03カラー(1)
「ふと思ったけど」
ガーネットがぽつりと口を開くと、指令室にいた全員の視線が一手に彼女の元に集まる。
どうやら全員暇らしい。
「なんでジャスター達はあんなカラフルな服装なのかしら?」
その一言で全員の視線が彼女から離れた。10割あった興味が3割程度に減ったようだ。
「ジャスターって誰だっけ?あ、潜った。プロフェッサー、音爆プリーズ」
残った3割の興味を満たすために、携帯ゲームから顔を上げることなく尋ね返すスリーナイト。その言葉に、ブラックライズは手元の小説を閉じて顔を上げた。
その顔に呆れが浮かぶも、見ていたのは、同じような顔をしていたガーネットのみ。その表情を届けるべき相手のスリーナイトは目線すらも寄越さない。
「……ジャスターってのは最近名の売れてる正義の人だろうが。何故かしょっちゅう俺に噛みついてくる赤いのを筆頭にした」
因みにその赤いのの名前はジャスターレッド。まんまである。
「あぁ〜、居た気がする」
「新気鋭だから張り切ってる子達ですよ。この前もリアさんの怪人さんを退治した人達です」
「スリーナイト。お前、この前も会っただろうが」
「だっけ?……ああ、あの虹色五人衆か。あ、ルーク。お茶ありがと」
「いえいえ」
「虹に桃色は含まれないだろ。ルーク、俺にもお代わり」
「はーい」
「今更だけど、首領がお茶汲みって凄いわね。ルーク、私にも頂戴」
「ただいま〜」
ティーポットを手にそれなりの広さを誇る指令室を行ったり来たりして、やがてドン・ルークは全員分のティーカップに紅茶を注ぐ。
それを一口飲んで喉を潤してから、「それで」とガーネット。
「何であんなにカラフルなパワードスーツ着てるのかしら?」
「赤、青、緑、黄、桃だっけ。他の正義の人達もカラフルだよな」
EF滞在歴がそれなりに長いブラックライズやガーネットは、ジャスターを除いても5つ以上の正義のチームを見てきた。
それらのうち、2つの例外を除いた殆どが、ガーネットの言うカラフルなパワードスーツに身を包んでいた。基本的に黒系統しか着ないEFからすれば、鮮やかすぎて非常に目が疲れる。
「毒があるって教えてくれてるのかしら?」
「キノコか虫だな」
「まあ、あたし達からすれば毒そのものかもしれないけど」
ゲームの区切りがついたらしいスリーナイトの言葉に何も言わずに同意するガーネットとブラックライズ。
「いっそ迷彩柄なら実用的なのに」
「それじゃあ傭兵ですよ、スリーナイト」
ぼそりと呟いたスリーナイトの言葉にプロフェッサーがつっこみを入れるが、
「居ただろ、迷彩柄のスーツ着た正義の人。《mercenary》ってまんま傭兵って名乗ってた奴ら。あれ?スリーナイトとプロフェッサー知らなかったっけ?」
と、ブラックライズが言った言葉に、はい?と首を傾げる|スリーナイトとプロフェッサー《若手2人》。そんな中、ブラックライズと同期のガーネットが言った。
「2人は知らないんじゃない?確か6年前にザリアスって私達の同業者と相討ちになって壊滅したはずだし」
「ああ、そういやそうか。ま、兎に角、迷彩柄は居たぞ。何度かやり合った。目には優しかったが……酷かったな」
「そうね……」
ごつい筋肉質の男六人が、迷彩柄の服に身を包み、ナイフやらサブマシンガンと言った認識しやすい武器に偽装した特殊兵装を構えて口上を述べる姿は、目を閉じずとも思い出せるブラックライズのトラウマである。あの当時は、幹部ではなく、自身のスーツも今ほど上等ではなかったから尚更だ。
「正直二度と会いたくないから、ザリアスと共倒れしてくれて助かったぜ」
「何か後ろ向きー」
「いいんだよ。正義の奴らと違って、俺達側の組織は全員目的の対象が同じライバル関係なんだ。だったら利用出来るだけ利用して、後は勝手に自滅してくれればそれが一番楽でいい」
ブラックライズはそう締めて、手元のカップに入った幾分冷めた紅茶を飲み干した。