05待機中(スリーナイト編)
「暇だねー」
「そうだな」
やる気の無い悪の秘密結社でも、一応やることはやる。怪人を作ったり。
ただ、怪人の実地テストが大変だ。街に出して、適当に暴れさせて、リアルでの性能を確かめる。言葉にするとこれだけだけど、そんなことをしてれば、当然来るのが正義の人達。
これが実戦なら勝手に戦わせればいいのだけど、今回はテスト。なので交戦は無し。来れば逃走。その際の足止めが、今日のブラックライズとスリーナイトの仕事である。
普段ならどちらかなのだが、今回は絶対に連れて帰ってきて欲しいらしく、夕飯のおかず1品で、幹部が2人も出張ってる。
「長いなー。ねぇ、ブラックライズ。まだかかる?」
「かかる」
「ぶー」
「何もしてないんだから、大人しくしてろ」
白をメインにした、残念なボディラインの目立つ戦闘衣装に身を包むスリーナイトにかく言うブラックライズも、矢張り暇そうにテストの様子を眺めている。上がる悲鳴に爆ぜる道路。今回は攻撃に重点を当てたらしく、歴代でも五指に入りそうな怪人は、ゴリラとゾウがメインらしい。なる程納得の攻撃力だが、それなら怪人じゃなくて怪ゴリラじゃなかろうか。
「ん?」
ふと、何かを聞いた気がして、ブラックライズは耳を澄ます。徐々に鮮明に聞こえてくるエンジン音。聞き覚えのあるその音を受け、ブラックライズは脇に持っていた仮面を被る。
仮面を固定して、内側についた突起を口に据え、問題無く酸素ボンベが働く事を確認。この酸素ボンベのおかげで、喋れない代わりに、仮面を着けてても苦しくは無いのが、素晴らしい。
だが、それを脇で見ていたスリーナイトは思うところがあるらしい。
「ねぇ、ブラックライズ。その仮面だけどさ」
話しかけてきたスリーナイトへブラックライズが意思を伝えると、スリーナイトが眉を顰めた。
「手話は分からないってば」
言われて、そういえばそうだったと思い、ブラックライズは傍に居た直属の戦闘員の1人を手招きして呼び、再び手話を使う。彼等には必須なのできちんと教えたから、自分の意思がちゃんと伝わっている。
たが、戦闘員はポケットを漁り、取り出したのはペンとメモ帳。
はい、とブラックライズへ渡し、すたこら持ち場へ戻って行った。此処に残って通訳してくれればいいのにと思ったけど口にしない。ただ後でシメる。
「やっぱりその仮面、喋れるようにして貰おうってば。プロフェッサーに頼んで」
『必要無いから』
「いや、今まさに意思疎通で困ってるよ?」
スリーナイトからの言葉はスルー。
『撤退の指示よろしく。俺は殿しに行くから』
「とのするって何?」
『しんがりしにいくから、指示よろ』
「しんがりって――あ、ちょっと待ってよ!」
至極初歩的な疑問を訴えるスリーナイトへメモ帳とペンを投げつけ、ブラックライズが1人でエンジン音の方へと向かう。
さあ、祭りの時間だ。此処まで暇だった分、精々派手に暴れよう。
そう思いながら、腕を回した。