02首領
「お夕飯が出来ましたよ〜」
幹部勢の溜まり場となっている司令室へ、割烹着のドン・ルークの声が響く。すると、その場にいたスリーナイトを除いた四幹部全員が作業の手を止め、各々がテーブルを片づけ始めた。
そして終わった者から順に、配膳に参加していく。今日のメインはさばの味噌煮。3人の顔が、僅かにひきつる。
「え?また?」
「この前、さばが安かったって嬉しそうにはしてたわね……」
「でも3日連続って……。さばのレシピは味噌煮以外に無いんですか?」
「それはあれだ。ルークが味噌煮好きだから」
顔を合わせ、ドン・ルークに聞こえないように3人が声を抑えて話す。そんな3人へ、「どうかしましたか?」と、何時ものぼわわんとした空気を纏うドン・ルークが声をかけたもんだから、慌てて3人は付き合わせていた頭を離す。
「何でも無いですよ、ルーク。今日も美味しそうです」
「そうですか?ありがとうございます、暁深さん」
「いや、今はブラックライズですから」
ちゃっかり表の名前で呼ばれたブラックライズが訂正を入れる。首領成り立てと言うわけでもないし、外などではちゃんと呼んでくれるのに、何故基地だと、裏の名で呼ばないのか。
考えても分からず、ブラックライズが溜息を漏らすと、「どうかしましたか?暁深さん?」と再び名前。溜息すら漏れなかった。
「とりあえず食事に――あれ?よるちゃんは?」
キョロキョロと部屋を見渡すドン・ルークへ、「ああ」とブラックライズが進言した。
「スリーナイトなら、多分職員室だと思います。俺が帰ってくる時、1年担当の先生方が職員会議してましたし」
「なら先に食べてましょうか。職員会議がどれくらいかかるかも分からないし、早くアンケートの集計作業も再開したいもの」
「いただきまーす」
「ダメですよ」
食べ始めようと席に着くブラックライズとガーネット、そして既に箸を持っていたプロフェッサーをドン・ルークが叱る。箸に手をのばすのを止めた2人と箸を持ったままのプロフェッサーが、キョトンとドン・ルークを見つめた。
「ご飯は皆揃ってからっていつも言ってるじゃないですか」
「でも職員会議なんて、いつまでかかるか分かったもんじゃないです。学校内行事についての会議なら兎も角、今回の会議は新1年の学年団の打ち合わせですから。連絡事項だけって訳にも行かないから、当分帰ってくるとは……」
「それに今年は連絡系統がてんやわんやになってて大変って加藤先生も言ってたし」
「スリーナイトも飲み込み悪いから、なかなか話が進まないかも」
「とにかくダメです。よるちゃんを待ちますよ」
「「「……はーい」」」
頑固で聞く耳持たずのドン・ルークの言葉に、3人は肩を落として返事をする。
現在午後7時。最後に食事をしたのは午前11時30分。正直空腹がつらい。
(((いつになったら食事が出来るのかなぁ)))
とはいえ、悪の秘密結社での首領の言葉は絶対なのだ。故に彼らは首領が心変わりするまで、お預けを食らった犬のように待つしかなかった。