12月25日 第十三章「うそとまこと」
「……」
私は静かに川杉家のドアを開けた。雨に打たれてきたが、寒さも何も感じなくなっていた。頭の中は空っぽだった。
「……先輩」
薄暗い玄関には佳奈が立っていた。いつもと変わらない、落ち着いた様子だった。
「大丈夫ですか」
彼女はそういってタオルを差し出した。私はそれを受け取って顔を拭いた。現実感がなくなっていた。頭がしびれているような感覚がする。
「愛美先輩は警察が検死しています。万が一事件性が――」
「愛美……愛美ぃ……」
私は耐えきれなくなってタオルで顔を覆ってその場でしゃがみ込んで泣いてしまった。
「先輩……私だって……私だって、寂しいですよ。いつも明るい先輩がいなくなってしまって」
「佳奈ぁ……私、どうしよう?」
私は彼女を抱きしめた。どうしようもない絶望感が私を襲った。
「先輩は、ひとつ間違いをしました」
「え……?」
私は彼女から離れる。……彼女の目は見れる気がしなかった。
「先輩は、愛美先輩のことを真剣に考えたことがありましたか?」
「……」
私は正直に答えられなかった。私は愛美のこと、考えてもいなかった。青坂くんのことばっかりで……。
「私から言うのはこれだけです。もうそろそろ――」
その時、ドアの外でバシャバシャという音がした。誰か来る……。
「遅くなってすまない。川杉は?」
「……検死の最中です。奥の部屋で」
「……なんでお前がいるんだ?」
「私が最期に愛美先輩から連絡を受けましたから」
佳奈は何かとありそうだが、あまり気にしてはいけないような気がする。
「行きましょう」
家は静まり返り、雨の降る音だけが聞こえていた。何故か雨の音は私を不安にさせていった。
「……愛美、どうして?」
私は床に向かってつぶやいた。返事は、帰って来なかった。




