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Human×Demonic -蒼き精霊の契約者-  作者: 筋子おにぎり
第一章 解き放たれし成層圏
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1-1 神々から賜った宝具

 出来心だったんです。

 ニヤニヤと笑いながら腕を組んで仁王立ちをするエストリカ。

 その足元で、セルディアは即座に土下座の態勢に移る。


 地に頭をこすり付けて謝ったところ、エストリカは大して気にしてないとばかりにあっさりと許してくれた。


 まあ、彼女の性格を考えれば全然怒っていない事はすぐに分かるのだが。

 この一連の流れは、いわば戯れのようなものだった。


「で、これからどうするのかという問題なんだけど」


「うん」


「エスト。この洞窟、隠蔽の術式を使って隠されてるよね? もしかしなくても、母さんがやったのか?」


「そうねー。全部セルリアがやっていった」


「……そっか」


 【時空凍結(ラウムツァイト)】にしろ、一〇〇年も効力を維持出来る程の隠蔽術式にしろ、並みの魔術師ではまず不可能な芸当だ。


 特に、前者に関しては禁呪指定。

 身体に掛かる負荷はとんでもないものだっただろう。


 隠蔽術式については、エストリカの魔力供給・術式の固定の名残が見られたため、そこまで大規模な魔術ではないと判断できたが。

 セルディアはそこまで思考を巡らせてから、


「エストは今まで外には出てないの?」


「この隠蔽術式、外に出ようとすると勝手に消滅しちゃうらしいんだよねー。あたしはこれでも【大精霊】だから、空間中のマナさえあえば生きていけるし。暇だったけど、術式を解いてまで外に出る理由も無かったから一度も出てないよ」


「……ごめん」


「いいって」


 謝るセルディアを宥めるエストリカ。

 彼は「ありがとう」と一言告げて、光の方を見ながら言う。


「取り合えず外に出てみよう。俺はマナだけじゃ生きていけないし、移動するなら早めにしたほうがいいだろうから」


「それもそうねー。まあしばらくは魔物の肉を食べて凌がないといけないんじゃない?」


「げぇ」


 言い合いながら隠蔽術式を破り、洞窟の外に出た。


「……、」


「……落ち込んじゃダメだよディア。だって魔性大陸だもん。ディアが生まれる前から生きてるあたしとしては、まあ、予想は出来ていた状況だよコレ」


 目の前に広がる魔性大陸の風景は、一〇〇年前となんら変わりない姿のままだった。


 黒ずんだ大地に曇天模様。

 たまたま近くに林――と呼べるか否かは定かではない――があるため、多少目に優しいが。


「ま、まあ、林なんて魔性大陸じゃ珍しいものがあるって事は、比較的中央大陸寄りって訳だよね! うん」


「そうそう。中央大陸にさえ辿り着けばそこはもう人族のテリトリーだから、ちゃんとした食べ物とか寝床にありつけるはずよ。うん」


 中央大陸とは、主な三つ――ホーレシア大陸、ダリアス大陸、そしてこの魔性大陸の丁度中央に位置する大陸の事である。


 人族と獣族は比較的仲がよかったため、この一〇〇年間の間に仲違いするような何かが起きていない限り豊かな土地であるはずだ。


「よし、いつまでも落ち込んでなんかいられないし。さっさと移動を開始しよう」


「だね。アタシもいい加減、硬い地面の上で寝るのはやだからね。あー! ふかふかなベッドが恋しい」


 踏み出した直後の事だった。


「……なんだ? 地響き?」


 足の裏から伝わる微かな振動に気が付いたセルディアが首を傾げる。

 態勢を崩すほどの揺れではない。

 人間の体格・体重がおよそ倍近くに膨れ上がれば、歩くだけで発生しそうな地鳴りだった。


 エストリカも気が付き、眉を寄せて周囲を見渡し発生源を探しだす。

 次いで彼女の視線がある一点に止まり、そのまま目を逸らさずに左手がセルディアの肩に伸ばされた。


「ディア」


「どうかしたの?」


「……あそこ」


 エストリカが指す方向に振り返る。

 丁度林とは正反対。

 ただでさえ薄暗い魔性大陸の中を黒い影が蠢いていた。

 遠目でも分かるほどの巨体が、群れを成してこちらへと迫ってくる。


「おいおい」


「あれは……キュクロプスか」


 単眼巨人・キュクロプス。

 薄い青色の肌を持つ魔物である。

 顔の中央に巨大な黄金色の一つ眼が存在し、その体格は人間の平均身長のおよそ二倍近く。

 体格はプロレスラーばりにゴツい。

 どうやら元はセルディアらが目的ではなかったようだが……、


「あ」


「気付かれたわねー」


 群れの先頭を歩いていたキュクロプスが、二人の存在を視認して唸り声を上げる。

 続々と獲物の存在に気がつく他の個体が、それぞれの眼をギラりと輝かせる。

 そして、片手に握る木で出来た棍棒を掲げ、セルディアとエストリカを叩き潰すべく走り出した。


「……はぁぁぁぁぁぁ。ねえ、流石に面倒くさいのだけれど。いくらなんでも、一〇〇年間の眠りから覚めた後に魔物の軍勢と戦うとか気が滅入るのよ」


「そんな事言ってもさー」


 魔物を大群を前にして、二人の様子に緊張の色は見えない。

 セルディアはただただ面倒くさそうに、エストリカはいつも通り呑気に頭の後ろで両手を組んでいる。


 緊張なんてするはずがない。

 コレくらいの事でくたばるようならば、勇者のパーティメンバー四人を同時に相手取り、生きて帰ることなんて出来ないのだから。


「どう見てもただのキュクロプスだけど、この一〇〇年の間に何か変異してたりするかもしれないから、気をつけてねー」


 光を振りまきながらエストリカは憑依状態に入る。

 セルディアは頷きながら腰に差していた二振りの短剣を引き抜いた。


 輝く銀の刀身、藍色の刺繍が入ったその短剣は、この世に二つと無い唯一無二の代物である。


「分かってるって。ウォーミングアップだ。さっさと終わらせようではないか」


 その場で何度か軽く跳躍するセルディアは、そして告げる。


術援(エンチャント)戦王剛体(デスターク)


 術式演算、魔力充填、術韻詠唱をほぼ同時に行い、魔術が展開される。

 今まで何度も使い、熟練してきた術式だ。


『対象を強化』する魔術体系の一種。

 魔術と剣術の双方を駆使して戦うセルディアにとって、術援は必要不可欠な存在だった。

 

 金色の光がセルディアの周囲を渦巻くのと同時に、彼の額・両肘から灰色の角が突出した。

 耳が隠れる程度だった髪が急速に伸びていく。


 半獣(ハーフ)は常に獣の特徴が見られるのに対し、半魔(ハーフ)のセルディアは魔力を使うことで魔族的特徴が現れる。


 もしここが人族のテリトリーなのだとしたら無闇にこんな真似はしないが、今いるのは人族の目が無い魔性大陸だ。


 近くに人の気配も感じ取れない。

 思う存分、実力を発揮できる。


「うーん、どうせ『魔結晶(マナスフィア)』集めても持って長距離移動できないし、積極的に破壊していく方針で」


《そうねー。荷物嵩張(かさば)るし》


「資金調達は中央大陸に移ってからでいい。では、征くとしよう」


 片足で黒い地面を強く蹴る。

 次の瞬間、彼の身体が残像を残して一気に前進した。

 

戦王剛体(デスターク)は対象の『筋力』を一時的に底上げする肉体強化の汎用術援だ。


 魔族の血を引いている事により、元々の身体性能が常人より高いセルディアは、魔術を使えば簡単に一つ上の領域に踏み出せる。


 鈍い風を切る音と同時に、先頭を進むキュクロプスの前でセルディアの身体が静止する。

 キュクロプスの反応は追いつかない。


 おそらくこの巨人には、セルディアが虚空に消えた様に見えただろう。

 なにせキュクロプスの視線の高さは人の二倍の位置にあるのだ。

 一瞬で懐に潜り込まれて、気付ける筈はない。


 既に右手の短剣を突く予備動作を始めていた彼は、視線をただ一点に向けて口ずさむ。


「届くかな」


 銀の軌跡が閃いた。

 一直線に突き出された彼の右手の短剣は、キュクロプスの薄青い肌を容易に貫く。


 鮮血の飛沫が飛び散るのを避けながら、刺さった短剣を更に奥へ捻り込む。

 快音と共に深々と根元まで突き刺さる短剣だったが、柄を握るセルディアの表情は冴えない。


「……?」


「グガァアアッ!!」


 違和感に小さく首を傾げるセルディアに、至近距離から野太い絶叫が叩き付けられた。

 無論、黙って自分が殺されるのを見守るキュクロプスではなかった。


 駆け抜ける痛みを咆哮で誤魔化しながら、強靭な腕を振り下ろす。

 四〇〇キログラムを越える巨体から繰り出される殴激。

 人の頭をすっぽりと覆える程のサイズの掌が、真上から猛然と接近する。


 対して、絶大な威圧の下に曝された当のセルディアは気楽な様子で一歩前に出るだけ。

 続けて流れるように短剣を振り上げ、その切っ先を手首に減り込ませた。


 最高級の斬れ味をを持つ短剣は易々と肉を抉り、前腕から先を断裂する。

 悲鳴。

 セルディアは噴水の様に吹き出る鮮血が掛からない位置まで移動し、短剣の刃を眺めながら、


「ねえエスト。もしかして【霊剣】って錆びるの?」


《何を言っているのかなーこの青鬼ちゃんは。常識的に考えてソレが錆びる訳ないでしょ。この世の神秘、七つの秘宝、生きる伝説。諸説あるけど、端的に『神々から賜った宝具』である【七つの神器】の一つがたった一〇〇年の経過で劣化するはずがないじゃない》


 尋ねる言葉に返ってきたのは呆れ返ったエストリカの声だった。

【霊剣】。

 それがセルディアの握る二振りの短剣の銘である。

断濁の宝剣(クロスグラッジ)】と並ぶ【七つの神器】の一角だ。


《てゆーか、中でもマイナーだからって神器は神器。基本的に性能が衰えるなんてあり得ない》


「だよね……そうだよね。【霊剣(コレ)】は【七つの神器】の一つで、そう簡単に斬れ味が落ちたりするはずが無い。だというのに、キレが悪く感じる……つまりは」


 確認するように口に出すセルディアへ向けて、左右の二方向から別のキュクロプスが接近。

 振りかぶられた拳が勢いよく突き出される。


 轟! という音が炸裂した。


 周囲に風圧を撒き散らすほどの勢いで腕は空を切った(、、、、、)

 乗せられたエネルギーを逃がす場所を求めて巨体がふらつく。


 向かい合う形で態勢を崩した二つの個体は、互いの肩をぶつけ合う形で態勢を維持。

 その後で、倒そうとしていた敵が視界にいない事に気がつく。


 視線を巡らせるも、小柄なあの姿は見当たらない。

 見つかるはずも無かった。


 真上。

 目にも止まらぬ速さで飛び上がった半鬼の少年は、二体のキュクロプスの頭上から逆さまに降りてきた。

 ようやくその事に気がつく二体だったが、時すでに遅し。


 胸元で交差した【霊剣】を、丁度二体の首元に到達した瞬間一文字に薙ぐ。

 空中に銀の剣閃を残し、銀の刃に斬りつけられた二つの首に赤い血の線が浮かび上がった。


 このままでは頭から落ちるセルディアは、キュクロプスの胸板を蹴飛ばして空中で態勢を整える。

 ゆっくりと着地した後、小さく頷いて、


「……うん、個体差はあるけれど、『キュクロプスの肉体強度』そのものが強くなっている」


《へー。あたしは今まで全く気にしたこと無かったから気付かなかったけど、一〇〇年も経てばそれなりの変化があるのもおかしくはないね》


 亀裂を入れられたキュクロプスの首が傾く。

 メキメキと肉が裂け、重みに耐えられず地面に落下する……そんなグロテスクなシーンを眺めながらも、二人は冷静だった。


「これはきっと、キュクロプスだけに当てはまる事案ではないんだろうね」


《どうだろうねー。魔性大陸は空間中のマナが濃い事もあるし、案外強力化してるのはこっちの魔物だけかもしれないよ?》


「なんにせよ、俺は魔性大陸から出たことが無いのだからあまり関係は無いんだろうけど」


 魔物の強力化が魔性大陸だけにとどまらず、

 人族の住まうホーレシア大陸や中央大陸で起きていたとしても、

 未踏のセルディアにとって油断ならない事に変わりは無い。


 仲間を三体も殺されて勇んでいるキュクロプスを見ながら、セルディアは肩を竦めて、


「面倒だね」


《うーん。さっさと終わらせて動こうよ》


「分かったよ」


 脱力した両手を緩やかに揺らし、体内の魔力を意識する。

 魔術を行使するための過程を開始。

 魔力練成完了。

 『術式と呼ばれる【魔術】を構成する計算式』を演算、魔力を充填する。

 青白い粒子が彼の周囲に浮かび上がり、セルディアは態勢を低く構えた。

 瞬く間に、青白い魔力の粒子が二振りの【霊剣】の剣身に収束する。


 準備は、整った。


法剣(ソードスペル)青烈(スピラーレ)


 術韻を言霊にのせると同時に、セルディアの身体が青い光を伴って前進する。


法剣(ソードスペル)』。

 これは、"魔術によって組み立てられた法則性"に従って技を繰り出す術式だ。


 セルディアの前の世界――上坂唯として生きていた世界の言葉で例えるとすれば、『茶道』や『弓道』等で用いられる定型の動作のようなものである。

 ゲームに出てくる『スキル』といった方が分かりやすいかもしれない。


 事前に定められた規定の動き。それを魔術的に模倣する。


 右肩を突き出すようにして乱れなく一直線に突進したセルディア。

 群れの目の前で減速した彼は、右手に握る【霊剣】の柄頭をキュクロプスの下腹部に叩き付けた。


 回折しながら広がる莫大な青の衝撃波が巨大な肉体を貫通する。

 腹に大穴を開けたキュクロプスは周囲の個体を巻き込み、後ろへと吹き飛んだ。


 極められた術式演算能力から行使される魔術は、絶大な威力を以って発現する。

 自分の五倍以上の重量を持つ巨体を吹き飛ばした鬼の少年は、不適に笑って言う。


「ああなりたい人から来なよ。勿論、逃げても構わない」


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