8*悪役王女は舞台袖で輝く【俯瞰side】
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茶会当日のアズライト王宮の広間は、ルーセント王国の王子たちを迎えるに相応しい絢爛豪華さで飾られていた。
集まった貴族令嬢たちは皆、ルーセントの三王子を前に、緊張と期待に胸を膨らませている。
王子たちの席。
第二王子・ブライアンは周囲の令嬢を物色し、第三王子・オリヴィエは微笑みを浮かべつつ、静かに会場を観察している。
第四王子・レナードは……隅で不安げに俯いていた。
彼らのメインの目的は、婚約者候補を決めること。
そして副次的ではあるが、婚約を破棄したにも関わらず騒ぎを起こした"あの王女"の品定めでもあった。
静寂が広間に満ちる中、重厚な扉が開かれた。
しかし、そこに現れたのは煌びやかなドレスを纏った王女ではなく──燕尾服を着こなした一人の執事だった。
「──アズライト王家筆頭執事、シリルでございます。」
シリルは恭しく一礼すると、凛とした声で告げた。
「本日、主催であるルナリア・メル・アズライト王女ですが、先日の怪我の療養のため、大事をとって欠席させていただきます」
その瞬間、広間全体がざわめいた。
主催者が不在の茶会など前代未聞だ。これはルーセント王国に対する侮辱か、それとも──。
「……ははっ、逃げたか?」
ブライアンが鼻で笑う。
オリヴィエは瞳を細め、その真意を探るようにシリルを見つめた。
レナードだけは、ホッと胸を撫で下ろしている。
「ですが、ルナリア様より、皆様への歓迎の意を込めた『特別な菓子』をご用意させていただきました。どうぞ、ご賞味ください」
シリルの合図とともに、侍女たちが恭しく運んできたのは、不気味な青い殻の卵であった。
「またこれか……」
「よりによって、あのグロテスクなブルーアイを出すとは……」
「本人がいないのをいいことに、こんなものを寄越すなんて」
広間にさざ波のような囁きと、失望の声が広がる。しかし、執事は動じることなく、静かに侍女に指示を出した。
侍女たちは、その青い殻の頂上を、細工のナイフで器用に切り開いていく。
そして、中が露わになった瞬間──
歓声が上がった。
開かれたブルーアイの殻の中には、紫、金、黄緑、水色の鮮やかな色を纏った芸術的なマカロンが宝石のように並べられていたのだ。
シリルは、主の言葉を代弁するように話し始めた。
「この青い卵は、我がアズライト王国の象徴色を纏っています。そして、この四色のマカロンは、ルーセント王国四人の王子方を象徴しております」
シリルは手元の資料を読み上げるでもなく、暗記した主の想いを語る。
「ルヴィウス殿下を象徴する"紫色"。ブライアン殿下を象徴する"金色"。そして、オリヴィエ殿下を象徴する"黄緑"、レナード殿下を象徴する"水色"……」
会場の視線が、その小さな菓子に釘付けになる。
「このアズライト王国の"深い青"の殻の中に、ルーセント王国の『宝』である四つの光を収めることで、我が国が皆様を敬愛し、そして皆様をお守りするという、ルナリア様からの永遠の誓いのメッセージが込められております」
誰もがその深い外交的な意図と、お菓子の美しさに言葉を失った。
三王子も、まさかあの悪評高き王女が、姿を見せずともここまで知的な『兵器』を用意していたとは、衝撃を隠せない。
その時。
広間に設置された窓から差し込んでいた午後の日差しが、ゆっくりと地平線に沈んでいった。
会場の照明がわずかに落とされ、辺りが薄暗くなり始めた、まさに夕暮れの刹那──。
テーブルに置かれた青い卵の殻が、一斉に、色とりどりの淡い光を放ち始めたのだ。
青い殻自体が、まるでランプのように幻想的な光を灯し、中に詰められたマカロンを、虹色の輝きで照らしている。
『エッグライト』。
その光景に、会場全体が静止した。
王子たちはもちろん、貴族令嬢たちも、そしてこの企画の協力者であった執事・シリル、副料理長・ガイでさえも、その光景に目を見開いた。
──その様子を、広間の上階にある隠し窓から見下ろす影があった。
(……ふふ。これが、誰も知り得なかった最大のサプライズよ)
ルナリアだ。
彼女は心の中で笑いながら、上唇を舐めた。
この光る仕掛けこそ、前世の知識・【暗いところで光るよ!】を取り入れた、食用インクを使った光る卵だ。
夜になると光る性質を持つこのインク。
これを青い殻全体に塗ることで、夕暮れに合わせて青い殻自体が『ルーセント王国の光の象徴』さえも演出してくれると。
これはルナリアが一人、秘密裏に用意していたものだった。
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