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OLFEED ~ギルド職員の仕事~  作者: 植木粘土
III.ギルド職員の真実
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第一一日 ギルド職員の真実~一本路の別道~

 大きく開いた中庭の左側を疾駆する。僕の乗ったパカパカの走りに合わせて、跳ねるチコメコを掬い手で拾い上げる。チコメコを拾うために馬上から半ば落ちた身体を強引に戻すと、パカパカは山なりに跳んだ。

 軽々と頭上を越えていく馬を誰が普通と思えるだろうか。なりふりなど構っていられなかった。ネスティと対峙する黒服は一瞬怯んだ。けれど足止めとしての役割を放り出したりせずに、その場に留まったまま。むしろ僕が通っていっても何も変わらない。そう言わんとするばかりに腰を据えているようだった。

「リキットさん、助けたい人なら躊躇わないで。僕は貴方からデュライが生きていると聞くまで、ずっと後悔してました!」

 ネスティの声を背に受けて、パカパカは走る。


 中庭を抜け、魔力抽出所の内郭へと進入する。罠が一つも無いものの、造り自体は中庭以前の外郭部分と同じで、鉄柱が不自然さを醸し出していた。人気が全く無いのも同じだ。

 しかし中庭の壁を覆い隠すほどの群集と、罠ばかりだった外郭で想像できる。恐らく、魔力抽出所の外郭は侵入者を撃退するためだけの設備。本来、所員も警備員もこの内郭施設で働いていたはずだ。でなければあれだけの人数が中庭で眠らされているはずが無い。

 既に内部の人間を中庭へ運び出しているのだから、レーデは目当てを突き止めていると考えた方が良さそうだ。なのに僕は三方に進路が分かれた通路に立ち往生してしまう。レーデの行き先が分からない。

「どっちに行けば……?」

 誰にでもなく聞いていた。

 真っ直ぐ――チコメコが僕の頭の上に乗ったまま、真っ直ぐに前を見つめている。

 それは簡単な推測。レーデ達が魔力抽出所に来た理由、逆を言えば、ここで無ければならなかった理由だ。そんなの決まっている……それは抽出システム。それ以外には有り得ない。施設地図でもこの先の中枢部に抽出システムがあるはず。

 でも万が一、違ったら。焦りと不安が僕の思考を犯していく。そうじゃなかったら、間違ったらと、簡単な推理も、疑心暗鬼になって返ってくる。息苦しさが僕を包んで、目眩を覚える。パカパカの背に乗っているのも、足が浮いているのもそれに拍車をかける。

 立ち止まったままじゃ、ここまで来た意味がなくなってしまう。行こう、この先へ。けれど馬腹を蹴っても、パカパカはうんともすんとも言わず、微動だにしない。

「パカパカ……どうした?」

「なんか嫌な感じがするぞ」

 パカパカの代わりに答える小人の精霊。僕の知る限り初めて神妙な面持ちのプーカポカも、前を見て何かを感じ取っているようだ。魔力に敏感な精霊が見る先に、魔力抽出システムがあるのは間違いない。僕から見てもこの先に圧迫感を感じる事ができるのだから、馬であるパカパカにすればこの通路の閉塞感は尋常ではないのだろう。

 パカパカの背から飛び降りると、自分の足にずっしりと重量が掛かる。改めて全身が浮遊しているように感じるのは、飛び降りた反動ではなく、緊張感からだろうか。静寂に包まれる通路に心臓の音が響いているみたいだ。

 ゆっくりと一歩を踏み出せば、それに負けまいと左足が、その左足につられて右足が前へ。間の抜けそうな速さでも着実に進み出る。手綱を引いていないにも関わらず、パカパカが僕との間を詰める様に歩き始める。

 ギィィィ

 錆び付いた音を立てながら、視界の端に扉が開かれていくのが見て取れた。素早く十字路を利用して死角に隠れて様子を見る。

 扉から出てきた人物も周囲を警戒しながらゆっくりと姿を現す。それはエクシスとケッペンだった。

「エクシスさん、ケッペンさん……無事でよかった」

 死角から飛び出した僕はそう声を掛けた。覗き見るように僕の姿を捉えた二人は、こちらを向き直る。同時に僕以外の人が居ないのを確認して、怪訝そうな顔付きに変わる。

「他の方はご一緒ではありませんの?」

 当然の疑問だった。彼女の同僚ヘイブマンの友人の弟であり、僕が持ってきた手紙を読んで同行を強要されたという経緯。彼女の知っている事からすれば、僕を警護する人がいないというのは納得がいかないのだろう。

「さっき、中庭のような場所でレーデ達と遭遇して戦闘になって……僕だけ馬で抜け出してきたんです」

「そう。……ではやはりここは中心部の方ということですわね?」

「はい。でも本当に死んでしまったんじゃないかと心配していたので、良かったです」

「全然よくなんか御座いませんわ! 落ちた先がゴミ処理場で、こんなに汚れてしまって……汚らしいったらありませんわ」

 思い出したように、これでもかとローブをはたき始めるエクシス。

「でも、ゴミ処理場だったから生きて出られたんですよね。槍でも立てられた床だったりしたら、もう」

 エクシスは目を細めて、少し言いにくそうに口を動かす。

「いいえ……もし稼動していたら確実に死んでいましたわ」

 そんな中でもケッペンはただひたすら沈黙を保っていた。


 エクシスは場所の確認と、現状を僕から聞きだした。僕はヘイブマン達との合流を勧めたが、エクシスは構わず中枢へ向かうと言って聞かなかった。死んでしまいかねない状況に陥ったにも関わらず、その意思表明は彼女が強い人なんだと思わせた。

 独りで進むのを諦めて、エクシスとケッペンに続く形で行くことにする。

「ケッペンさんはどうしていつも喋らないのですか?」

 警戒しながら進んでいるのに、僕の口から滑って出てきたのは、ずっと思っていたその疑問だった。

「……喋らないんじゃ御座いませんの。……喋れないんですわ」

 振り返る事無く、答えるエクシスの悲しそうな声。

 どうやら触れてはいけない部分に触れてしまったらしい。ケッペンの頭の不気味な膨らみと何か関係が有るのかもしれない。

「……その大きなベルト、かっこよくて素敵ですね」

 話題を替えようと、エクシスの艶っぽさを強調する腰に巻かれた大ベルトを褒める。

「これは――」

 ガダンッ! ゴォォォォォォ……

 僕たちが進む先の方から音が響いて、行く先を阻むように強い風が吹きつけてくる。その風は十数秒続き、僕がパカパカに、エクシスがケッペンに身体を預けざるを得ない程の強さだった。そしてチコメコが風にさらわれたと感覚的に理解する。

 目を深く閉じ精神を集中させて、チコメコの感覚を受覚する。特に痛みは感じない。ここと変わらない通路で、近くには魔力抽出所の内郭の地図が張り出されているのが見える。間違いなく、先程通ってきた中庭付近の通路だった。中庭方向からは剣戟のぶつかり合う金属音と短い肉声が微かに聞こえる。

 随分な距離を飛ばされてしまったらしい。合流するにしても、随分と時間を要する。何より先程の音と風の方が気になる。レーデ達が何かをしたに違いないからだ。

「急ぎましょう」

「そうですわね」


 パカパカの手綱を引いて、走り出す。――が、手綱を持った手が後ろに引き戻される。

「どうしたパカパカ?」

 見ると、パカパカの上の小人精霊プーカポカが泣きじゃくっているではないか。

「フゥルルル」

 呼応するようにパカパカも弱々しく鳴き始める。気性を表立って出す事の少ないパカパカが悲しんでいる気がした。

「どうかなさいましたの?」

「パカパカが止まって」

「今の音と風で怯えてしまったので御座いましょう……」

 手綱を引いてもびくともしない。プーカポカも激しく泣いていて、取りつくしまも無さそうだ。

「動かない馬なんて放って置いて行きますわよ!」

 今は一刻も惜しいんだ。パカパカ、プーカポカごめん。そう思いながら、手綱を放して走り始める。

 そこからは慎重さを欠いて急いだ。

 死角のある分かれ道だけ、立ち止まって様子を窺う。

 けれど待ち伏せや罠は何も無く、ついに音を発したであろう場所に到着した。


 魔力抽出システムに直結した、魔力発信所。大陸全土のキューブに魔力転送を行うシステムだ。進入時のヘイブマンの説明によれば、魔法通信の応用で魔力転送をしているらしい。施設地図ではこの先に抽出炉がある。

 広間ほど空間がある円形の部屋の中心には見た事の無い緑色のキューブが十数台整列していた。周囲には計量器のような物がずらりと並んでいる。そのキューブの前に座る黒スーツの女性と男性がひとりづつ。レーデはおらず、修理職員を装っていた人達だった。

 奥には地下へ続く階段があった。その上には階段の蓋となっていただろう巨大な扉が既に空いており、開かれた扉の内側は機械仕掛けの様相を見せていた。階下へ続く階段と僕たちが入ってきた所の他に出入り口はなく、緩やかな風は地下から吹いてきているとわかる。

「足止めに失敗した……という訳では無さそうだが、三人も来たのか。あとどれくらいだ?」

 男がこちらを一瞥して、不愉快そうに黒スーツの女に告げる。

「始めたばかりじゃない。まだ二割といった所よ」

 緑のキューブを操作しながら答える女。

「……ドゥーグ、援護してあげて」

 女が胸に飾った十字架のネックレスに触れて目を閉じる。すると、女の前に黒い風が巻き上がるように昇って行く。黒い風が過ぎた後には、犬の形だけが残っていった。緑の瞳を持ったその黒犬は、低い唸り声を上げていた。十中八九、精霊だ。

「ケッペンは左へ。私は右へ行きますわ。貴方はご自由に」

 そう言うエクシスは緑キューブが占拠した中心より右へ、ケッペンは指示通りに左へ走り出す。ケッペンの向かう先には、既に黒スーツの男が立ち塞がっている。

「見えないってのは、どうもな。でも信用してるぜ、モディ・ドゥーグ」

「ボウ!」

 黒い風を纏った黒犬――ドゥーグは緑キューブの中央で作業している女の下から、あっと言う間に右側の通路へと、滑るように移動した。

 精霊との戦いなんて考えた事は無かったけれど、見えない精霊と戦うなんて不可能だ。一方的になぶられて終わるのが目に見えている。僕はエクシスの後を追って走りだした。

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