第一五日 帰宅
全てが終わった帰り道。行く時は何と感じもしなかった、緑を香りを含んだ風が追い抜いていってしまう。
真っ赤に燃える炎の中へと消えていった友人。対して僕は彼らハンターに拾われた。
喪失感が僕を包む。何もしたくない。何をしたらいいのかわからない。ひたすらにネスティに心配されていた。マセルは僕の心を知ってか知らずか、放って置いてくれた。
失った友の言葉が頭の中をめぐり続けている。失った友との記憶が目に浮かび続ける。最後の笑顔がくっきりと焼きついて離れない。
僕はマセルとネスティと共に、日の暮れかけたリザリアへと戻って来た。聴聞委員のみんなはそのまま王都へと戻ったらしい。彼らと西ギルドの前で別れ、夕日を浴びる町並みを見た。
西ギルドにはネストさんが一人残っていた。開いている時間は過ぎていたけど、挨拶するのに入った。
入ったものの、何て言えばいいのか。言葉が無かった。
「……ただいま戻りました」
隣ではキューブが青く光っている。魔力保管器というものがあって、残った魔力でキューブを動かしているらしい。なんだかどうでもいい話だ。
「おうリキット、おかえり。……なんだ。ずいぶん疲れてるみたいだな」
確かに疲れていた。
「ええ、まあ」
「通信があって、今日が帰ってくる予定の日だから、ちょっと心配になってたんだが」
そうか、干渉が無くなって魔法通信が出来るようになったんだっけ。
「まぁ、とにかくお前んちで二人とも待ってる。早く行ってやれ」
二人……? ああ、そうだっけ。ミシェルとマルガか。
「……はい」
借りとはいえ我が家を見ると、ひとり帰って来んだと思える。そう、レーデを連れてではなく。僕ひとりで。
力なく開いた扉、その先にミシェルが立っていた。
「リキット、おかえり」
ミシェルの声。――ミシェルの声を聞いて思い出す。ミシェルとの約束を。誓いを。
そうだ、約束したじゃないか。
……何で僕は、レーデを助けられなかった? 連れて帰れなかった? 何で、約束を破った。僕は力なく膝をついた。
何も変わってないじゃないか。変わったと思い込んでただけじゃないか。
僕はいったい何をやっていたんだ? 自分が情けない! 自分が腹立たしい!
ミシェルの願いを聞いてやれなかった。……僕の覚悟が全く足りてなかった。……悔しい。僕はとてつもなく無力だ。無力だ! 無力だ!!
自然と握る手に力が入る。
「……ごめん、ミシェル。僕は……」
ミシェルがそっと寄り添って、僕の肩に小さくて細い腕をまわした。
「おかえり」
僕は泣いた。
子供のように泣いた。
涙が止まらなかった。