7-2*退屈王女のお料理コーナー『国交を円滑に進める兵器』【俯瞰→ルナリアside】
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遡ること、少し前。王宮の長い廊下。
普段は物静かな執事シリルと、侍女マリーが静かに対峙していた。
「……シリルさん、ここまで作戦通りですね」
「……えぇ、もうすぐ来るようです」
それは、ガイがルナリアを手助けしてくれるのではないかという望みをかけた、シリルとマリーの"策略"だった。
ガイが新人侍女ルーナを探っていることは知っていた。
なぜかはわからないが、ルーナには好意的なのだと、シリルは観察眼で掴んでいた。
「……私は、この手を使うのは不本意ですが」
「はい?」
シリルは顔を伏せ、琥珀色の瞳の奥に苦渋の色を隠す。
「いえ、お気になさらず」
その時、足音とともにガイがこちらに歩いてくるのが確認できた。
シリルとマリーは、声を少し大きくして会話を続けた。
「あぁーールナリア様には困ったものだぁー。一国の王女が変装だなんてぇーー(棒読み)」
「そうですね……自分の悪評が知りたくて、メイドのルーナに変装するなんてぇー(棒読み)」
(……よし、聞いてるな)
ガイは隠れて聞いているつもりだろうが、執事のシリルには筒抜けである。
にしても、もう少し演技がなんとかならないのか……とは、お互い思っていたことだろう。
「ルナリア様は変わられた……国交を円滑にするために、茶会に出す菓子を自ら考えているのだとかぁーー(棒読み)」
これで、ルーナ=ルナリアだと伝わっただろう。そして最近の行動の意味も伝わってくれたら。
変装のことをひた隠しにしたいルナリア様には悪いが、ガイならこの秘密を口外する心配はないとみる。
あとはルナリア様の手助けをしてくれるか……。半ば賭けではあるのだが。
軽い足音でガイが立ち去ったのを確認する。
「シリルさん……演技下手くそですね」
「マリーさん……貴女こそ」
一抹の不安は残るが、この執事と侍女の苦労の一幕が、ルナリア様とアズライト王国の未来のために、実を結ぶことを願って。
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ガイの全面協力が決まった瞬間、私の心の中で歓喜のファンファーレが鳴り響いた。
これで、技術的な難関だったブルーアイの殻割りはクリア!あとはプロの指導のもと、味の調整と仕上げに専念できるぞ!
「やった!ありがとうガイぃぃーー!あなた天才よぉーー!!」
思わず感謝の言葉を口にすると、ガイは憮然とした顔でフライパンを磨き始めた。
「フン。誰があんたのためだって?俺は王宮の食材と、その変わり種の卵の可能性が気になっただけだ。……ったく、こんなヘンテコな菓子に協力させられるなんて、前代未聞だよ」
ツンデレなのか?
……いやいや、普通に嫌われてるだけだな、こりゃ。
口は悪いけど厨房の片付けもやるようになったし、制服ピシッとしてるのも、なんか笑えるけれども。素直。
こうして、私、執事・シリル、そして副料理長・ガイによる、極秘の『茶会プロデュースチーム』が爆誕した。
しかし、このチーム運営には一つ、大きな問題があった。
「ルナリア様、なぜあの男とこれほど親密に……!彼は信用なりません。毒味は私が行いますので、どうか距離を置いてください」
執事だ。
彼ときたら、私がガイとマカロンの色について相談しているだけで、琥珀色の瞳の奥に強い光を宿して牽制してくる。
ガイもガイで、そんなシリルをニヤニヤしながら見返している。
「おーい、執事サマ。俺はちゃんと仕事してるぜ?まさか主が真面目に仕事してんのが気に入らねぇのか?」
「仕事は結構ですが、不必要な私語はルナリア様の集中を乱します。下がってください、副料理長」
シリルは私を守ろうとしてくれている。(度を超えているケド)。
ガイは協力を引き受けてくれた。(嫌われているケド。)
……二人とも、真面目で話通じない感じは似ている気がする。
だが、シリルが外交文書の調査と材料調達、ガイが調理技術指導と厨房管理、私がコンセプトと味の最終調整という役割分担は完璧だった。
さあ、これで準備は整った。
(待ってなさい!この『外交兵器』で、私は絶対に生き残ってみせる──!)
意気込んでいる私だったが、突拍子もないガイの一言に耳を疑った。
「そんじゃ、いきますか。『ルーナ』ちゃん?」
「……え、」
えぇぇーーーっ…!!
ぇぇ……
ぇ…
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