--月--日 第十六章「さまさない」
新学期が来た。
私はいつものように起きて制服に身を通す。そして駅まで行き電車に乗って学校へいく。
いつかのように後ろから愛美が抱きついてきたりはしない。
いつかのように青坂くんが挨拶をしてきたりしない。
春の桜が静かに満開を迎えていた。
新しいクラスでは青坂くんと同じクラスになった。
だけど、彼のいるはずの席に彼は座っていなかった。
彼の新しい席が寂しそうに見えた。私はひとりでその席を眺め続けていた。
私は帰りに病院によった。そしてもう何回も入っている病室をノックして入る。
「こんにちはー、青坂くん」
私は軽やかに挨拶をするが、ベッドの中の彼は返事をしてくれない。
そんなのがずっと続いている。
私は寂しかった。
佳奈も転校していった。私は部活には出なくなった。
何もかもが変わってしまったのだ。変わっていないのは私たち以外だろうか。
私は病室の窓から外を見た。暖かそうな景色だった。
夏がきた。
それだけど彼は目を覚まさない。私はそっとうちわで仰いであげる。
「今日ね、家の庭でトマトが採れたんだ。ほら、あげるよ。……食べないの? じゃあ私食べるね」
私はひとりでしゃべり続けた。ずっと、ずっと。
秋が来た。
山が赤く色づいても彼の頬はいつかのように赤くならない。私はそっと彼の頬にキスをした。
「起きてよ……ねぇ。青坂くんっ!」
……彼はそれでも起きようとしなかった。
「私、寂しいよ……」
そして冬がきた。
こないだまで赤かった山木はすっかり葉を散らしていた。
「青坂くん、またアンコンの募集が来ているみたいだよ。今年もチーム組もうよ」
私がどんな言葉をかけても彼は起きなかった。
私はそっと窓によってほっっと息をかける。
「青坂くん……」
そして曇ったガラスに
『I love Yuta』と書く。
……こんな事してももう伝わらないのにね。




