した、光る卵の演出――通称『エッグライト』は、予想を遥かに超える大反響を呼んでしまった。

 なんでも、あのアズライトの"青"を不気味と敬遠していた他国の人々までもが「神秘的だ」「幻想的だ」と手のひらを返したように絶賛しているらしい。


 おかげで王宮には、連日のように商人たちから「我が社で商品化させてほしい」「専売特許を」といった商談が雪崩のように押し寄せていた。


「……はぁ」


 私は自室で、うず高く積まれた手紙の山を見て、重たい溜め息を吐いた。

 普通なら喜ぶべきことなのかもしれない。

 でも、私は声を大にして言いたい。


 商品化なんか、お断りです!!


 だって、考えてもみて。

 これ以上、国の役に立つような凄いことをしちゃったら、私の目指す『平凡で穏やかな余生(スローライフ)』から遠ざかる一方じゃない!

 悪役の汚名は返上したいけど、英雄になりたいわけじゃないの。

 目立ちすぎれば、また別の嫉妬や陰謀に巻き込まれるかもしれないし……。


 だって、怖いんだもん!!


 だから私は、心を鬼にして全ての商談を断り続けていた。

 ……はずだった、のだが。



「お願いします!どうか、どうかルナリア王女様のお慈悲をぉぉぉッ!」


 ある日の午後。


 私の目の前で、床に額を擦り付けんばかりの勢いで懇願している男が一人。

 やたらと派手なチェック柄のスーツに、片眼鏡(モノクル)

 そして、見るからに胡散臭い……じゃなくて、個性豊かなちょび髭。

 彼はここ数日、毎日のように王宮に通い詰めている新興商会の会長だ。


 あまりのしつこさと、門前払いされてもめげずに雨の日も風の日も立ち尽くす姿が可哀想すぎて、つい話だけでもと通してしまったのが運の尽きだった。


「この契約が取れなければ、我が商会は終わりなのです!社員たちも路頭に迷ってしまいます……!」


 涙ながらに訴えるその姿に、私の良心がズキズキと痛む。

 うぅ、弱い。

 私はこういう『崖っぷち』な人間に弱いのだ。

 でも断らなきゃ。心を鬼に……鬼に……。


(……あれ?)


 ふと、彼の顔をまじまじと見て、既視感を覚えた。

 この特徴的な髭。時代錯誤なモノクル。

 そして、この必死すぎる土下座スタイル。

 見た事ないか? 私の記憶の片隅に、こいつ、いるぞ。


 名前は確か……。


(……ゲッ!)


 思い出した。彼はルーキンにも出てくる──……不憫なサブキャラ!

 ゲームではどの攻略ルートに進んでも、必ず何らかのトラブル(主に主人公たちの騒動の巻き添えや、経済恐慌)に巻き込まれて、破産破滅する運命にある男だ……!



 ──春川 芽瑠としての記憶が、また走馬灯のように蘇る。


『あー、ここの展開、ちょっと経済的な危機感出したいな』

『よし、この成金っぽい商会長を破産させよう。コミカルだし使いやすいわ』

『シナリオライターさんの塩梅で、好きに使ってもらおう』


 ……そうだ。

 この可哀想な運命を生み出したのは、他でもない原作者の私だ。


(うわぁぁぁぁ!ごめんなさいぃぃぃ!!)


 時を戻して、私は猛烈な良心の呵責に苛まれた。

 彼の人生をハードモードに設定したのは私だ。それなのに今、目の前で必死に生きようとしている彼を見捨てるなんて……そんなこと、できるわけがない!


 私の責任は、地球よりも重い。


「……わかりました」

「へ?」

「そのお話、お受けしますわ」


 彼の涙で濡れた顔が、ポカンと間の抜けた表情になる。


「ほ、本当ですか!?エッグライトの商品化権利を我が社に!?」

「ええ。ただし条件が」

「条件とは!?」

「……"独占契約"ですわ。」


 どうせやるなら、彼が絶対に破産しないくらい儲けさせてあげるしかない。

 彼の懇願(と、過去の自分への罪悪感)に耐えかね、私はついに首を縦に振ってしまったのだった。


 あーあ。また目標が遠のいていく音がする……。





「で、商会の名前は?」

「は、はいっ!『モーネ商会』の会長、ロス・モーネと申します!」


 ……やっぱり……。


 ロス・モーネ。

 直訳して『失われたお金(Lost Money)』からつけた名だ。

 名前からして既に破産フラグが建築されているじゃないか。原作者(わたし)のネーミングセンスを呪いたい。


 私は気を取り直して、彼に向き直った。


「いいこと、ロス・モーネ会長。契約にあたり、私からいくつか"条件"を提示させていただくわ。これは絶対遵守……破った場合は契約破棄どころか、アズライトの法があなたを裁くことになると思って」


 私は腕を組み、できるだけ低い声で、悪役令嬢らしくドスの利いた声色を作って脅しをかけた。

 まずは形から入らないとね。相手に舐められてはいけない。


「は、はい!何なりと!売上の九割を上納しろと仰るなら、喜んで!」


 ロスはビシッ!と直立不動で敬礼する。

いやいや、そんなことしたら、またルナリアの悪評が増えるだけじゃないっ!


「条件は大きく分けて二つ。一つ目は、商品展開、販売戦略、資金繰りに至るまで、全て私の監修を通すこと」


「えっ……王女殿下が、ですか?」


「そうよ。貴方の商会は……その、少しばかり運気が不安定なようだから。私が責任を持って手綱を握らせてもらうわ」


(だって……)


 ……あんた、放っておくとすぐ変な投資話に引っかかって破産する設定なんだもん!私が手綱を握らないと、一瞬で路頭に迷うわっ!

 オブラートに包んだが、要するに「貴方に任せると100%破産するから、私が管理するね」ということだ。彼の『不憫スキル』は伊達じゃない。

 私が手取り足取り指示しないと、エッグライトというドル箱商品を持ってしても、謎の壺とか仕入れて倒産しかねないのだ。


「そして、二つ目。これが最も大事な条件よ」


 私は身を乗り出し、人差し指を立てて彼に突きつけた。


「広告塔として、私の名前を一切出さないこと」

「……へ?」


 ロスはキョトンとして、モノクルをずり落とした。


「え、あ、あの……ルナリア様が考案者であると大々的に宣伝した方が、商品は売れるのでは……?それに、噂ではルナリア様は、その……大変、世間の注目をお好みになると…」


「……噂はあてにならないものよ」


 私はふふん、と鼻を鳴らして遮った。


「私はあくまで『最初の考案者』という立場に留めておきたいの。表向きは『王家御用達』くらいの表現にしておいてちょうだい。広告塔として私の名前や肖像画を使うことは一切禁じます。パッケージに使ったり、宣伝文句に入れたりしたら……即刻、契約破棄よ?」


 だって、これ以上有名になったら平穏な老後が遠のくし、変な輩に目をつけられるのも御免だもん!

 そんな本音は隠しつつ、私は精一杯の"悪役王女スマイル"を作ってみせた。


「あくまで『ロス・モーネ商会の画期的な新商品』として売り出すこと。いいわね?」


 そう。これが私の平穏な生活を守るための生命線だ。『王女プロデュース!』なんて大々的に売り出したら、また変な注目を集めてしまう。

 私はあくまで黒子に徹して、利益だけこっそり頂戴する予定だ。

 それに万が一商品がコケた時、(彼の不運スキルで)王家の名前に傷がつくのも防げる。


「どう?私の厳しい管理下で働く覚悟はあるかしら?」


 ふふん。我ながら、自分の利益と保身しか考えていない、完璧な悪役ムーブだわ。

 これなら彼も「なんて強欲で高慢な王女だ」と恐れおののくはず──


「…………」


 あれ?ロスが黙り込んでしまった。

 ポカンと口を開けて私を見ている。


 言い過ぎたかな?条件が厳しすぎた?


 ……いや、でもこれくらい言っておかないと。


「もし嫌なら──」

「な、んと…」


 ロスが震える声で呟いた。


「……なんと……なんと慈悲深い……ッ!」

「は?」


 予想外の反応に、私の悪役スマイルが引きつる。

 ゆっくりと顔を上げた彼の瞳は……なぜか希望に満ち溢れ、みるみる輝いていく。

 いや、輝きすぎて眩しい。


「全責任を負い、経営のサポートまでしてくださる上に、ご自身の名誉や名声は求めない……!噂とは真逆の、なんと慈悲深く、謙虚な方なのだ!こんな好条件、商会側にはメリットしかありません!」


「え、いや、あの」


 ロスは感極まったように、声を震わせる。


「貴方様は悪女などではない……!女神だ!アズライトに舞い降りた商売の女神だぁぁぁ!!」

「ちょっ!?」

「ルナリア様!一生ついていきます!あなた様こそが私のボスだぁぁッ!」


 感極まったロスが、勢いよく私の両手をガシッ!と握りしめた。

 その手は熱く、ちょび髭も感動で震えている。

 どうしてこうなった。悪役らしく振る舞ったつもりが、なぜか熱烈な信者を獲得してしまったようだ。

 まあ、彼がやる気になってくれたなら、それでいい……のか?


 私が困惑しながらも、ロスの熱意に押されそうになっていた、その時。


「このロス・モーネ、命に代えても――」


 ヒュンッ。


 空を切る鋭い音がしたかと思うと、私の手からロスの手が弾かれた。

 いや、正確には、シリルによる高速の手刀がロスの手首ギリギリに振り下ろされたのだが。


「気安く触れないでくださいますか……?」


 室内の温度が氷点下まで下がった。


 背後から響いたのは、地獄の底から響いてくるような、絶対零度の低い声。

 振り返らなくてもわかる。シリルが眼鏡の奥の瞳を全く笑わせずに、ロスを見下ろしている姿。

 殺気が……殺気が漏れてるよ、シリルさん!


「商談が成立したのは結構ですが……その汚い手で、ルナリア様に触れないでいただけますか?へし折りますよ?」


「ひぃぃッ!!ご、ごめんなさいぃぃ!」


 ロスはカエルのように跳び退いて平伏した。


(……これ、契約は成立ってことでいいのかね?)


 こうして私は不憫な商会長ロス・モーネという、新たな……(手のかかる)配下を手に入れたのだった。


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