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OLFEED ~ギルド職員の仕事~  作者: 植木粘土
III.ギルド職員の真実
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第九日 ギルド職員の約束

 赤い陽の光が差す部屋の中。

 チコメコとの契約後すぐに目が覚めたと願いたかったけど、自分の置かれた状況がそれと一致しない事が明らかだった。清潔感と引き換えにした、殺風景な室内と簡易作りのベッド。消毒アルコールの香りが鼻につく。

「気が付いたかね?」

 ベッド隣の椅子に座っている声の主を見ると、靄のかかった様な精霊契約の続きなんじゃないかと思う。現実と分かっているのに、脳が覚醒を躊躇っているみたいだ。それもその筈、そこに居たのは技工士クラフトマンクエストをよく利用するお得意様にして、リザリア地域の有権者で、僕の遠戚にあたる人物だった。

「あ、の。……どうしてここに?」

「君が倒れたとマルガレットに聞いてね。友人の診療所に運ばさせて貰った」

「マルガが……?」

「アレは私の娘だよ。もっとも、私の言う事も聞かず自分勝手にやっているみたいだが……」

 少し悲しさを含んだ複雑な表情が見えた。

「ところで、私の情報は役に立たなかったのかな?」

「あ、いえ、そんなことは」

 役に立ったかどうかで言えば正直、何の役にも立ってはいない。

「冗談だ。あの程度の情報でどうこうする方に無理がある。……しかし酷くやられた様だね、すまなかった。もう少し早く探りを入れるべきだった」

 マルガの親と名乗る有権者は、一度深く目蓋を落とし、キッと力強い眼つきに変える。

「さてこの件、君は何処まで知っている?」

 沈黙が流れる。

「……友達が魔力抽出所に行ったんです。レーデを止めないと」

 僕は強く目を閉じ、拳を握った。悔しい。止められなかった事が、事情を知らないことが、それともそれ以外の何か……わからない。ただ、後悔を感じる。

「そうか。……奴らのやり方は気に入らないが、事態が事態だけに彼らへの協力も吝かではない。……君の友人には、生きて裁きを受けて貰う事になりそうだが」

 いつもの柔らかい表情に戻して、続ける。

「後は我々に任せて、君は療養に専念したまえ。リキット君」

 そう言って僕の肩を叩き、席を立つ。

 確かに、気を失って倒れた。けどそれは契約によるもので、体調はすこぶる……ではないにしろ、背中の痛みを除けば良好だ。

「僕は……魔力抽出所に行きます。……間に合わなくても、何も出来なくても、邪魔だと言われても、構いません。僕は行きます!」

 焦りが先立つ。どうせここで嘘を吐いても、マルガを通して知られる。それならば正直に言って、認めてもらう方がいい。それにミシェルの事で、助力を得られるかも知れないと思ったからだ。こんなに信頼できる後ろ盾は、僕の知る限り他に無いだろう。

 立ち上がろうとする僕は手で制される。

「無理をするのは止めたまえ」

「……友のため、家族のためと。散々、無茶してきた貴方が言う台詞ですか?」

 扉の無い室内に見覚えのある男が入ってくる。僕が世話になった診療所の医師が入り口の壁に背をもたれていた。

「そうだな、そう言う資格が私には無い。…………私と同じか。わかった、協力しよう」

 そう言って、少し離れた場所にぽつりと置かれた白い戸棚に向かい。胸ポケットから取り出した筆を使って、手紙をしたため始める。


「オスリーさんが協力を惜しまないらしいから、これを持って行くといい」

 医師から布袋を渡される。中には三叉矛の形をした小さな葉っぱが数枚入っていた。

「これは?」

「トライスピード。神経が過敏になる反面、麻酔効果を無効化、若しくは軽減する。覚醒薬の一種だ。……麻酔香を持っているという話だから、その時は葉を噛めばいい。中毒性があるため多用は勧めないが」

「……ありがとうござます!」

 僕はベッドから飛び出して、深々と一礼する。

「残り物だ。礼には及ばない」

 改めて認識させられる。僕は考えが全然足りていなかった。本当に魔力抽出所へ、ただ行くだけになってしまう所だった。


 そうこうしていると、手紙を書き終えて来て、

「間に合ったならば、マセル=ルイラフという男を頼るといい。筋肉の塊の様な大男だ、会えばすぐ分かる」

「ギルドで見かけたので分かります」

「彼を聴聞委員に紹介したのは私だ。きっと力を貸してくれるだろう」

 そう言って、先程書き上げられた手紙を差し出す。僕は指輪で封蝋印された二通の手紙を受け取った。

 一通はマセル宛、もう一通は先行している軍隊宛だ。軍宛の手紙には、馬を一頭手配するよう嘆願書が入っている。軍には出兵を要請したけど、監理外という事で、協力されない可能性もあると説明された。

 長距離を人を乗せて、尚且つ、それなりの速度で長時間走るには、パカパカのようなサラブレッド種には厳しい。脚の太く安定感と持久力に優れた馬が必要になるけれど、最初から同じ条件で進むには僕は出遅れすぎている。軍に追いつくまでパカパカで走り、そこから馬を乗り換えるのが妥当だ。

「マルガは子どもと一緒に君の家で、預かり支度ついでに待っているそうだ。元気な顔を見せてから出発する事、それが私が君に協力する条件だ」

 既に協力を受けているけど、そう言ったのはやっぱり親心なのだろう。マルガにもミシェルにも心配を掛けているに違いない。ミシェルが居るならパカパカも一緒だろうし、どちらにしても家に戻る事になる。


 仮住まいの家屋の玄関口に近付くと、ドタバタという物音が中から聞こえてくる。

「ただいま」

「リキットー! おかえりー!」

 まず飛び込んできたのがミシェルだった。

「おかえりなさぁい。えへへ」

 どこか照れくさそうに笑うマルガの服にはあちこちに埃がついている。

「リキット、コイツが誘拐しようとする!」

 何があったのか聞こうと、口を開きかけたけど、その前になんとなく状況が掴めた。ミシェルには何も言い含めてはいなかった。

「コイツじゃなくてマルガ、ね。……それに僕は少しの間、街を出るから」

「うん! 一緒にレーデ助けに行く」

 全く何も聞いていない訳ではなかったみたいだ。

「ミシェルにはね。マルガたちと一緒にいて貰いたいんだ」

「一緒に行く!」

「駄目だって。ミシェルが危険な目に遭うのは見ていられないよ」

「リキットの方が弱いもん! 一緒に行くの!」

 う~ん、どうなんだろう。ミシェルには負けた相手に向かって行く勇敢さと、武器として精霊としてパンサーという秀でた力を持っている。反対に僕には運動神経はまるで無いし、チコメコの力だって戦闘向きじゃない。だけどミシェルぐらいの子供に劣るものだろうか。

 いやいや、そういう事じゃなくて。

「ミシェルを危ないと分かってる場所に連れて行くわけに行かないだろ?」

「リキットが危ないから守ってあげる!」

 駄目だ。完全に強弱で見ているミシェルに、危険だとか言っても逆効果だと感じた僕は、味方を一人増やす事にした。

 困ったのと同じくらい微笑ましい視線を送って、黙しているマルガに話しかける。

「ごめんマルガ。説得するから少し二人きりにさせてくれない?」

「はいー! ミシェルちゃんの衣服はもう支度してあるので、表で待ってますねぇ」

 束ねられた二本の水色の髪をゆさゆさとなびかせて、ミシェルの服が入っているだろう鞄を抱えて出て行く。


「ミシェル、パンサーを出せる?」

 ん。と軽く返事をして目を閉じ祈るように手を前に据えて、パンサーを具現化する。パンサーこそがミシェルを説得する一番の味方だ。

 今まで何度か見てきたそれを不自然に思ったのは、パンサークローが見え始めてからだった。爪状の武器が見え始めると、それと同時に武器の真横に黒くてもやもやとした物体が濃くなっていく。まるで視界に墨がこぼれ出したみたいだ。

 わざとらしいほどに、何度も目をぱちくりと開閉させても、それは消えることが無かった。より黒くより大きく、最初は虫かと思ったけど、僕のこぶし大ほどになる。

(話は聴いておったが、どうした。何を呆けておる?)

(何かパンサーの横に丸くて黒い何かが……)

(見える様になったか。それは儂だ)

 精霊としてのパンサーということだろう。チコメコと契約したことによって見える様になったみたいだ。

(これが、パンサー? ……ずいぶんと可愛いんだね)

 すすの塊が浮き上がってるだけのようなそれを見て、パンサーの今までの言動が滑稽に思えてしまう。

(む?)

(そうだ、そんな事よりミシェルの説得に協力してよ)

(良かろう…………ミシェルよ。リキットはお主が居ると本気が出せぬのだ)

 ミシェルと僕へ併せて念話を送っているのだろう、そのまま念話が脳に響く。

(リキットの天地を震わせ山河を裂くその本気の力も、お主が隣に居ては使えぬのだ)

「そ、そう。その通り!」

 胡散臭い説得が始まったけど、今のミシェルには一番効果的なのかもしれない。筋肉を盛り上げるポーズとでも言うのだろうか、これでもかと間接を曲げる。勿論、盛り上がる筋肉なんて全然無い。けどローブがそれを隠していた。

 ミシェルはこちらを眉をひそめてこちらを見ている。完全に疑っているようだ。

「僕が嘘を吐いてるように見える? ……ミシェルを騙したことがあった?」

 大人って汚いよね。誤魔化したり、嘘吐いたりしていない訳でもないのに、知った上でこんな風に詰め寄るんだ。でも今回はミシェルのためって事でどうか許して欲しい。

(所詮、リキットの事だ。……ただ街を出て――ただ戻って来る、それだけの話。……そう、所詮はリキットだ)

 二度も言うのか。さっきの引っ掛かったものをここで吐き出そうとしているパンサー。精霊にも自尊心というものがあるみたいだ。

「いやいや、僕は必ずレーデを助けて帰ってくるからね」

 ミシェルは口をつぐんで、じっとこちらを窺っていた。

「……絶対、レーデを助ける?」

 しばらくして開かれた口からはそんな言葉が零れ落ちた。

 ミシェルもレーデを助けたいと心底思っている事に気が付いた。だからこそ真剣に応えた。

「絶対にレーデを助けて連れて帰ってくる。約束だ!」

「ん~~……ん、待ってる」




 急ぐという理由で、家を出て同時にそれぞれの目的地を目指す。追い縋る様な形でミシェルたちは、いってらっしゃいと叫んだ。そう、行って来る。僕はレーデを連れて戻って来なければならない。そういう約束を交わした。例え何が待ち受けようとも、僕の目的はそれだけだ。

 魔力抽出所を目指す。レーデは恐らく二日前に夕方以降に発った。それを追う形で、聴聞委員とマセルそしてネスティ一行が一日前の夕方に。軍が今朝の未明に。僕は日の出後にようやくリザリアを出発した。

 行程だけで言えば既に一日と半分遅れている。間に合うだろうか、それだけが心配だ。

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