大人になる
「………ル、…ルル。…ルル。
起きなよ。もうお昼だよ。」
木漏れ日の中の少女は、
実に気持ち良さそうだった。
1.大人になる
大樹の根元にもたれ掛かる少女・ルルは、
少年の優しい声色の言葉にうっすらと目を開けた。
「いつまで寝てるつもりだったの?
気持ち良さそうだったから起こしたくなかったけど。」
ママが呼んでるよ、とルルに話しかける。
一方のルルは、未だ眠い目を擦っている。
アルフは、そんなルルを見て、密かに微笑む。
「…………ねぇ。」
あどけない声色のルルがぽつりと呟く。
「どうしたの、ルル。」
少年も返事をする。
「アルフは怖くないの、?」
「……何が?」
「大人に、なること。」
少年・アルフはふぅ、と息をつき、こちらを見つめるルルの隣に腰掛ける。
ルルは不安そうな顔を隠せずにいる。
「……ルルはどうしてそう思ったの?」
アルフの声は優しい。
「……今朝、ここにきたら、
今までしなかった蒸気のむせ返るような匂いがしたんだ。
今のままで良かったものが、消えていくのを、
見なきゃ、いけないの、?」
ルルの声は、幼く、苦しく震えている。
アルフはそんなルルの背中を、優しくさする。
「僕はね、そんなに怖くないかな。」
ルルは、アルフの答えに少し驚いている。
「確かに僕も、今の森に囲まれた幸せな生活がなくなったり、
ルルとお話したりするのが出来なくなってしまうなら、
それは嫌だけど、」
町を臨むこの場所で、2人は様々な答えを出す。
「でも僕は、」
どんな悩みが2人を襲ったとしても。
「そういった幸せを手放さなくても、
大人には、なれる気がするんだ。」
ルルからしたら、甘いって言われそうだけどね、
とアルフは柔らかく、美しく微笑む。
「……アタシ達は、変わらなくてすむのかな。」
ルルは少し不安ながらも、納得した様子で眼下の町を見下ろす。
アルフはふふっ、と微笑み、
背中をさすっていた手をルルの手に持っていく。
「おいしいご飯が待ってるよ。」
お昼はカルボナーラだってさ、好きでしょ、と明るい声で立ち上がり、
ルルの手を引く。
「うん。」
2人は歩き出す。
前へ。
ひたすらに、前へ。