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鋼鉄令嬢アストレア  作者: 甘味亭太丸
四章 乙女の花道
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七十六話 乙女が華

 なんというべきか、≪ヴァーミリオン≫という侵略者の正体はこれっぽっちもわからなかった。なんで私たちの地球を襲ってきたのか、そもそもの理由すら判明していないのです。

 とはいえ、私たちにとって脅威である存在なのは間違いなく、例えあの時の戦いで殲滅したとしても宇宙は広い。もしかしたら、あの要塞ですら≪ヴァーミリオン≫の本体ではないかもしれないと大人たちはあーだこーだと日夜論議していた。

 美少女地球防衛隊ヴァルゴ(せめて美少女は取って欲しいなぁ)と地球防衛組織ユノとの間に正式な協定が結ばれたのはあの決戦から二か月が過ぎたあとだった。

 まず驚いたのはユノを運営していた龍常院財閥がはっきりとあのいけ好かない生徒会長のものになって、裏の支配者であった銀郎が行方不明になったということだった。

 噂じゃ生徒会長が……なんてこともささやかれてるけど誰も怖くて指摘するものはいなかった。

 とはいえ、気になったから私は思わず聞いてみたのだけど生徒会長ってばうすら笑みを浮かべるだけで何も答えてはくれなかった。ムカつく。


 そして、もう一つ驚いたというか、度肝を抜かれたのは美少女地球防衛隊ヴァルゴの正式な司令になんと!

 私が就任する羽目になったのでした……なんでよ……麗美さんがやるやるって乗り気だったのに、なんでそんなことになるんだ! と思っていたら、総理大臣他色んな人達から「あの、この、部分にですね」という説明で私が調印した書類にでかでかと書かれた文面を指示した。

 まぁ簡単に言うと「私、木村綾子は組織のトップとして就任します」という旨の文章にサインをしていたのだ。どーにもこれは麗美さんもうっかりというか知らなかった話らしい。

 しかもこういう公式の手続きで受理されちゃったものは、いきなりドーンと変更するのに時間がかかるらしく、流石の於呂ヶ崎家でもうんか月はかかるとかなんとか。

 そのせいで、私は決戦後のあれこれに振り回されることになったのだ。最もたるがユノとの協定を結ぶ際の会見だ。

 そう、私は全国デビューを果たした……意味わかんない……


「まさか、君までそんなふざけた遊びに付き合っているとはね」


 とは生徒会長の談だ。

 国際的な会見の場で、この発言だ。本当に恥ずかしいったらありゃしない!

 いや、そもそも『美少女』って自画自賛にも程がある組織の名前を背負ってしまった私の立場はどーする! 世界中の人間が私を見て「あぁ、美少女なんたらの」っていうわけだぞ!

 おかしいなぁ、私、ちょっと前まで普通の女子高生だったのに。それがいきなりセレブになって、今度は地球防衛隊の司令か……ふざけるな!

 まぁ、なってしまったものは仕方がない。

 それに、ヴァルゴは私を含めて、美李奈さんと麗美さんぐらいしかいない。いや、本当に部活動じゃないんだから……と言いたいけど、於呂ヶ崎さんってばメンバー集めに奔走してるらしくってどうにも学園の女の子やメイドさんにまで声かけてるっぽいのよねぇ。


 まぁそれも仕方ないと思う。

 だって……


『ウワーッハッハッハッ!』


 幻聴だ。幻聴が聞こえくる。これが幻聴でなくてなんだというのだ。

 私は頭が痛くなるのを感じながら、いつもの中央庭園から空を見上げた。

 そこには岩が浮かんでいた。

 いや、岩じゃない。石造りの城、遺跡? とでもいうのだろうか、歴史の教科書で見たことのある彫刻やなんやらを各所に張り付けた巨大な岩の城が空に浮かんでいた。

 全長は約四百メートル、その城の周りには緑色の兵隊のような二十メートルの巨人たちがパラシュートで続々と降下している姿も見えた。

 なんで古代遺跡風の城から現代の兵隊じみたのが降ってくるのかはちょっとよくわからなかったが、ずいぶんと悪趣味なのはわかった。


『ウワーッハッハッハッ!』


 しかもその声はその城から聞こえてくる。老人の声だった。

 当然のように学園全体もその奇妙な物体の存在を認め、なんだなんだと騒がしくなる。

 そして大半の生徒、教員が空を見上げたのを待っていたかのように城からは再び老人の高笑いが響いた。

 同時に城の各所から光が照らし出され、数百メートルはあろうかという巨大な立体映像が映し出される。そこには古代ローマ風の衣裳を着こんだ老人がいた。恐ろしく似合っていない。

 そんなことなど気にしていないのか、老人は立体映像として現れた瞬間、また高笑いをした。


『フフフ! 聞け、人類よ! これより地球は偉大なる天才科学者であるベルズルックが支配する! だが恐れるな、我が支配は恐怖ではない。これぞ救いなのだ!』


 老人、ベルズルックはしわくちゃな顔で大きく笑う。


『だが、新たなる支配はまず破壊によって行われるものだ。手始めに我が研究の融資を断った……否、偉大なる支配者にたてついたセレブどもに鉄槌を食わらせる!』


「……なんか無茶苦茶な理屈言ってるけど、八つ当たりじゃん」


 頭痛が加速してきた……なんなんだあの爺さん。

 ベルズルックなんて科学者は聞いたことないし、当然、なんの研究をしていたのかも知らない。いきなり出てきて偉そうな事言って、やることは脅しだからたちが悪い。

 けど事実、あのお爺さんは脅威だ。無数の兵隊型のロボットたちは遂に学園の敷地内やそとの住宅街にまで降り立っていた。その腕にはライフルが握られており、銃口はぴたりと校舎へと向けられていた。


「あぁもう最悪……」


 私はせっかくの昼休憩を台無しにされたことに溜息をついた。


「もう! ヴァーミリオンがいなくなったと思ったら今度は謎のいかれた科学者の反乱? ふざけるんじゃないわよ!」


 というわけで私はスマホを取り出してコール。


『はい、司令』


 聞こえてくるのは於呂ヶ崎さんとこのメイドさん。組織のトップに就任しちゃった私はこうしてダイレクトに連絡が繋げる権限まで貰っちゃったんだよね。


「出撃」

『了解です』


 はぁ、これ、あと何回やるんだろ。


『ゆけぃ! 我が軍団よ! 出撃せよ四神たちよ!』


 私のアンニュイな気分なんて知らないだろうけど、ベルズルックが意気揚々と腕を振り、指示を下していた。

 それと同時に降り立った兵隊たちが一糸乱れぬ動きで進軍を始め、そして城からは四つの新たな影が飛び出していた。

 それは巨大な鳥のような巨人であった。

 それは魚の尾を持った巨人であった。

 それは獣如き四つの脚で空を駆ける巨人であった。

 それは古代の剣闘士のような姿をした巨人であった。

 四つの巨人はゆっくりと、兵隊たちの下へと……降り立つことはできなかった。

 その途中で二つの拳に四体ともが貫かれたからだ。


『はぇ?』


 ベルズルックの間抜けな声が木霊する。スピーカーの音量がマックスだったのかもしれない。


『え、ちょっと、一撃?』


 そんな呟きまで聞こえてきた。

 だがそんな呟きをかき消すように黄金の光が城を貫く。轟音と共に爆炎を上げた城はそのまま航行不可能になったのか、ゆっくりと下降していた。


『うわぁぁぁ! なんだ、何事だ!』


 立体映像はどこかで撮影しているのか、百メートルのベルズルックは何かにしがみついて周りをきょろきょろと見渡していた。時々煙や炎がちらちらと端の方に映っているのも見えた。


「来たわね」


 私は燦々と輝く太陽の方角を振り向いた。

 その先には太陽を背にした青い巨人が佇んでいた。射出された両腕をドッキングしながら、巨人は両肩の斧を撃ちだす。斧は高速回転しながら先に降り立っていた兵隊たちを遺すことなく切り刻み、そして再び主の下へと戻っていく。

 その頃には青い巨人は腕を組み、学園の中央庭園へと降り立っていた。


「アストレア」


 ≪アストレア≫は再び胸部にエネルギーを充填すると、落下を続ける城目がけて放つ。

 今度は城の後部に命中、貫通して行き、城は爆発を繰り返しながら海が広がる方角へと流れていった。


『お、おのれぇぇぇ!』


 ベルズルックの悲鳴もだんだんと遠くなっていく。だけどそんなものはどうでもよかった。

 私は≪アストレア≫の足下までたどり着いた。そこには既に一人の少女が立っていた。

 つぎはぎだらけのパッチワークドレス、亜麻色の髪をなびかせ、自信に満ちた笑みを浮かべる少女。


「美李奈さん!」


 私は少女の名前を呼んだ。


「えぇ、ごきげんよう」


 美李奈さんはいつもの調子で返事をしてくれた。

 そして二人して笑いあった。

 戦いは、一先ず終わった。取り敢えず私は、またこの不思議な令嬢との学園生活が始まるのだと考えるとなんだかわくわくしていた。

 まだまだ学園行事も残っている。そんな時、美李奈さんは一体どんなことをしてくれるのだろうか。

 あぁそれから学校が終わったらどうしよう? やっぱりお洋服を見て回ろうか、コロッケでも食べにいこうか?

 それとも……


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