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鋼鉄令嬢アストレア  作者: 甘味亭太丸
四章 乙女の花道
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六十四話 乙女飛翔・後編

 空を飛ぶことと宇宙へと打ち上げられるということは、大きく違うものだとわかったのは、今、この瞬間、自分が強烈なGというものに押しつぶされそうになる感覚を味わってわかったことだ。

 ≪アストレア≫と≪ユースティア≫の背部、腰、両肩、両足を固定する形で括り付けられた打ち上げ用の巨大ロケットは確かな推力をもって四十メートルの巨体を運んでいく。

 その為に繰り出される衝撃はすさまじいものになるのは当然であった。


「じいやは降ろして正解でしたわね!」

『左様で! しかし、これは……」


 ガタガタとぐらつくコクピットの中で、美李奈と執事はお互いに気を失わないように会話を続けていた。ついさっきまではそれに麗美も参加していたはずなのだが、一切の返答が帰ってこない所を見ると、また気を失っているようであった。


「全く! 自分から誘っておいて、あのザマだなんて! 麗美さんに遊園地に誘われても、考えようかしら!」


 なんであれ、≪ユースティア≫のコクピットは≪アストレア≫よりはあらゆる機能が優秀であるので、潰れる心配はないだろう。

 むしろ、美李奈は無事、宇宙へと上がった際にどうやって麗美を起こすべきかを考えていた。こんなことなら、シートに電流を流す装置を遠隔でこちらでも行えるように改良を頼んでおくのだったと今更に後悔していた。


『しかし、よろしかったのですか? 宇宙服を着用は……』

「宇宙に出るのですよ? 撃破されればそれでおしまいです。それに、今はそれを着ている時間も惜しい」


 打ち上げ準備の最中に美李奈は出来うる限り、敵の情報をかき集めた。展開した≪ヴァーミリオン艦隊≫はなおも≪ユノ戦隊≫との戦闘を続けているものの、お互いに一進一退の攻防を繰り広げているとのことであった。

 それでもユノ側に一切の被害が出ていないのは流石と言えた。


「私たちが到着するまでに倒されているということはないでしょうけど……ヴァーミリオンの攻撃が少し、緩いのではなくて?」


 その違和感は別に根拠があっていったわけではない。

 むしろ、どこにもそんな要素はない。超巨大な要塞と戦艦を中心として、相打ち覚悟で撃破した≪巨大ヴァーミリオン≫も数えきれない程に確認できる。

 通常の≪ヴァーミリオン≫に至ってはもう数えることすらバカバカしいものだった。

 それでも美李奈は『緩い』と感じた。


(破壊を好むヴァーミリオンが部隊を率いてやってきたことにも疑問が浮かぶというもの……なぜ待ち構えるように戦って……)


 元々≪ヴァーミリオン≫の侵略行為は破壊のみに重点を絞っていた。それに一体なんの目的があるのかは今でもわからないが、とにかく破壊、破壊というものだ。時折垣間見える意思のようなものも、言ってしまえば『破壊衝動』に繋がるものが殆どなのだ。

 それほどまでに破壊と蹂躙を好む≪ヴァーミリオン≫が大人しく待ち構えるなど、不気味で仕方がない。


(とはいえ……放っておくわけにいかないのも事実……今は目の前にある脅威を打ち払うことが先決)


 ロケットは雲を突き抜け、瞬く間に青い空から漆黒の宇宙へとたどり着こうとしていた。


「そろそろ、麗美さんを起こす手立てを考えておく必要があるわね」

『宇宙空間に出たら、一度、小突いて見ますか?』

「その方が手っ取り早いわね。少々、手荒だけども」


 ***


「敵の攻撃が散漫なのが気になるな。対して防御は厚い」


 全ての≪巨大ヴァーミリオン≫を撃破し終えた昌は、敵要塞を目指しながら、なおも細かな攻撃を仕掛けてくる通常型の≪ヴァーミリオン≫をしらみつぶしにしていた。

 これまでに多数の敵を撃破してきたのだが、当初感じていた爽快感がなくなっていた。あまりにも呆気なさすぎるのだ。

 敵、≪ヴァーミリオン≫の数が圧倒的だ。それは今なお増殖する敵性信号を見ればわかることだった。

 しかし、現状で突出する≪ユピテルカイザー≫、≪ミネルヴァ≫には大したダメージはない。後方に待機させた戦艦ユノや他二体のマシーンに至っては若干暇を持て余しているのが今の状態だ。


『昌様、ユノより通信、前進を求むとのことです』

「……許可する。微速前進、艦砲射撃は扇状にな」

『了解、そう伝えます』


 たまらずこちらに通信を送ってきたのだろう。昌の指示の下、戦艦ユノがゆっくりとその巨体を前進させる。守りの盾として付き添う≪マーウォルス≫と援護射撃を続けていた≪ウェヌス≫もまたそれに随伴する。

 それに対して≪ヴァーミリオン≫の部隊は通常型などを壁のように敷き詰め、幕を張った。完全に防御の態勢である。

 だが、例え数を集めようと、戦艦ユノによる艦砲射撃により打ち破られ、≪ユピテルカイザー≫の攻撃の前には意味のない行為でしかなかった。


「やはり、攻撃が緩い。この数に対して、こちらからの迎撃が少ないのはどういうことだ」


 群がる敵をエンブレムズブレイザーで薙ぎ払いながら、昌はやはり戦艦ユノを前進させるのは早計過ぎたかもしれないと考え始めた。

 万が一の為に、強固な盾としての役割を果たす≪マーウォルス≫を残してきたが、どうにも不安が晴れなかった。


「……広域索敵! 時空間反応は!」

『え?』

「索敵だといったんだ!」


 この時の昌は冴えていたといえる。もとより大企業、大財閥を若くして背負うべく教育された少年である。奢ろうとも、彼は優秀である。

 しかし、その周りが、それについていけるかといえばそうではない。昌の予見した不安と、その他の面々が思い描く場面は全く一致していないのである。

 昌は、そのことを考慮するという考えは、この時持ち合わせていなかった。


「戦艦ユノは止まれ! マーウォルス、マルスの盾を起動させろ! ウェヌスは全方位レーザーの準備だ!」


 矢継ぎ早に指示を飛ばしていく昌であるが、それは唐突過ぎた。≪マーウォルス≫と≪ウェヌス≫は流石に動きが速かったが、戦艦ユノは目に見えて行動が遅い。

 龍常院のスタッフは確かに優秀である。だが、それでも彼らは戦闘行為に対しては素人である。結社のような業務を行おうと、彼らは、初めて戦闘に出たのだ。

 その一瞬の差が命運を別けるのである。


『六時方向より敵戦艦ワープアウト! 背後を取られました!』

『敵弾命中! エンジンに損傷!』

『後部砲塔破損! 急速回頭急げ!』


 飛び交う通信状況を耳にして、昌は顔を覆いたくなった。

 戦艦ユノの背後からは一隻の≪ヴァーミリオン・ソリクト≫が出現したのだ。その砲撃は狙いなど碌につけていないにも関わらず、距離の為か、数発が戦艦ユノの後部ユニットに直撃したのである。


「戦艦ユノはそのまま前進しろ。回頭などしたら狙い撃ちにされる。マーウォルスは六時方向の戦艦を破壊しろ。ウェヌス、出現する敵を狙撃しろ」

『昌様、我々は……!』


 一々言わなければ動けないかと吐き捨てたくなった昌は、カッとした自分を落ち着かせるように一度だけ深呼吸をして、朱璃に答えた。


「僕たちはこのまま敵要塞を潰す。ミネルヴァにはついてきてもらいますよ」

『了解……』


 明らかに戦艦ユノの援護に回ろうとしていた蓮司を引き留めながら、釘を刺す。

 出現した敵戦艦は一隻。であれば、いくらでも対処ができる。ダメージを受けたことは驚きではあるが、直掩に回した二体のマシーンの力があれば撃沈させることも可能のはずなのだ。


(わかりやすい奇襲だ。読めないはずがないだろう……なのになんだこの妙な胸騒ぎは……)



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