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OLFEED ~ギルド職員の仕事~  作者: 植木粘土
IV.目を閉じれば
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第?日 目を閉じれば~硬貨の教え~

 一通り農業区を散策し終えた僕達は、茶の香りが漂う近くの芝生に寝転がっていた。

「いや~色々な物があって楽しかったな」

「僕はこの香りを体験出来たのが一番良かったよ」

 本当の一番はこの楽しんでいられる時間だ。

「茶好きなのか?」

「昔からずっと飲んでるけど、好きって事になるのかな?」

 お手伝いさんが用意してくれる紅茶を不味いと思った事はないし、美味しいと思っている。けれどそれは好きだという証明なのか。人が用意した紅茶。

「そりゃ好きなんだろ。じゃなきゃ飲んでないっての」

 そよ風が運んでくる新緑の香りを肺の奥まで染み込ませた。

「うん、そうかも。……でも、いつまで続くんだろう」

 語気弱く呟いた言葉はただの独り言だったが、レーデは聞き返すことなく目を瞑った。

 しばらくの間、茶畑の香りに包まれながらまどろむ。

「いつかは、物は壊れる。いつかは、人も死ぬし。長い時が経てば、国や文明だって滅びる。なら、憎しみやしがらみだっていつかは無くなる。俺はそう信じたいし、それが早く訪れるように努力する。……ってな、こいつをくれた人の受け売りなんだけどな」

 ふと見ればレーデは黒ずんだコインを太陽にかざし、遠くを見ていた。

「いつかは無くなるか。そんな風に考えた事無かったよ。いつか無くなるかな」

「……いつかを、ただ待ってるだけじゃ駄目だ。お互い分かり合なくちゃ。そのためには、まずは知り合わないとな。って思ってる。それが努力ってモノなのかはわかんねぇけどな」

 僕にとってのしがらみって何だろう。家名や立場、本当にそうなのか。

「さてっと。農業区には店が何も無かったからな。この後、彼女との予定でも無けりゃ飯を奢るぜ? それでチャラって事で頼む。別荘なんて無理だからな」

 人懐こく笑うレーデ。

「ごめん、自由時間に行こうと思ってるところがあるんだ」

 僕が行きたいのは、図書館だ。僕だって学生の端くれ、学術的な好奇心が無いわけじゃない。せっかく魔術の国ヴィダスに来たのだから、魔術について調べたい。宗教歴史グループに参加した生徒達に一歩遅れるのも嫌だし、兄さんや家庭教師の知らない事を学ぶ千載一遇の機会だからだ。

「なんだ。彼女が居るのか」

「違うって、居ないよ!」

 何とか話題を変えようと、必死で言葉を紡ぐ。

「そういえば、最初に会った時、どうして逃げてたの? 説教を受けに行ったんでしょ」

「ん? ま、時には説教を受けるのも面白いかと思ったんだが。なーんにも面白くなかったからな」

 レーデは悪戯が成功した子供のように笑って、付け足すように一人呟く。

「……それにいいんだ。もっといい方法を見つけたかも知れないからな」

 僕には何もわからなかったけれど、そよぐ風と香りが気持ちよくて、また目を閉じた。


 レーデと分かれて、一人で来たルーナタウンの公図書館には、魔術に関する資料が少なかった。というより、歴史書や宗教書に時折り出てくる具体性を欠いた曖昧な表現で書かれている程度だった。ヴィダス国の中でも有数の家だけが、魔術を独占しているというのは知っていたけれど。この国の一般庶民にとって魔術は他国の人間と同じような曖昧な存在なのだろう。ルーナタウンだけが特別で、他の街では魔術書があったりするのかもしれないけど。

 独特な表現で、魔力の枯渇により死亡だとか、契約の失効だとか。その中でも一番気になったのが、紋章のような刻印が全体になされた古い書物。聖書の一つと思われるが、その書物は傷みが激しく、所々読めなかった。その一文が精霊という言葉から始まる。

 ”精霊……交……契約を……者は……魔力……て力を得…………命失う……無かれ”

 ほとんど読めないその古書には何度も、精霊、魔力、契約という単語が繰り返し使われていた。何しろ、今じゃ使われなくなった文字で書かれている上、欠けていて文脈も読み取れやしない。自由時間の全てをこの解読に費やして得たモノ。それは精霊と魔術には深い関係があるって事。早い話が何も進展が無かったってことかな。とほほ。


 日が落ち始めていた。宿泊施設へと思い思いの用事を済ませた学生達が入っていく。初日から両手いっぱいにお土産を抱えた者、友人と談笑し騒ぎ立てる者、くたびれた顔でとぼとぼと歩く者。集合時間にやたらと時間の掛かる点呼を始める。

「ゾンビが出るってホントかな?」

「そんなの嘘でしょ」

 誰かが話し合っていた。ルーナタウンでは夜な夜な、死にきれなかった死体が徘徊している。誰が噂し始めたのかは分からないが、出発前の学生間ではその噂で持ちきりだった。尾ひれが付いて回って、ある宝石を見るとゾンビの仲間入りをするだとか、美女が死界へ誘うだとか、果ては魔法使いが空を飛び回っているなどと何の因果も感じない噂にまでなっていた。仮に本当だとして、ゾンビが徘徊するような街を放置しておく訳がないし、出発前に広まった噂というのが胡散臭さを強めている。けれど、そのせいで僕達は肝試しをする予定にされていた。それも旅行の行程の一つとしてだ。生徒間の発案で密かにやるというなら、楽しめる人間もいただろう。なんというか、やるせない。

 数名毎に割り当てられた部屋鍵を手に散っていく一同。僕の部屋割りは、一人部屋。何が起きてこれほどの幸運に巡り合えるだろうか。肝試しが行われるまで、会食が開かれる。ちょうどお腹も減った事だし、手荷物だけ部屋に置いて、会食場へと向かう。ルーナタウンで一二を争う敷地面積を誇る宿泊施設は、名士の会食や式典の場としても貸し出していた。

 天井には細工に凝ったシャンデリア。壁肌の半分を覆い隠しつつ美しい皺を誇示する巨大な壁飾りの白布、晒された壁肌に明りを得るためには不必要な燭台。柱の無い広大な一室に似つかわしい、大きなベランダが片面に四ヶ所。そのうちの一つ、天井までガラス張りの窓際で外を眺めていた。高層階にでも無ければ、こういう所の窓からはだいたい庭が見える。日も落ちていて人気が無く、庭師が苦労して魅せる緑の世界の一端を部屋明かりが照らしていた。

 しばらくして、施設の従業員が料理のこんもり盛られたプレートを車台で運び込んでくる。室内には休憩用の椅子が数脚しか無いので、立食ビュッフェということになる。

「……リキットさん。わたしと一緒に肝試しを回って下さいませんか?」

 ふいに声を掛けられる。会食用に着替えただろうドレスの、とある女子学生に声を掛けられた。肝試しは男女二名を組んで墓地を巡る、全員強制参加の行事。従って、出発前からこうした誘いが多かった。当日に誘われたのには少しばかり面を食らったけど。こうして誘ってくる彼女達は政略結婚だとかを考えているのだろうか。

「ごめんね。相手は決めないで、くじ引きに参加するつもりなんだ。その方が面白いでしょ?」

 処世術、処世術。相手を決めると色々と面倒なんだよ。決めた相手方にもそれなりの覚悟がいるし。……それとも、思い描く女性像があるからだろうか。ともかく体面的に申し出を断る。

 男女のペアが作れなかった生徒達を救済する目的で存在する、くじ引き。表向き面白いという理由で、誘いを断れるし、僕が決めるという行為によらず、事情を知らない女の子と組める可能性もある。ある意味、僕が一番救済されているかもしれない。

 並べられた料理の数々、調理法よりも色彩を意識しているように感じる。想像通り、格別に美味しくも無かったけれど、ニンジンを除けば食べられない物はなかった。

 立食会ということもあってか、相変わらず取り巻かれる。いつも軽く邪魔臭く感じていただけなのに、今は妙に息苦しい。食事を終えて早々に、煙に巻くように一人部屋へと退散していた。


「それでは意中の異性の心を射止められなかった君達には、新たな出会いがあるかもしれない。運命のドキドキくじ引きチャンス! に挑戦してもらいます」

 人が傷つくかもしれない前置きを平然と言い切る既婚の引率教師。全然関係ないけど、何故か腹が立つ。

 ここはルーナタウン街中にある墓地の入り口。周辺民家の魔光灯がうっすらと墓地全体像を浮かび上がらせている。ヴィダス国の埋葬方法は確か、エクセリア国と同じ土葬だったはず。だから墓地の様式も似るのだろうか、庭園を模した鎮魂のための埋葬場所だ。管理が行き届いている証拠に、つた草の長さや茂みの深さが揃っている。

 入り口から墓園の四隅と中央の五ヶ所を巡って、通った証を持って戻ってくるというルールだ。敷地面積が広く、途中二本ほど公道が通っているらしい。所要時間はおおよそ一時間。と言う事は普通に歩ければその半分ほどの時間だろうと邪推できる。

 さて。運命のドキドキくじ引きチャンス……によると、僕の相手は彼女らしい。伸ばせば長そうな黒髪を平たく三つ折にして、銀色の髪留めで上手に留めている。その肌は褐色で、ちらりと見える褐色の脚線が妖しく見える。彼女の着ている服が紺の学生服でなく、露出の多い服装だったなら南国にでも来たのかと勘違いしそうだ。

「リキットと言います」

「あたしファロッセラ、ファロでいいよ。よろしくね」

 よろしくと返しながら、注意深く観察する。彼女の胸の膨らみや腰回り、じゃない。……彼女の挙動だ。僕を見る瞳は、陰を感じない。腰の引けた感じも、やたらと己を押し出そうという気配も無い。彼女は知らない、そういう事に無関心なのだろう。むしろ、そんなに私を見てどこか変なのとでも言いたそうだ。

「どこか変かな?」

 言わせてしまった。服装を気にするように褐色の首を動かす。

「変じゃない。ごめん、褐色の肌が珍しくて、つい見惚れてた」

「そお? そんなに珍しくないと思うけど」

 確かに。エクセリアの中、この街の中でも褐色肌の人は割と多い。十人いれば、二人がそうだろう。学生の中でもさほど変わらない。けれどよくよく考えてみれば、僕を取り巻く人物の中に褐色肌は居ない。

 間を空けて、少し照れくさそうに、頬を掻く彼女の行動を見る。見惚れていたという言葉を使った事ににやっと気付いた。

「あはは。そ、そうかも」


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