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女の子、神様に会いました   作者: おじぃ 監修:シュウ
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女の子、押し倒しました

 

「うっほうっほうほほっ、うほほほーいっ!」


 よく晴れた7月初旬の金曜日、午後4時頃の北海道札幌市内、大通おおどおり公園。


 私、高校2年生の留萌るもいうららと、うほうほ言いながら花壇を舞う紋白蝶もんしろちょうと戯れるクラスメイト兼交際相手の音威子府おといねっぷ神威かむいくん、そして我らが新聞部長で3年生、幼児体型がコンプレックスだけれどショートで機能的な髪型に赤い縁の眼鏡が知的で良く似合う、もうじき十八女さかり知内しりうち見知みしるさんとで取材活動と銘打ったフリータイムの真っ最中。


 私と知内さんはベンチに掛けて公園内に停車中の移動販売車で買った夕張メロン味とミルク味をミックスしたソフトクリームをペロペロ舐めながら、仔犬のようにはしゃぐ神威くんを観察している。


 夕方の爽やかな風と、さらさらと擦れる街路樹の葉の音が心地良い。


「くそっ! ちょうちょに逃げられたぜ! 今度はイイジマルリボシヤンマ捕まえてやる!」


「よくそんな希少かつマイナーな蜻蛉とんぼを知っているね。しかし当該種は採集禁止だよ」


 知内さんは博学な神威くんに少し驚いた素振りを見せた。『イイジマルリボシヤンマ』とは、トンボもくの中で前後のはねの形が異なる不均翅亜目ふきんしあもくのヤンマ科、ルリボシヤンマ属に属する、イイジマさんが発見した黒いボディーに星形に近い瑠璃色の斑点が散りばめられた大型の蜻蛉。日本では北海道の標高1300メートル以上の土地のみに生息する希少種であるため、道民でも見掛ける機会は皆無に近い。


 同じルリボシヤンマ属でよく見掛けるのは『オオルリボシヤンマ』といって、イイジマルリボシヤンマやルリボシヤンマより瑠璃色が鮮やかで綺麗な蜻蛉。画像は図鑑か何処かのWebサイトで。


「わーはっはっ! そうだろそうだろー! 神たる俺は全知全能、蜻蛉の種類から女子のスリーサイズに下着の色、排卵日や経験人数までバッチリ把握してるぜ! ちなみにウチの学校の処女率は6割! その中に教職員も含まれてるけど紳士でもある俺は黙って温かく見守ってるぜ!」


「あぁ、キミの探求心には本当に感心するよ。休み時間になると雄叫びが聞こえるからね」


 そう、神威くんはいわば性欲の塊。主なターゲットは目立つタイプのいわゆる一軍。今日のお昼休みは隣のクラスに出没し、ツンデレで気が強い木村きむらさんのお尻を叩いて、狂気に満ちた彼女にデスノートで殺されかけたり、『あははー』が口癖で、のんびりマイペースな留寿都るすつさんの胸を揉んで『きゃははははー! 何すんのさぁー、訴えて社会的に抹殺しちゃーうゾ☆』などと言われていた。


 何はともあれ、神威くんは心のままに動く、年齢と行動が見合っていない変態で残念な男の子なのだ。


 はぁ、どうして私、この人を好きになってしまったのだろう…。


「よおし! 俺もソフトクリームを買っていざしゅっぱーつ!」


 言葉通り、神威くんはミルク味のソフトクリームを買って意気揚々とスキップしながらテレビ塔方面へ前進し始め、私たちもそれに続くのだが…。


 ベチャッ!


「ひゃあっ!?」

「べふっ!」


 あわわわわっ! 神威くんの他所見が原因で、白と黒のチェックのスカートが可愛い中学校の制服を着た見知らぬ女の子と正面衝突し、二人同時に素っ頓狂な声を出してバタリと倒れた。


 神威くんは女の子を押し倒した格好。彼女の顔面にはソフトクリームがべチャリ。ドロドロした白い液体が滴り落ちる。身を起こした彼女は、肩甲骨辺りまで伸びた綺麗な黒髪に、前髪はピンで七三分けにしている。まるでお人形さんのようで、苦しそうな顔をしつつ、通学カバンからポケットティシューを取り出すと同時に、口の周りに付着した白い液体を舐め回している。ソフトクリーム、美味しいよね。


 ここまでなら、謝ればなんとか許してもらえる範囲かもしれない。


 けど、これは…。


「神威くん、いくらなんでも中学生にこれは…」


「ん?」


 むにゅむにゅ。


「ひゃあああっ!?」


 神威くんの猥褻わいせつな行為に女の子は尻餅をついたまま、まるで蜘蛛くものようにけ反った。


「ん!? おっと、スマンスマン!」


「神威くん、ここまで来ると私、貴方を警察に連れて行かなきゃいけないかもしれない」


「おいおい麗ちゃん! ちょっと待ってくれ! これは事故だ! いくらなんでも中学生には手出ししないぞ!」


 両手をクロスさせて否定されても、神威くんの行為は女性として許し難いものがある。なんと彼は転倒時、僅かに膨らんだ女の子の胸を両手で鷲掴みした挙げ句、スカートの中に顔を突っ込んだのだ。日頃の素行からかんがみて、これが事故だとは到底思えない。


「じゃあ、なんで胸を揉んだの?」


 流石にここまで変態だとは思わなかった。完全に見損なった。


「だから違うって! なぁお嬢ちゃん、見知さん!」


 ティシューで顔を拭いていた女の子は困ったような表情で目を逸らし、知内さんは…。


「グヘヘヘヘ~ッ…。ヘイ彼女、名はなんというんだい?」


「たっ、タケダ、タケダルリですっ…」


 両手をワキワキしながら、明らかに悪意に満ちた不敵な笑みを浮かべる知内さんに、タケダルリと名乗る女の子は立ち上がれないまま恐怖で飛び退いた。


 これはまずい。放っておいたらこの子、変態二人にどうにかされちゃう!


 こっ、ここは、唯一健全なお姉さんの私が守らなきゃ!


「いやぁ、しっかしあれだな」


 神威くんは路面に落ちたコーンカップを拾い、バリバリ齧りながら言った。


「顔とか服ベタベタだし、俺ん近いから洗濯してくべ。乾燥機あるからすぐ乾くし、その間はちょっとデカイけどTシャツ貸すからさ」


「「えっ!?」」


 同じことを考えていたのか、私とルリちゃんは同時に驚いた。


「どした?」


 たったいま知り合ったばかりの子をこの神威くんの家に!? とても危険なニオイがするけれど、確かにベタベタのまま帰すのは可哀想だし…。


「ううん! なんでもない…。る、ルリちゃんは、大丈夫?」


「…はい」


 あまり大丈夫ではなさそう。でも大丈夫。悪いことされそうになったら、私が守るからね!


 私は気合いを入れて神威くんのお家へ向かった。



 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 この物語は前後編構成となっております。


 次回、瑠璃ちゃんどうなる!?


 実は作者名を『おじぃさんのかれー(加齢)シュウ』にしようかと思いましたw

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