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OLFEED ~ギルド職員の仕事~  作者: 植木粘土
IV.目を閉じれば
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第?日 目を閉じれば~友であること~

 

 僕達は、泥棒達を追いかけていた。といっても、視界に彼らを捉えているわけじゃない。男子学生が先を走る。後ろにつけてそれに追従する。僕でもそれなりに余裕があるほどのペース。こんな速度で大丈夫なのか疑問に思う。

「ねぇ! 早く行かなきゃ、逃げられるよ!」

「大丈夫だ、そう速くは無いし、時間はそれなりに出来る。人質様様だな」

 反論しようとしたけど、彼は間を置かずに話し始める。

「よく考えてみろ、人質が最速で奴らの思うように走るわけが無い。それに、人質を取ったら誰もが好き勝手出来るような街だとしたら、治安部隊なんか存在しねぇ。虚言でなければ、出入り口で奴らは立ち止まらざるを得ない」

「そうか、治安部隊の人達と協力するんだね?」

 それには答えず、話を続ける。

「そもそも奴らは魔法を使えるのに、何故人質なんて取ったのか。答えは簡単、魔法が万能じゃねぇって事。それは歴史が証明してる。……つまり何らかの制限があるはずだ。逆を言えば、それが突破口になる」

「制限って?」

「さぁな。ただ、わかってる事もある。片方の奴の魔法、おそらく見えない一個の物体を操る。もしくはそれに似た魔法。……俺の上に乗ってた重みが消えたと思ったら、遠くにいた治安部隊がすぐにぶっ倒されてたって事を考えると、かなりの移動速度。瞬間的移動物か」

 彼が地に組み敷かれていたのを思い出す。

「そういう魔法だったとして、どうやってファロを助けるのさ?」

「それを今考えてる。お前武器になるようなもの持ってないか?」

「持ってないよ」

「じゃあ素材はそうだな……。ルーナタウンの治安部隊が墓園を包囲している。相手は逃走中の泥棒二人組みで魔法を使う。で人質を一人取られている。俺達の目的は人質奪還が最優先。俺達の武器は俺の持ってる果物ナイフ一本。他には……」

 そう言っている内に、周囲が明るくなっていく。魔光灯を持った治安部隊が墓園の出入り口に集まっていた。その前には、泥棒達とファロがいた。

 僕達は治安部隊と対面する泥棒の後ろ側をとっていた。自然と挟み撃ちに出来る格好となっている。

「おい、こっちだ」

 木陰に身を潜ませて、僕を手招きする男子学生。泥棒と治安部隊は硬直状態に陥っていた。僕も木陰へ飛び込む。

「……そういえば、お前インデルミッツと言ったか?」

「うん、そうだけど?」

 いい料理法が浮かんだぜ。そう言って男子学生は不敵に笑った。

 その作戦はまず、裏側から僕が泥棒の注意を引きつける。ファロを人質にしている男の近く、出来れば二歩、三歩以内の距離がいい。泥棒は前後に気を配らなくてはならなくなるからだ。上手く興味を引ければ、治安部隊が動くだろう。そうすれば、魔法を治安部隊に使う可能性が飛躍的に上がる。魔法を使えば果物ナイフを投げ隙を作って、僕がファロを救出する。

 男子学生は流れを説明して、後方を狙うために暗闇へと消えていく。

 治安部隊が動かないかも知れない。与えられた時間は極僅か。もう片方の泥棒も魔法を使うかも。ナイフが刺さっても怯まない可能性もある。不安要素を口にした男子学生曰く、成功率は三十%以下。


 一世一代の大博打だ!


 両手に全身全霊の力と体重を込めて、男を押し退ける。男はよたつきながらも、倒れずに後退するだけだった。しかし、この時点でファロと離れたのは間違いなく、救出成功を意味していた。

 強く目を閉じるファロの腕を強引に掴んで引っ張る。

「ファロ! 逃げるんだ!」

 走って距離を取る。

「ちょっとアンタ危ないじゃない! 当たってたらどうしてくれるっての!?」

 ファロが向く方向から、男子学生が僕達の来た方向の左寄りの茂みから出てきた。泥棒男を見れば、果物ナイフを地面に叩き付け、腕から血を流していた。

「別にいいじゃねぇか。助かったんだからよ。……そもそも短刀を持つ手に当てなきゃ、出来なかったんだよ」

「と、とにかく逃げようよ」

 泥棒女は疲労困憊と言わんばかりに膝つけて座り込んでいた。出入り口を塞いでいた治安部隊は、倒れている半数と残り半数で、沈黙と混乱に包まれている。徐々に数が増えているというのに、好機だというのに、まるで動こうとしない。逃げられるのだろうか。

「待ちやがれガキ共!!」

 言って男が両拳を胸の前で力強く合わせる。怒り心頭している男によって、大気が震わされているような錯覚に陥る。

 次の瞬間、僕の前で男が拳を引き込んでいた。あとは振り切るだけ、そんな状況だ。

「え? ぐっぅ!」

 殴られたと思った時にはすでに、僕は顔を鷲掴みにされ、軽々と持ち上げられていた。

「マジかよ……? 逃げろ!」

 男子学生の声が後ろから聞こえる。そして足音。

 僕は悟った。くしくも、経緯はどうあれ僕の最初の要求通りになった。人質交換したってだけだ。そうだよ、望んだとおりになった。良かったじゃないか。でも、

「……見捨てられた。いつもちやほやされてたって、いざとなったらこうなるんだよ」

 誰に言うでなく僕は呟いた。

「……僕が人質なら、エクセリアに行けば身代金だっていっぱい貰える。魔法を使える貴方達なら簡単でしょう? ……そうだ、僕を生かして届けないとね?」

「あ? インデルミッツの坊ちゃんは気でも狂われたか?」

 痛みから。目が見えないから。置き去りにされたから。僕がインデルミッツに生まれたから。理由はわからないけど、涙が流れてきた。イヤになる。泣いてるからか頭の中が真っ白だ。

「僕は道具なんだよ!」

「――そんな生き方が楽しいかよ!?」

 聞いた事がある声なのに誰の声かわからない。

 男の短い声が漏れて、僕の視界と身体が解放される。

 目に映ったのは、青を濃くした短い髪を振り乱す学生の、レーデの後ろ姿だった。


「本気でぶっ殺すぞ、ガキ共!」

 両腕を広げ右回転する男。レーデが左へ吹っ飛ばされ転がる。男の後ろ、影から紫髪の男子学生が右へ飛んでいく。

 危機だというのに、心配だというのに、僕は嬉しくて仕方がなかった。

「まずはてめぇからだ!」

 男は紫髪の男子学生を追っていた。転がる男子学生の回転の勢いが弱まって、止まる。瞬間、男は右拳を思いっきり振り下ろした。

「ぐぁぁーー!!」

 彼の脚に直撃する。地面にめり込んでるように見えるほどだ。その衝撃で彼の足先はあらぬ方向へと向いた。

 拳を打ち下ろした男は、それを見届ける間も無くこちらへと走る。その顔は血管が浮き上がっていて、鬼の面のようだ。

 男は拳を振りかぶる。今度は捕まえようとしているんじゃない、確実に殴り潰そうとしている。

 拳を振り抜かれた――そう思った。

「させるか!」

 前にレーデが割って入る。男は構わず振るう。


 光が集結する。治安部隊の持つ魔光灯の明かりから、墓園の薄暗闇のほんの微かな明るささえ。レーデの突き出した手のひらと男の拳の間に、光が集まる。何も見えない真っ暗闇が訪れる。ほんの刹那の出来事。光が戻る、元の墓園に戻る。目がおかしくなったのかと思った。レーデと男の手の間から硬貨が落ちる。黒ずんだあのコインだ。地面に落ちる前に、塵と化したように粉々に微細に、消えてなくなった。

「何を、した?」

 男が狼狽する。あの勢いの殴りを止めたんだ、無理もない。

「友達を助けただけだっての。……それに、あんたは人を殺すような気に見えない……ぜ」

 立つ力を失って倒れるレーデ。


「何ですか、この醜態は! これだから私設警備と言うものは……」

 そう言って、治安部隊と思っていた私設警備員の他に、本当の治安部隊の指揮官と思われる人物が現れる。同じ服を着た部隊がぞろぞろと集まってくる。それから事態は一気に収束していった。

 治安部隊を見て観念したのか、それまでの勢いを失ったように泥棒達は大人しく投降した。

 僕達は病院へと運ばれた。男子学生は命に別状はなかったものの、ルーナタウンでの治療を余儀なくされた。僕とレーデは翌日退院した。ファロにも、女子学生にも心的傷害はほとんど無かったらしい。

 それ以降、修学旅行の行事から肝試しが消えたようだ。

 あとエクセリアに帰った僕は、兄に説教されたり抱きつかれたりと大変だった。けどそれはまた別の話。




「コイン壊れちゃったね。大事なものだったんでしょ?」

「ああ。でも言ったろ。いつかは、物は壊れるって。……あ、自分が道具だとかまだ思ってたりするのか?」

「さぁ? ただ、君の友達だって、心の底からそう言える人間でありたいと思うよ」

 新緑の香りがした。


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