二十八話 乙女の嵐・後編
大海原の中にポツンと漂うように、その小さな島はあった。於呂ヶ崎麗美が保有する小さな人工の島である。白い砂浜はわざわざ海外の観光地から運ばせたものだが、どこの国のものなのかは聞いたことがなかった。
しかも埋め立てる形で作られたその小さな人工の島は常に整備をしなければその白い砂浜を維持できないし、海の風を遮るものが植えられた木々しかないのも中々に殺風景である。
そこには雲一つない。
見渡す限りの青空の下、小さな人形のように見える人影があった。麗美である。
サンオイルをたっぷりと塗った麗美の肌は燦々と輝く太陽の光を反射して艶を出し、純白の肌がきらめいていた。
日差し避けのパラソルからわずかに離れた場所に置かれた赤と白のリクライニングチェアーの上には麗美がたった一人、大きめの……明らかに顔に固定できずにずれかけているサングラスをかけて、幼い体型には似つかわしくない真っ黒でラメを散りばめたビキニを着て優雅に日光浴を楽しんでいた。
傍に置かれた白いテーブルには用意してあったはずのジュースなどもあったのだが、そんなものは当の昔に飲み干してしまっている。
ありていに言うと、暑いし喉が渇くし、かといって自分で動くのも面倒というどうしようもない状況なのだ。
パラソルの下には使用人たちが用意したクーラーボックスと小型の冷蔵庫も置かれておりその中にはジュースもアイスも満載である。
だが、取りに行く気はさらさらなかった。
「……はぁ」
と、溜息をついてみるが周りに誰もいないのではその溜息も本当に無意味である。
麗美は夏場、この人工の島に立ち寄ることは滅多にない。そもそも楽しい所ではないし、保有しているとは言っても幼い頃の誕生日にわがままを言って作らせた代物だ。
これなら、今でならどこぞのビーチを買い取ってホテルのオーナーになる方がもっと有意義に使えるというものである。
「……そういえばホテルの計画がパーになっていましたね」
カランと氷が溶け、グラスの中で音を立てる。
アストレアとヴァーミリオンの戦いのおりに、麗美が計画していたホテルの計画が見事に灰塵に化したことを思いだす。
結局あれに変わる計画を立てようにも自分自身がそのヴァーミリオンと戦うことになってしまい、ついぞ忘れてしまっていたのだ。
「決めましたわ。ビーチを買いましょう」
明日おかしを買おう。そんなぐらいの感覚でつぶやいた麗美だったが、まだそれを実行しようという考えはなかった。このかわりばえしない島にも飽きてきた頃だ。
だというのに麗美がこの小さな島を持ち続けている理由は、非常に簡単な話である。
少なくともこの島でなら誰に気を使うわけでもなく一人になれるし、なんだかんだゆっくりも出来るからである。
じりじりと太陽の光が麗美の体を熱している。サンオイルを塗ってあるとはいえ熱線は強烈だ。すぐに体力を奪っていく。
それでも麗美は面倒なのか水分を取ろうとはしなかった。
麗美にとっては水分よりも大事な乙女案件なのだから。
悩みも何もかも蒸発すればいいのに。
「はぁ……お兄様は最近つれないですし、美李奈さんたちは勝手にどこかに行くし、おじいさまはお仕事が忙しいし、お父様もお母様も何度目の新婚旅行かしら……あぁ、私はただ一人孤独の中で生きていくというのね……」
あまりにも暇すぎる為か、麗美はこの島で時折一人芝居に走る。くだらない三文芝居である。観客がいるわけでもない場所で何か芸をやっても反応が帰って来るわけではないのだ。
そんなことは麗美にもわかっているが内に秘めた乙女心がそうさせるのだから仕方ない。
「はぁ……」
また溜息をつく。
ぼんやりと空を眺めていると、流石に喉も限界になってしまい、麗美は面倒だがそろそろ体を動かして新しい飲み物を取ってこないといけなかった。
なんとなく気だるい感覚のする体を動かそうとしたその時、風が吹いた。
「……?」
風が吹くことは珍しいものではない。
だが、麗美には違和感があった。
「冷たい?」
風が冷たいのだ。汗をかけば夏の風でも涼しくは感じる。それは当然である。
だが、この風は違う。涼しいのではない。冷たいのだ。
「……?」
そして麗美は新しい異変に気が付く。
「空が……」
見上げていた雲一つない青空がほんの数秒で灰色の重たい雲に浸食されていくのである。そんな前兆などなかったのにも関わらずである。
「た、台風?」
であればもっと風が強いはずだし、波にだって大きな影響が出る。そもそもこの近海に台風が接近しているなどと言う情報はなかった。
風はさらに冷たく吹いた。水着姿の麗美は先ほどまで感じていた体のほてりが一瞬にして寒気に代わり、体を摩った。
この状況は明らかに異常であった。
そして、どこからかけたたましいプロペラが高速回転する音が聞こえる。
「ぐぐ……せっかく私が乙女の傷を癒していたというのに!」
そのプロペラの音は間違いなく於呂ヶ崎のヘリからであった。ヘリはすぐさま麗美の上空へと滞空すると、機体横にハッチがスライドして一人のメイドが身を乗り出し、メガホンを片手に主の名前を呼んでいた。
「麗美お嬢様ー! 出撃でございますー!」
ヘリはゆっくりと下降していく。ホバリングから発生する強烈な風が砂を巻き上げ、麗美の露出した肌に突き刺さる。
「ちょ、ちょっと! もう少し考えなさいな!」
「お嬢様ー! 急いでください! 二体出てますー!」
主の抗議を無視しているのかホバリングのせいで聞こえないのかはさておき、メイドはいつもの調子であった。
「あとで覚えてらっしゃい!」
腕で顔を隠して砂がかかるのを防ぎながらヘリに乗りこむ麗美はささやかな復讐を誓う。
麗美が搭乗したことを確認したパイロットはすぐさまヘリを上昇させた。
「それで、敵は?」
麗美は砂を払い、メイドが用意していたタオルをコート代わりにしてはおった。
「一体は海、一体は空に展開しています」
麗美を出迎えた方とは別の、オペレートをしているメイドが答えた。
「そう、なら空は私ね。美李奈さんは?」
「既にアストレアが自律稼働で出撃、恐らくは海の方にいるかと……」
「……お兄様、自衛隊の方は……?」
「既にスクランブルしていますが、どちらに向かうかまでは不明です」
「わかりました。現場に急ぎましょう」
麗美はヘリの丸い窓から外を見る。
そこには既にユースティアが並列するように飛行していた。
「……」
いつ見ても頼もしく、忠実な愛機である。
だが、麗美はそんなユースティアの雄姿を眺めながらも言い知れぬ不安を感じていた。
「何かしら、この胸騒ぎは……」
「はい?」
思わず呟いた言葉は思いの他大きかったようで隣にいたメイドが聞き返してくる。
「なんでありませんわ。ハッチを開けてちょうだいな」
麗美は首を横に振って切り上げると、パイロットにそう伝える。
ゆっくりと開かれるハッチからは強烈な風が入りこんできていた。
「ふふん、何を心配することがあるのでしょうね! いつも通り、すぐに蹴散らしてあげますわ!」
勇ましい言葉を吐きながら、麗美は己の愛機へと飛び込む。光が麗美の体を包み込み、ユースティアへと転送していく。
そのあたたかな光に包まれながらも、麗美は、やはり不安が払しょくできないでいた。
***
美李奈は街の方角から聞こえる轟音にわずかだが意識を向けてしまったせいで、わっと押し寄せる人の群れに飲み込まれていた。
すぐ傍には執事に姿もあるのだが、他の者たちの姿はその一瞬で視界から消え失せていた。
「セバスチャン!」
二度目の光弾が頭上を通過していく。
その光に照らされながら美李奈は人ごみをかき分けて執事に手を伸ばす。
「う、おお!」
執事もまた主の腕を掴もうと伸ばすのだが混乱した人々はむしろそのように立っている二人が邪魔なのか、殴られるような勢いで二人を押しのけていく。
「えぇい、無礼な!」
流石に背中を叩かれた時には美李奈とてこのように怒りを見せる。それでも殴り返すとか言い返す暇がないのも事実であり、美李奈は姿の見えなくなった友人たちを探すように周囲を見渡す。
だが、見つかるものではない。
再び光弾が放たれる。遠くでは既に火の手が上がっているのか煙が昇っているのが見えた。
「美李奈様! ご無事ですか!」
ここにきてやっと執事が美李奈と合流する。くしゃくしゃになった髪を見ると彼もかなり人ごみに飲まれていたらしい。
「バカンスが台無しね……!」
美李奈は執事の腕を取りながら、キッと海の方角を睨む。まだ距離はあるが、ヴァーミリオンの赤い体が海から姿を現していくのが見えた。
一見するとそれは二本の触手のような腕を振り回す巨大なタコのようにも見えるが、鳥の骨のほうな頭部と巨大な口はその胴体には不釣り合いであった。
動きは遅いようだが巨体である。僅かに進むだけでも相当な距離を詰めてくるのだ。
「致し方ありませんわ。セバスチャン、アストレアを呼びますわ!」
「しかし、他の皆さまが!」
「あの巨大なものを陸に揚げては被害が増えます。あの子たちを守る為にも食い止めねば!」
そういって美李奈は人の波を逆らうように走る。
「お待ちください!」
執事も慌てて美李奈の背中を追いかける。
二人の行動に怪訝な顔を向けるものもいたが、多くは自分たちが逃げることに精一杯である。
しかし美李奈もまたそんなことを気にしている暇もなかった。
「早く来なさいアストレア! 敵が来たのですよ!」
その呟きに応えるかのように風を切る鋭い音と共に無数のミサイルがヴァーミリオンの巨体に命中する。
だがヴァーミリオンにダメージはないようであった。
耳をつんざくような爆音と衝撃波は美李奈たちにも伝わりその影響か、人々の混乱も加速してしまった。
「くっ……もう少し大人しい登場は出来ないのですか!」
衝撃波を受け、栗色の髪が激しく乱れる。舞い上がった砂やわずかな海水は見事に美李奈と執事の体に降りかかり、ざらざらべとべととした感触を二人に与えた。
そして、ミサイルが飛んできた方角より、巨大な影が二人の頭上を覆う。
その影はアストレアであった。
瞬間、緑色の光が二人を包みこむ。二人の体はふわりと宙を浮き、アストレアの胸部へと吸い込まれていく。
『何人かに見られてしまったかもしれませんね』
各々のコクピットへの転送が完了し、アストレアが本格的な起動を始める。
「緊急事態よ。ばれてはいないはずですわ」
水着姿の二人は体に付着した砂を払いながら、敵を見据える。
その言葉に責任はもてないがあの混乱の中でしっかりと二人の顔を見て、覚えたものがいるのならば相当な余裕を持っているといえよう。
美李奈はアームレバーを握りしめ、中央モニターがアストレアの起動OSを立ち上げたことを確認する。
同時にエンジンの唸りを上げるのを振動するシートを通して伝わり、アストレアの緑色の眼が輝きを見せる。
「いつもの先手必勝ですわ!」
パイロットを収容したアストレアは現在地上から一〇〇メートル程度の距離を浮遊していた。
アストレアの各部スラスターが稼働し、両腕を前に突き出したままの状態で加速する。狙いは鳥の骨のような頭部。加速と巨体を活かした体当たりであった。
それに対してヴァーミリオンは回避行動も防御行動もとろうとはしていない。ただ両腕をうねめかせ、微速で前進していた。
そして数秒と経たぬうちに両者が激突する。
「なっ!」
弾かれたのはアストレアの方であった。
美李奈は困惑の声をあげながらもアストレアの態勢を整え、何とか海水に着地する。モニターに映るヴァーミリオンは傷一つなく健在であった。
『スパークスライサー可能です!』
ためらわずにアストレアの両肩から矢じり型の光線が発射されるが、これもヴァーミリオンの装甲にはじかれてしまった。
ヴァーミリオンは侵攻を止めない。
「セバスチャン、背後はどうなっています!?」
『避難はまだ完了していません! 混乱しているようです!』
執事によってアストレアの背後の状況がモニターの端に映し出される。
美李奈はそこに友人たちの姿がないかを確認したが、見当たらなかった。
「ミサイルもエンブレムズフラッシュも衝撃が強すぎて使えませんわね!」
巨人たちと人々の距離は近いものでまだ数百メートルと離れていない。それに先ほどの攻撃で街に被害が出ている以上、その方角へ逃げるのも難しい。人々が安全圏内に逃げるためにはかなりの距離を遠回りしなければならないのだ。
「まずはぁ!」
美李奈の叫びに呼応するようにアストレアが巨大なヴァーミリオンへと飛びかかる。両腕でヴァーミリオンを押し返すように全身にエネルギーを送りこむアストレアであったが、ヴァーミリオンを押し返す所か、むしろ自身が押し返されていた。
「なんというパワー!」
『今までの相手とはくらべものになりません!』
出力調整を行っていた執事が叫ぶ。
美李奈もそんなことは言われなくても理解していた。これまでも重装甲をまとうとか、ローラーをつけたとかのヴァーミリオンを見てきたが、今目の前にいるこのヴァーミリオンはそのどれとも違った。
それは見た目の話ではない。感覚の問題である。
「振動!」
このままでは押しつぶされると感じた美李奈はアストレアの両腕を振動させる。この超振動波であればいくらかのダメージが期待できる。
そのはずだったのだ。
甲高い振動音が響く中、ヴァーミリオンの装甲から火花が飛び散り、わずかにだが装甲に傷をつける。
だが、それだけだ。ヴァーミリオンの侵攻は続く。装甲が削られようが構わないとでもいうようにヴァーミリオンの巨体が突き進む。
そして、今までうごめいていただけの両腕がより一層激しくうごめく。片方を鞭のようにしならせたヴァーミリオンはまず海面を大きく叩きつけた。
大量の海水が両者に浴びせられる。そして、返すように巨大な触手は無造作にアストレアの左側へと叩きつけられた。
「っ! 防御を……!」
咄嗟に左腕でその触手の殴打を防いだアストレアであったが、その触手もまた本体同様に凄まじいパワーを秘めており、鞭というよりは巨大な鉄の塊をぶつけられたような感覚であった。
ギャギャギャ! 刹那、堅牢な装甲を誇っていたアストレアの装甲がひしゃげ、砕ける音がコクピットにまで伝わる。
「そんな!」
美李奈は小さな悲鳴を上げた。たった一撃で装甲が砕けるなどということは初めてであったからだ。
アストレアの状態を示すモニターのシルエット、左腕の表示は一瞬にて赤色に染まる。
『左腕破損! 振動拳は仕えません!』
その動揺は執事も同じであり、報告を行う声はどこかうわずっている。
「くっ!」
さらにもう片方の触手が今度はアストレアの顔面に迫る。
美李奈は、アストレアの上半身を後ろに反らすように傾け、スラスターを併用してその場からの離脱を図る。
触手を何とか避けることができたアストレアであったが、
『エネルギー反応!』
執事の叫び声と同時に美李奈は再びアストレアの体を反らす。
ヴァーミリオンのくちばしが開かれ、その奥から光が漏れる。
「くぅぅぅぅ!」
アストレアが体を反らした同時にヴァーミリオンのくちばしから光弾が発射されていく。
直撃は免れたものの、ガリガリとアストレアの顔面に光弾が掠める。それだけでもわずかに装甲がはがされていったようで、シルエットが映す状況には顔の側面がわずかに黄色に変わっていた。
アストレアは顔面の左側の装甲が誘拐し、わずかに内部を露出させていた。
「う、うぅぅぅ!」
衝撃を受けながらも美李奈は操縦を止めない。バランスが崩れていくアストレアの態勢を整えようとするのだが、
「あう!」
自らの操作ではない急制動がかかり、体が揺さぶられる。そして何事かと確認すれば、アストレアの右腕にヴァーミリオンの顔が食らいついていたのだ。
鳥の骨のような不気味な頭部は、首を伸ばし、そしてくちばしのようなものでアストレアの右腕に噛みつき、目はないはずなのに不自然にできた窪みがまるで底なしの瞳ように見えた。
美李奈はそれが自分をにらみつけているかのような錯覚があった。
「こ、の!」
美李奈は右腕の振動率を上昇させる。だがヴァーミリオンはかみついたくちばしを離さなかった。
むしろギギギと、アストレアの右腕が軋む嫌な音がコクピットに響く。振動を続ける部分からは黒煙が上がっていた。
そして、ヴァーミリオンは長く伸ばした首をうごめかせると、おもむろに頭部を回転させた。
瞬間、アストレアの右腕が引きちぎられ、そしてくちばしがプレス機のように閉まっていくと同時にくちばしの隙間から爆炎が上がる。
「そんな!」
美李奈は目を見開き、今起きた出来事にショックを受けながらも、アストレアの操縦を怠ることはしなかった。後ろへと倒れていくアストレアの体を支え、二度、三度引き下がっていく。
それでも動揺は操縦を鈍らせるのか重心移動に失敗したアストレアは膝をつくように崩れる。
何かが砕かれ潰れる音が聞こえる。
コクピット内ではけたたましいアラートが響き、赤い光が点滅していた。
『右腕消失! 出力が低下しています!』
「このままでは!」
コクピットの中で、美李奈はヴァ-ミリオンをにらみつける。
雨が降ってくる。激しい雨だった。遠くでは雷鳴が響き、どこかに落ちたようだった。
美李奈の眼前、巨大なヴァーミリオンはこれ見よがしにかみ砕いたアストレアの右腕を口からこぼしていく。
そして、うごめいていた触手に変化が現れる。その切っ先が鋭く尖っていくのだ。
「……!」
美李奈は上昇をかけようとしたが、それはできなかった。背後にはまだ逃げ惑う人々がいる。
このまま避ければ、その巨大な槍は確実に彼らの命を奪い取ってしまうからだ。
だが、避けなければアストレアの装甲は確実に貫かれる。受け止めようにもアストレアの両腕は使い物にならない状態であった。
ヴァーミリオンの触手の槍、その切っ先がぬらりと光ったように見えた。
そして、ビュンッという音と共に槍が、アストレアの胸へと突き出されて行き……貫こうとする瞬間、触手の槍が宙へと舞う。
槍と化した先端部分がくるくると回転しながらアストレアの足下へと落ちていく。触手の本体は、『断面』から火花とスパークを走らせながら、痛みにもだえるようにグネグネとうごめいていた。
そして、アストレアとヴァーミリオンの間には新たな影があった。大きさはアストレアと同じぐらいであろう。
赤銅色の装甲は無骨な鎧を象り、彫刻のような肢体は一見すれば、ローマ、ギリシャの古代の兵士を連想させたが、同時にその勇猛な姿がどこか神々しさすら感じさせる。
両腕に携えた二本の大剣は燃え盛る炎のように赤く輝き、フルフェイスの鎧兜のような頭部は無表情ながらも眼前の敵をにらみつけているようにすら見える。
その機体はほんの一瞬だけ背後で崩れるアストレアを一瞥するが、興味が失せたのかすぐに前方へと向き直る。
赤銅の巨人は、右手に構える剣をヴァーミリオンへと向けた。
触手を切り落とされたヴァーミリオンは、ここで初めて身じろぎをしてわずかだが、その巨体を後ろへと下がらせた。
「何者……?」
耳障りなアラートが酷くうるさい。
美李奈はゆっくりとアストレアを立ち上がらせながら、自身を守った形となる巨人の正体を思案したが、思いつかなかった。
この巨人は祖父一矢が作ったものでも、於呂ヶ崎亮二郎が作ったものでもないという、直感めいた何かがあったからだ。




