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Lucent Kingdom〜悪役王女なので、王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第一章*全力(マッハ)で花嫁修業を企てます

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12/21

9☆大国を照らす4つの光【ルーセント王国side】




***************




 ルーセント王宮の一室。


 四人の王子は招待状と、『アズライト王国』の報告書を前にして、それぞれの思いを口にした。


「婚約者候補を呼びつけるための茶会ごっこか。全く、相変わらず悪趣味だな…」


 ルーセント王国第一王子、ルヴィウス・ヴァン・ルーセント。

 彼は終始冷徹に、アズライト王国から送られてきた招待状を一瞥しただけで、机の上に放り投げた。

 漆黒の髪に、アメジスト色の瞳は感情の色を映さない。


「まぁまぁ、ルヴィ兄。堅いこと言うなって。俺は歓迎だよ?アズライトの美女は噂によると、結構きわどいドレスを着るらしいぜ?」


 ルーセント王国第二王子、ブライアン・ヴァン・ルーセント。

 燃えるような赤い髪が、彼の顔の周りで揺れる。

 招待状を裏返し、ルナリアが書いたと思われる流麗な筆跡を興味深そうに眺めた。

 彼は"茶会"というイベントを新たな獲物を見つけるための"パーティー"としか考えていない。


「ブライアン。くれぐれも失礼のないように」


 ルーセント王国第三王子、オリヴィエ・ヴァン・ルーセントは、終始優雅で紳士的な仕草で述べた。

 オリヴィエはいつもの穏やかな笑みを浮かべていたが、ペリドットグリーン色の瞳の奥は警戒の色を深めていた。

 白い肌がその緊張感を一層際立たせる。


「怪我をしたばかりの王女が、突如としてこのような茶会を催すなんて不自然だね。何か裏があるはずだけど……。国王が動いた可能性はあるものの、王女本人が関わっているならば要注意だ」


 彼はルナリアに対し、幼い頃のトラウマと複雑な確執を抱いていたが、それを顔に出すことはなかった。


「僕、行きたくないよ……」


 ルーセント王国第四王子のレナード・ヴァン・ルーセントは招待状を震える手で握りしめた。

 透き通るアクアブルーの瞳に不安を滲ませる。


「ルナリア王女、怖いんだ。前に会った時、すごく……冷たかったから」


「心配ないさ、レナード。俺たちが一緒についてるから。それに、この茶会は『国交を円滑にする』という名目だ。誰もお前を攻撃なんてしないさ。王女の化けの皮が剥がれる瞬間を、笑って見ていればいいよ」


 ブライアンはそう言い放ったが、内心では、ルナリアの突然の行動に興味を隠しきれずにいた。


 婚約破棄したばかりのルヴィウスの参加はないものの、ルナリアの父・国王オーガストのありがた迷惑な計らいで、ブライアン、オリヴィエ、レナードの三人は半ば強制的に、アズライト王国へ向かうことが決定している。

 彼らはルナリアに対する、ルナリアの予想通りの先入観をそれぞれ抱え、国境を越えることになった。



***



 茶会当日。


 アズライト王宮の別邸。

 会場は華やかな装飾とは裏腹に、張り詰めた緊張感に包まれていた。

 貴族たちは、「悪役王女ルナリアが何を企んでいるのか」と好奇と嘲笑の眼差しを向けている。

 静寂が広間に満ちる中、重厚な扉が開かれた。

 しかし、そこに現れたのはルナリア王女ではなく──燕尾服を着こなした一人の執事、シリルだった。


「──アズライト王家筆頭執事、シリルでございます」


 執事は恭しく一礼すると、凛とした声で告げた。


「本日、主催であるルナリア・メル・アズライト王女ですが、先日の怪我の療養のため、大事をとって欠席させていただきます」


 その瞬間、広間全体がざわめいた。


 ブライアンは「ははっ、逃げたか?」と鼻で笑い、オリヴィエは瞳を細めて警戒を強め、レナードは安堵の息を吐いた。


「ですが、ルナリア様より、皆様への歓迎の意を込めた『特別な菓子』をご用意させていただきました。どうぞ、ご賞味ください」


 ブライアン、オリヴィエ、レナードの三王子は、目の前に運ばれてきた不気味な青い殻の卵を見て、再び失望の色を浮かべた。

 会場に運び込まれたのは、テーブル中央に置かれた青い卵。

 通称『ブルーアイ』と呼ばれる、アズライト王国の象徴色である青い不気味な殻を持つ卵だ。


「やはり品性に欠けるね。なぜ茶会で、あんな不気味なものを使うのか…」


 ブライアンは楽しそうに笑っているが、オリヴィエは顔を顰めて述べた。

 レナードは青い卵を直視できずに俯いた。

 しかし次には、執事が静かに侍女に指示を出す。

 青い殻の頂上が開かれ、内側から四色の鮮やかなマカロンが姿を現した。


「──このアズライト王国の"深い青"の殻の中に、ルーセント王国の『宝』である四つの光を収めることで、我が国が皆様を敬愛し、そして皆様をお守りするという、ルナリア様からの永遠の誓いのメッセージが込められております」


 金色、黄緑、アクアブルー。

 そして、この場には居ないルヴィウスの瞳を模したであろう、深い紫。

 誰もが、その深い外交的な意図に言葉を失った。


 そして──暗転。


 卵が置かれた台座から、微かな魔法の光が放たれ始めた。

 やがて、その光が増幅し、青い卵の殻全体を神秘的な光で包み込む。それは不気味さよりも、アズライトの夜空を閉じ込めたかのような、幻想的な光景だった。


 王子たちは、その光景に言葉を失った。


 特にルヴィウスから「外交の道具に過ぎない」と蔑まれていたブライアンは、その演出力に舌を巻いた。

 そして、光が頂点に達した瞬間。


 ブライアンの瞳は好奇心を携えて、金色に輝いた。


「……っ、すげぇ。これは、ただの菓子じゃない。完全にメッセージだ」


 オリヴィエは戦慄した。

 この王女は姿を見せずとも、自分たちの評価を根底から覆す『外交兵器』を開発したのだから。


「あの悪名高き王女が、こんなメッセージを……我々を守るとでも?」


 レナードは、青と水色のコントラストの美しさに、恐怖よりも感動を覚えていた。


 茶会はルナリアの圧倒的な成功裡に終わった。

 それから、三人の王子はルナリアへの見方を、根本から改めざるを得なくなった。



***



 アズライト王国から戻った翌日。


 ルーセント王宮の一室では、ルヴィウスを含む四人の王子が顔を突き合わせていた。

 部屋の空気は重く、ブライアン、オリヴィエ、レナードの三人は昨日の茶会で受けた衝撃を、未だ消化しきれていない様子だった。


 ルヴィウスは三人の沈黙に苛立ちを覚える。


「何を黙ってるんだ。茶会はどうだった?やはり、ルナリア王女は品性下劣な振る舞いでアズライトの恥を晒したんだろ?」


 第一王子としての冷徹な問いかけに、ブライアンが先に口を開いた。

 彼の金色の瞳はルナリアへの関心と、ルヴィウスへの皮肉で輝いている。


「残念だったね、ルヴィ兄。そこが一番残念」


ルヴィウスの眉が微動だにする。


「……何がだ」


「ルナリア様の姿はなかったけど、茶会自体はあんたの言うような『品性下劣』からは程遠かったぜ。あれは……芸術だったな。青い卵が光り始めた瞬間、会場の空気が変わったんだ。あんな演出、ルーセントの外交茶会でも見たことがない」


 ブライアンは挑発するように口角を上げる。


「あの驚きを、あんたも見ておくべきだったな。まったく……病気の見舞いどころか、贈り物や手紙さえ出さずに紙切れ一枚で婚約破棄なんて。相変わらず冷たいね、ルヴィ兄は〜。」


 ブライアンの言葉がルヴィウスの核心を突いた。

 ルヴィウスは立ち上がりもせず、動かないまま、周囲の空気を凍てつかせるような静かな威圧感を放っている。


「黙れ、ブライアン。お前はその浅薄な美点に騙されている。くだらない演出で我々を騙せると思うな」


 ルヴィウスは低く、感情の抑えられた声でブライアンを叱咤する。


「ブライアン、笑ってもいられないよ」


 オリヴィエはブライアンの挑発的な姿勢を窘めるように、割って入った。

 その声は穏やかだが、瞳は冷たい。


「王宮内では、ルナリア王女がこの茶会で見せた手腕によって、一気に評価を上げたようだ。そして王女の父であるオーガスト国王が、婚約を破棄したルヴィウス以外の我々三人を、新たな婚約者候補とするよう動いている……という噂が持ち上がってるよ」


 オリヴィエの言葉を聞いた途端、部屋の隅にいたレナードの顔色がさっと青ざめた。


「えっ…ルナリア王女と……?」


 レナードは、恐怖と、兄たちがルナリアを巡って対立するかもしれないという不安で、瞳を潤ませる。


「お、おい、レナード!大丈夫だって。こんな噂、向こうの暴走だろ。な?俺は別に、婚約者になってもいいとは一言も言ってない!」


 ブライアンが焦ったようにレナードの肩を抱き、フォローする。

 しかしルヴィウスはその言葉を許さなかった。ルヴィウスは静かに、しかし絶対零度の視線をブライアンに向けた。


「お前が何と言おうと、あの女は国交の足枷でしかない。くだらない感情論で政略に口を出すな。それが国を貶める愚行だと、理解できないか?」


 ルヴィウスは声を荒らげないまま、ブライアンを切り捨てる。その冷徹な言葉が、ブライアンの熱を再び引き出した。


「……っ、感情論じゃねぇ!あんたこそ、自分の凝り固まった常識の外にあるもの全てを否定するな!あの菓子は、あんたが評価しているものより、よっぽど創造性があった!」


 ブライアンが声を荒らげ、ルヴィウスに詰め寄る。

 ルヴィウスはそれを一瞥するだけで、静かに冷気を放ち続けている。

 張り詰めた緊張感とブライアンの激情の板挟みとなり、レナードはついに耐えきれなくなり、泣き出しそうに声を上げた。


「や、やめて!兄様たち、喧嘩はダメだよ……っ」


 遠巻きにその光景を見ていたオリヴィエは、口論するルヴィウスとブライアン、泣き出しそうなレナードの三者を見比べ、深く、長大な溜め息を吐いた。


(彼女は危険な存在だ。このままでは……我々ルーセント王家が内側から崩壊する。排除する時期を、見極めなければ)


 ペリドットの瞳は冷たく、誰にも悟られないような決意を宿していた。


.

これにて第1章がなんとかまとまりました……!

ようやく個性溢れる王子たちの登場となりました。まだルナリアは絡んでおりません。

まさかこんな日が来るとは(歓喜)


書き始め~と閑話あたり~では、かなりの時を経てしまってるので、最初の感性とのズレがあるかも……。と思いつつ、とりあえず書き進めております汗


では、第二章へ。れっつらごー!

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