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第四日 キイな仕事~事件~

 朝の日差しを浴びる前に起きたのはいつ振りだろう。窓の外では、太陽が顔を出そうとしている所だった。それでも太陽との競争に勝った優越感には浸れず、ぼんやりとしていた。悪夢を見て目が覚めたのだったけど、どんな夢だったかは忘れてしまった。レーデとデュライが出てきた気がする。頭を振るえば、視覚だけが覚醒する。けれど頭の中はずっともやもやしたまま、ついついぼうっとしてしまう。

 寝癖もそのままに、ミシェルの部屋を覗けば、毛布がベッドの下に落ち、ミシェルは三日月を形取って横になっていた。毛布を拾いふんわり掛けて、そっと部屋を後にした。

 パカパカはといえば、いつの間にか運び込まれていた飼葉を美味そうに食べていた。干草と果物だろうか。隣にはワイン貯蔵などに使う小さな木樽が置いてあり、開いた蓋からは水が入ってるのが見える。気を利かせたサービスだろうか。

 いつもより早めに家を出る必要があるので、このままぼやぼやとしていたら時間が無くなってしまう。身支度だけ整えると、そそくさとパン屋を目指す。これが僕の日常だ。


 この時間は焼きたてパンの数が違う。食パン、硬パン、バターロールはもちろん、カレーパン、クロワッサン、ベーグル、デニッシュ、パインパイ。う~ん、食欲をそそるいい香りだ。

「おや、おはよう、ミシェルちゃんはどうしたんだい?」

「まだぐっすり眠ってますよ」

「そうかい。これから、西ギルドまで通いかい?」

「ええ、馬を借りたのでそれほど急がないですけど」

 クロワッサン、砂糖蜜掛けのベーグル、ソーセージパン、アップルパイを取ってオバサンに渡す。

「大変だねぇ。ま、頑張んな!」

「はい!」

「ところで、キャロットパイはどうだった?」

「僕はちょっと……。ミシェルは美味しそうに食べてたんですけど」

 こんな所でおべっかを使っても仕方が無い。

「甘すぎたし、そうだろうねぇ。残して捨てるのも勿体無かったし、ミシェルちゃんが美味そうだったって言うんなら良かったさ」

 ……オイ。と心の中で突っ込みを入れて、紙袋を受け取る。

「今度はミシェルちゃんを連れてきなよ?」

「はーい」


 家の戸を開ければ、すぐさま僕を見つけたミシェルが走って、突っ込んでくる。

「ぐはっ」

 腹部に大突撃である。

「どうしたんだ、ミシェル」

「どこ行ってた!」

「朝御飯を買ってきただけだよ」

 ミシェルは、う~~~っと唸って頭を僕のお腹に押し付ける。結構痛い。

「心配してくれたんだね、ありがとうミシェル」

 そう言って、頭を優しく撫でる。まだ唸って頭をめり込ませているが、弱くなった気がする。

「昨日のパン屋さんのパンだよ、キャロットパイじゃないけどね」

 そう言って紙袋を見せる。ミシェルはそれを見上げる。紙袋越しにパンの香りが流れ出す。

「ん、許す」


 今日はコーナム産とルーナタウン産のブロークンオレンジペコを七:三でブレンドティーを作る。凝っていると言われるが、僕が気に入っている種類の物を四つ揃えて、等級も一、二種類しか置いていない。実家に置いてある茶葉はもっと産地、種類と等級が多い。もっともそれは、客人の好みの合わせられる様にってだけで、普段使う茶葉は大体同じだ。

 沸かしたお湯と茶葉を淹茶ポットに入れ、そのポットを鍋の湯につける。これが僕の紅茶の淹れ方なのだから、変だと言われようが仕方ない。

 一つはそのまま。もう一つは砂糖を多く入れ溶かし、湯煎ならぬ水煎で少し冷やし、ぬるくして。

「さぁ食べよう。この中から2つ選んで」

 紙袋を開け、パンを並べる。

「ん~~~~~~」

 それぞれ見比べているが、決めかねているようだ。考えにくい事だけど、もしミシェルがパンを食べたことが無かったとしたら、判断材料はキャロットパイしかないわけだ。選ぶってことは、過去の経験や体験から選んだ未来を連想し、予想することに他ならない。もちろん、例外もあるけど。そう考えたなら、判断材料の多さは選択を容易にし、判断材料の少なさは選択を困難にしてしまう。

「じゃあ、四個とも半分こにするか?」

「おー、半分こ~。半分こする~」

 クロワッサン、砂糖蜜掛けのベーグル、ソーセージパン、アップルパイを包丁で半分にする。クロワッサンは断面が完全に潰れている、ベーグルとソーセージパンもそこそこに潰れた。ちょっと残念だけど、仕方ない。

「いただきまーす」

「頂きます」

 ミシェルの評価によると、第一位はアップルパイ、第二位はソーセージパン、第三位はクロワッサン、第四位は砂糖蜜掛けのベーグル、第五位は紅茶だそうだ。パンは全部うまい!と言いながら食べていた。紅茶に関しては、ジュースの方が美味しかったらしい事、それだけを仰いました。味覚が違うのは当然だけど、このままだと僕は味覚に対する自信を失いそうですよ、ミシェル先生。

 ごちそうさまをして、食器を軽く片付けているとミシェルが今日の事を聞いてくる。

「リキット、今日のクエストは?」

「えー、今日のクエストは、なんと……!」

 何も考えてません。

「西ギルドに行って……」

「行って?」

「……大人しくしている事!」

「?」

「じゃなくて、やっぱ、向こうに着いてから、色々決めよう。僕も行くの初めてだし」

「わかった!」

「さぁ、着替えて」

「おー!」

 ミシェルの着替えを手伝わず、自分で全部やらせる。時々、このボタンはこっちとか言うだけだ。それでも、順調に着替え終えた。ドレスや正装のような特別な着方のあるものでなければ、すぐに憶えてしまうだろう。今日の服装は、白のカッターシャツと、黒を基調としたゴシックパンツでひらひらの装飾が多い。ミシェルの一番のお気に入りらしかった。

 ボサボサ髪では勿体無いと思ったので、今日からミシェルの髪を梳く事にした。ボサボサ髪と言ってもショートなので、手間はそれほど無かった。

「おっと、遅刻しちゃうかも。行こう! いってきます」

「いってきまーす」


 ミシェルは相変わらずパカパカの首にしがみ付いているが、今はその方が助かる。とはいえ、遅刻するかもと言っても、サラブレッドに街中を全速力で走らせたりはしない。駆け足で程度で十分だ。それでもかなり早く、二〇分と掛からずに到着するかもと思うほどだ。

「いいぞ、パカパカ!」

「パカパカはいいぞ~!」

 大通りを走るのは初めてで、これほど速度感があるものかと少し驚いている。実際、街中と野外では全く、感覚が違う。全速力で走ったらきっとスリルがあるだろうなんて考えていると、すぐに西ギルドに着いてしまう。

 とりあえず、パカパカを近くの厩舎に預けてくる。


「おはようございます、東ギルドから来たリキットです」

「やぁ、話は聞いてるよ。俺はネスト。あっちは……」

 大工ですと言わんばかりの、肉付きと日焼けをした大柄の男。若くも老いてもいないその男はそう言って、奥を指差そうとする。

「おはようございます、私はマルガレットです! マルガって呼んでください! リキットさん!」

 奥から指差される前に、眼鏡をかけた女の子があっという間に僕の目の前までやってくる。

「は、はい」

「ところで、こちらのお嬢ちゃんは? 娘さんですか!」

 目をキラキラ輝かせながら聞いてくるマルガ。

「いえ、事情があって預かってる子で、ミシェルって言います」

「ミシェル=クロウ!」

「そっかぁ、ミシェルちゃんね~よろしくね~!」

 そう言って、ミシェルの手を握るマルガの表情は恍惚としており、今にも口の端から涎を出しそうな勢いだ。

「マルガはお喋りで、しかも色んな話に首を突っ込むのが大好物なんだ。お前さんも運が悪かったと諦めてくれ」

 そうネストが耳打ちしてきた。

「まぁ、短い付き合いかもしれないが、よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

「よろしくー」

「そんなぁ、短いだなんて言わないで下さい。寂しいです。クスン…………と~こ~ろ~で~……」

 そうして、数時間に及ぶマルガの質問責めが始まった。その責め苦は、ミシェルが、お前めんどい! と言うまで続くのであった。

 ミシェルはマルガを無視しながらも、懸命に掃除をした。その結果、西ギルドの中は光り輝きそうなほど綺麗になった。逆に、昼食のメニューにミートスパゲティを食べた時の汚れも手伝って、ミシェルの服は一日でずいぶん汚れてしまった。

 良くやったと撫でて、ご褒美を考えてみたのだけど、これといっていいアイデアも思い浮かばなかった。

 別に浮かんだアイデアの中に一緒に料理を作るという生産的なものがあって、今日はそれを実行することを決めていた。


 帰り道、パカパカに乗って早足で進む。途中で、芋、人参、玉葱、豚肉、カレー粉を買って。そう、今日はミシェルと一緒にカレーを作るつもりだ。

 カレーは元々、サリッサ地方に伝わる伝統料理に使う、何種もの香辛料の粉末を混ぜ合わせた、粉の事をいう。その粉を使った料理は痺れるような辛さと、鼻と食欲を刺激する香りが特徴的だ。しかし、サリッサ地方の人間でない僕たちの言うカレーとは、サリッサカレーを基礎にまろやかに仕上げ、旨みを増やしたカレー粉を大量の水で溶かし煮込んだソースの事をいう。サリッサカレーを使った赤いソースを本格カレーというのに対し、今日作ろうとしている黄色のソースは央風カレーという。

 もうすぐ家に着くという所で、レーデが東ギルドに入っていくのが見えた。僕も東ギルドの様子が気になっていたので、馬を停め、後を追うことにした。

「ミシェル、ギルドの様子を見てくるから、パカパカと一緒に待ってて」

「わかった、待ってる」

 待っていると言いつつも、首に巻きついているわけだけど。


 ドアベルが鳴ると、中にいたのは修理に来ていた男二人女一人そしてレーデ。全員こちらを注視していたが、相手が僕だと分かるとレーデが僕に近付きながら言う。

「お前、どうしてここに?」

「レーデが入ってくのが見えたから、僕もギルドの、キューブの調子がどうなってるのか気になって」

「……そうか。キューブはまだまだ、だそうだ。まぁ一日目だしな……ギルドの方は、見ての通り、全てのキューブを切って開いてもないさ。職員も居ないしな」

 ギルド内を見回すとその通り、キューブは全て明かりを失っていた。

「ところで、西ギルドはどうだった?」

「うん、仕事は暇なんだけど、職員の人達が個性的でね。そっちこそ、中央ギルドはどうだったのさ?」

「ああ、中央も暇さ」

「やっぱりそっか。中央の人達はどんな人だった?」

「良い人達だよ」

「……そうだ、ミシェルと一緒にカレーを作るつもりなんだけど、今日時間ある?」

「カレーか、いいね。もちろん食べさせてもらえるんだろ?」

「うん!じゃあ、行こう」

「ああ。……それじゃあ、後はお願いしますよ」

「修理、頑張ってください!」

 修理職員の女性が代表して応えた。

「任せてください! 美味しいカレー、楽しんできてください」


 ギルドを出てパカパカとミシェルの待っている方へ、歩き出す。すると、夕日を反射した何かがキラキラと光って、上から落ちてきて、僕の首元で止まる。

「動くな」

 本で読むようなお決まりな台詞を聞いても、僕の首の前で止まっているのが剣だと認識するのにしばらくかかった。

 その声には聞き覚えがあり、すぐに赤い髪の少年を思い浮かべる。ギルド側の壁から順に、レーデ、僕と並んで、剣を突き出している者がいる。横目で確認すれば、赤い髪と黒い衣装をしている事だけがわかった。

「……デュライ?」

「隣のお前、逃げるなよ?」

「デュライ、一体何をしてるのさ?」

 完全に理解不能だった僕は、質問を投げかけるしかなかった。デュライは剣を僕の首前に置いたまま、押して、剣の刃の付け根を僕に、刃の先をレーデの首元に流れるように付ける。すると、デュライがちょうど僕の目の前に立つ形になる。

「そっちのお前……」

「リキット!」

 ミシェルの声だ。デュライの姿越しにミシェルが全力疾走で駆けてくる。そして、そのままデュライ目掛けて飛び込む。

「……チッ」

 舌打ちをしながら、僕の真隣へと半回転しながら、するりと剣を引き構えるデュライ。

 飛び掛ったミシェルと、僕の間に白い3本の痕線が奔る。

 着地したミシェルの右腕には見たことの無い、動物の爪の形をなした武器がはめられていた。それはクローと言われる武器だろう。黄と茶色の手袋の甲側から伸びた3本の白い凶器が、動物の爪のように内側に曲がっている。クローは相手の四肢を引き裂く武器だ。

 睨み合うミシェルとデュライ。

「その武器……あの時のガキか?」

「リキットから離れろ!」

「どんな魔法使って出してるか知らないが、それじゃ俺には勝てねぇよ」

「……リキットから離れろ!」

 二度言って、飛び掛るミシェル。だがデュライは、簡単に爪の間に剣を下向きに差し入れると、そのまま払うように剣を押し込む。地に足が着くや否やミシェルは後方に押しやられる。

「大人しくしてろガキ!」

 剣を引き少し間を空けると、力任せに振り上げる。その軌道上にミシェルの武器と頭がある。剣先はまたしでも爪の間を捉えて、ミシェルの爪は右手ごと宙に投げ出される。デュライは身体を左回転させて剣を一周させる。

「危ないミシェル!」

 僕の叫びは届いたのか、弾き飛ばされた右手と爪を外向きに身体の左側へ置く、左手を爪の真っ直ぐに伸びた部分に添えて、間も無く、下から上へスライドしながら回転するデュライの剣が容赦なく飛んでくる。爪と剣が交差して、ミシェルは剣に掬い上げられるように拾われて、そのままギルドの壁へ叩きつけられる。

「ぐぁ!」

 ドツッっと鈍い音を立てた後、壁に叩きつけられたミシェルが、壁に弾かれて落ちていく、ミシェルが、倒れる。

「ミシェル!」

 すぐに駆け寄り膝を突いて抱き寄せる。

「ミシェル! 大丈夫か!」

「ぅ? ……だい……じょーぶ」

 僕はミシェルを覆い抱きしめる。

「さぁ、待たせたな?」

 レーデの方を向き直るデュライ。もう、何が何だか分からない。ミシェルを一刻も早く医者に見せたいが、レーデを見捨てていくような事はできない。

「……許してくれ」

 僕には、そのレーデの言葉の意味が全く分からなかった。

「知っている事を吐いてもらおうか」

「ああ、わかった。…………初めは偶然だったんだ。……ついうっかりソルバーの事を話してしまって、それを聴いていた奴が俺に話を持ちかけてきた。ソルバーの情報を売れと。……どうしても金が必要だったんだ」

 レーデの言っているのは多分、失敗報酬0%の薬素材クエストのソルバーの事だとすぐにわかった。ミシェルがデュライのクエストアイテムを狙った事。デュライを狙うように誰かからの情報を得てしていた事。レーデがデュライの情報をその誰かに流したとすれば、全ての流れが合致する。

 それは失敗報酬の無いクエストが、ソルバーも依頼人も互いを知らずに進行するクエストで、その最たる例がアイテム収拾という事に尽きる。この場合においては、ソルバーの情報は一切外部に出される事がない。これはソルバー保護という要素が強い。今回はデュライがあのクエストを受けたことは、僕とレーデしか知らないことになる。

 ちなみにその逆、失敗報酬の有るクエストは内容によって、顔合わせというものが出来る。クエストを引き受けるソルバーと依頼人が互いを確認できる制度だ。もっとも相当慎重な人間しかこの制度を使ったりしない。

「フン、お前の事情なんてどうでもいい。……俺が知りたいのは、その情報を買ってる奴の事と、その居場所だ」

 デュライが剣を向け、正直に話すレーデに詰め寄る。

「……奴は依頼人じゃないが、居場所なら知っている」

「じゃあ、案内してもらおうか?」

「ああ」

「……すまない、リキット……こんな事に巻き込んで」

「……レーデ」

「早くミシェルを医者の所まで運んでやってくれ……」

「……うん」

 レーデはゆっくりと歩き出した。デュライは剣を鞘に収め、何事も無かったかのようにレーデの後ろを追う。


「ミシェル!すぐに医者に診せてやるからな!」

「えー、医者ヤダ!」

 言うと、すくっと立ち上がるミシェル。……えーと……全然……元気に見える。

「大丈夫なのか、ミシェル?」

「うん! 大丈夫」

 壁に叩き付けられたのになんで、と困惑している僕の頭の中に声が響き始める。

(リキットとやら、ミシェルを心配してくれるのは有り難いのだが、この子は大丈夫だ。問題無い)

「えっ?」

 その低い声ははっきりと響いて聞こえるのだけど、周りを見回しても、離れた所に一連の騒動により出来たと思われる人だかりが残っているだけで、その声とは距離感が全く違った。

(儂はここだ、ミシェルの右手……この武器に宿る精霊だ)

「……せいれい、と言いますと、あの精霊ですか!」

 精霊というのは魔法の基礎となる能力を持つ存在の事で、普通には見ることが出来ない。魔法は精霊との契約によって体内外のマナを使用することで発動する能力というのが魔法の通説で、精霊無しに魔法を使う事は出来ないとされている。

 因みに、魔科学と魔法はマナを使う事以外は、全く別の分野で共通点が無い。なので、魔法や精霊ついて詳しい事は僕は全く知らない。

(喋らずとも良い。お主とは通じた故、お主が伝えたいと思い考える事であれば、儂には伝わる。それに精霊云々と口にする事は、お主にとっても良い結果には成り得ぬ)

(……えっと……こ、こうでいいのかな?)

(うむ、宜しい。……申し遅れたのだが、故あって本来の名は教えられぬ。今は器の名を借りてパンサークローと名乗っておる)

「そ、そうだ! ミシェルは無事なんですか!」

 つい喋ってしまったけど。これって、周りの人から見たら、襲われた事で精神が錯乱しているように見えるんだろうな。

(詳しく話すには時と場が適切で無い故、言及せぬが、ミシェルは無事だ。)

 デュライに連れて行かれたレーデも多分無事だ、と思いたい。レーデが危険になるとしたら、レーデに対し用の無くなるデュライよりもむしろ、情報を売っていたという相手が逆上した時だろう。

 そういえば、さっき精霊はパンサークローと名乗ったっけ。ミシェルがカラスだった時のストリートチルドレンのリーダーと同じ、パンサー。

(……聞いておるか?)

「え?」

(場所を変えぬか、と申しておる。……それに、ミシェルもカレーとやらを、一緒に作るのを楽しみにしておるのだ)

「おお、カレー! カレー!」

 色々あって少し混乱気味だけど、レーデをこのまま放って置いていいのだろうか。レーデは確かに自分の非を認めて、デュライを案内した。ミシェルの身を案じてくれた親友の窮地を見過ごす事が出来るだろうか。ミシェルは無事である以上、その答えは簡単だ、そんなこと出来ない。

「ごめん、ミシェル。レーデが心配なんだ。カレーは後にして、後を追わせて欲しい」

「うん、わかった」

(それは良いのだが……後を、追えるのか?)

 レーデとデュライが向かった方向には、もう彼らの姿を確認することは出来なくなっていた。すぐ角で曲がったとも、デュライが急かしたとも考えられる。いずれにしろ向かった先は、東ギルドより西……ほぼリザリア全域だ。心当たりでもなければ探しようが無い。

「そうだ! ……ミシェル、デュライが金目の物を持ってるって、教えてくれた人が何処に居るか知ってる?」

「ん~、知ってる!」

「ほんと! そこに案内できる?」

「うん!」

(では儂はしばらく消えるとしよう)

 聞こえるや否や、ミシェルの右手の爪武器パンサークローは見えなくなる。ミシェルの右手の周辺を慎重に探るが、何かに触れることはなく、本当に消えてしまっていた。


 パカパカに乗り、ミシェルにの先導で向かった先は、昨日立ち寄った診療所だった。


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